自由研究発表障害(児)者福祉3  大谷 京子

精神保健福祉士の実践評価指標開発のための基礎調査
-「対象者観」「アイデンティティ」「関係性」が実践に及ぼす影響-

日本福祉大学  大谷 京子(会員番号2998)
キーワード: 《精神保健福祉士》 《精神保健福祉士》 《項目反応理論》

1.研 究 目 的

精神保健福祉士の資格化がなされて10年が経過し、その業務領域も拡大しているが、いまだに「準専門職」に位置付けられ、対外的評価や認知度も充分に高まったとは評価できない現状である。ソーシャルワークのフィールドは多岐にわたり、個人の多様な「生活」や、集団や地域といった次元の異なる「目標」に焦点を合わせるため、その実践評価は極めて困難である。しかし現場では誰もが認める質の高い実践が展開されており、それは可視化され伝達可能な形にすべきだと考えた。
  そこで精神保健福祉士(以下PSW)の実践の要とされている、PSW-クライエント注1)関係に焦点を絞り、それに影響を与える要素と、関係性が実践にいかに影響するかを明らかにすることを目的に調査を行った。

2.研究の視点および方法

わが国では実証調査がほとんどなされていないため、Mixed methodを用いた。まず質的調査で精神障害当事者の「理想のPSW像」を明らかにした(大谷、2005)。さらに帰納的に現在なされている実践を把握することを目的に、ベテランPSWを対象にインタビュー調査を実施した(大谷、2007)。以上の質的調査と、先行研究レビューの結果から、PSWがクライエントをいかに捉えるかという「対象者観」、PSWが自身をいかに規定するかという「アイデンティティ」、そして「PSW-クライエント関係」が実践を支える大きな概念であることが明らかになった。
  3つの調査で得られたデータからPSW実践目録を作成し、そこから個々の概念について質問項目を作成し、アンケート調査を実施した。その結果、「責任主体」と「知と力を持つ存在」で構成される「対象者観」と、「脱専門性」と「援助者」因子で構成される「アイデンティティ」が、「双方向」と「専門的援助関係」から構成される「関係性」に有意に影響を与えていることが明らかになった(大谷、2009)。
  今回は以上の調査を踏まえ、実践評価指標を加え、「対象者観」「アイデンティティ」「関係性」がいかに影響を与えるかを明らかにするため、さらに質問し調査を実施した。X県精神保健福祉士協会会員475名を対象に、2009年2月27日に発送し、3月末日まで回収した。回収された調査票は190部、1潜在変数すべての項目に回答がなかったものを除くと186票、有効回収率は39.1%だった。分析はMplusVer5.2を用いた。

3.倫理的配慮

研究倫理指針に基づいて実施している。

4.研 究 結 果

個々の潜在変数についてカテゴリカル因子分析(重みづけのない最小二乗法、プロマックス回転)を行った。「対象者観」については「尊敬」「被保護者」「責任主体」「啓発義務を持つ存在」の4因子を抽出した。「アイデンティティ」については「連帯者」「権威ある専門家」「中立的立場」の3因子を抽出した。「関係性」については「パートナー」「専門的援助関係」「不変の信頼関係」「対等」の4因子を抽出した。「実践」については、「コミュニティワーク」「ケースワーク」「グループワーク」「本人不在の援助」の4因子を抽出した。
  それぞれの因子について項目反応理論を用いて被験者母数を算出し、共分散構造分析を行った。その結果、関係性が実践に大きく影響を与えていることが明らかになった。モデル図は当日報告する。
  今回の調査ではサンプル数が不足しているため、結果が不安定であることは否めない。今後は、再度大規模な量的調査をし、項目の精緻化をはかり、現任PSWが実践の振り返りのために使える尺度としていきたい。
  注1)精神障害当事者はソーシャルワーク関係を形成する一方の主体であり、パートナーでもありうるが、それらを踏まえ本稿では呼称として、「クライエント」を用いる。
  参考文献
大谷京子、(2005)「精神障害当事者から求められる精神科ソーシャルワーカーのあり方と当事者との関係性―当事者を対象としたフォーカスグループインタビューより―」『ソーシャルワーク研究』31(1)45-52、2005
大谷京子、(2007)「精神科ソーシャルワーカーの実態―ベテランPSWのインタビュー調査より―」『精神保健福祉』、38(4)397-405、
大谷京子、(2009)「精神保健福祉士の対象者観とアイデンティティがワーカー-クライエント関係に与える影響-精神保健福祉士実践評価指標開発のためのアンケート調査結果-」『精神保健福祉』投稿中
  本調査は、平成20年度文部科学省科学研究費基盤(C)の補助金を受けて実施したものである。

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