精神障害者保健福祉手帳の取得に関する地域間格差の実態研究
○ 日本福祉大学 二本柳 覚(会員番号6983)
北陸学院大学 田引 俊和(会員番号5106)
同朋大学 吉田 みゆき(会員番号4027)
日本福祉大学 野中 猛(会員番号5098)
キーワード: 《精神障害者保健福祉手帳》 《取得率》 《地域間格差》
本研究では、精神保健医療福祉の改革ビジョンに関連し、精神障害者保健福祉手帳(以下、手帳)の取得や利用状況、および手帳に対する意識やとらえ方の特徴を分析し、地域精神保健の充実に向けた改善策を探ることを目的とする。特に手帳の取得状況と手帳の位置づけ、とらえ方や福祉サービスとの関連性に着目し、その実態と改善すべき点を明らかにする。
2.研究の視点および方法本研究ではまず全国の都道府県、および政令市における手帳の「取得率」について算出を試みた。その上で、手帳取得率について特徴的な地域を選定し、それぞれの地域で手帳業務に携わる担当者に直接インタビュー調査を行なった。質問項目については、各自治体の福祉サービスに関する資料と本研究会での提案に基づいて10項目を作成し、半構造化面接により回答を得て内容を記録した。具体的な質問項目は、①障害福祉サービスにおけるこの地域の特徴、②この地域での手帳の位置づけ、③この地域で手帳をもつことの効果・影響、④現行の手帳サービスになるまでの歴史的背景、⑤周辺の社会資源との関係、⑥特に面倒見のよい施設やソーシャルワーカーなどの存在、⑦障害認定区分との関係、⑧身体・知的障害の手帳との関係や格差、⑨この地域の手帳取得率に対する認識、⑩手帳制度への課題、要望である。
加えて、サービスに関わる専門スタッフの、手帳に対する意識やとらえ方の特徴を把握するために、選定した地域内の全ての精神科医療機関、精神障害者社会復帰施設、および関連福祉施設を対象として調査票を用いた量的調査を実施した。調査票の質問項目については、前述のインタビュー調査で得られた回答と本研究会からの提案を参考に、最終的に手帳に関するもの33項目と、障害者自立支援法に関する質問31項目を作成して郵送法により配布回収した。
なお、手帳取得率については明確な数値がないためここでは暫定的に、通院医療費公費負担制度承認数(平成17年)と入院患者数(平成16年6月30日)の合計に占める手帳交付者数(平成17年)の割合を用いた。
調査においては全て事前の連絡、確認を行い、インタビュー実施前には本研究の背景と趣旨、および研究結果を報告する旨を伝えて同意を得た。また調査票については、無記名記入用紙を用い、結果は全て統計的に処理され回答者は特定されないことを記した。
4.研 究 結 果手帳取得率を確認した結果、都道府県(政令指定都市を除く)の平均は47.8%、政令指定都市(静岡市を除く)の平均は56.7%であった。このうち本研究では手帳取得率の高いA県(78.1%)とB県(64.0%)、低いC県(34.5%)、平均的なD県(49.6%)、政令指定都市の代表としてE市(66.7%)を調査対象地域とした。
インタビュー調査を経て5つの地域内全ての精神科医療機関、精神障害関連福祉施設を対象に調査票を用いた量的調査を実施した。郵送法により配布、回収を行い合計配布数は788、回収は316(回収率40.1%)であった。はじめ手帳に関する33の質問項目について因子分析を行なった結果、6つの因子が抽出された。各因子はそれぞれ、「因子Ⅰ:手帳取得の効果」、「因子Ⅱ:手帳とサービス利用」、「因子Ⅲ:手帳サービスの理解」、「因子Ⅳ:消極的・否定的意識」、「因子Ⅴ:等級判断・認定区分」、「因子Ⅵ:取得への意識」と確認され、6因子の累積寄与率は52.741%であった。
その上で、本研究で対象とした5つの地域について各因子の得点を用いて多重比較を行なった結果、サービスに関わる専門スタッフの意識が地域間で差があることが確認できた。具体的には、手帳取得による効果や、取得による良い影響を示す「手帳取得の効果」への意識は、手帳取得率の低いC県が取得率の高いA県、B県、E市と比べて有意に低くなっていた。
なお、今回の調査から地域間で精神保健福祉手帳の取得率に差があることが確認でき、同時にサービスに携わる専門スタッフの意識においても地域間で差がみられたが、このことが実際に利用者の生活やQOLにどのように影響しているのか検討を行なえていない。加えて、今回は県全体という枠組みで調査を行なったが、これを福祉サービスの圏域などの単位を対象とすれば別の結果が得られた可能性は否定できない。継続研究の課題とする。
本研究は厚生労働科学研究(こころの科学研究事業)精神保健医療福祉の改革ビジョンの成果に関する研究の一部である。