自由研究発表障害(児)者福祉2  青木 聖久

社会保険労務士の活用に着眼した精神障害者の生活支援
-障害年金を入口にして-

日本福祉大学  青木 聖久(会員番号3831)
キーワード: 《障害年金》 《精神障害者》 《社会保険労務士》

1.研 究 目 的

精神障害者の生活支援については、1980年代後半以降の実践及び研究動向から多くの示唆を得ることができる。その代表的なものが、「働く場・住む場・憩いの場」(谷中1996:221)1)、「住む場・働く場・所得保障・交流の場・在宅福祉サービス・権利擁護」(田中2001:266)2)等である。そのようななか、筆者はこれらの動向及び自らのPSWとしての経験から、所得保障に注目した。なかでも、その中心に位置付いているのが障害年金であり、そこには以下の6点の意義があると捉えている。
  ①生活の基礎的な部分への充当, ②社会的扶養の実感, ③生活の拡がり
  ④現実感の芽生え, ⑤視点の変更による障害受容, ⑥支援者との信頼関係の構築
  このような意義があると考えているものの、精神障害者が障害年金を受給するためには、障害状態要件と保険料納付要件の2つの条件を満たすことが必要となる。だが、実態としては、これらの条件を満たさない者が少なくない。加えて、制度そのものを知らない者やスティグマとしての価値観から障害年金受給を躊躇している者もいる。精神障害により障害年金を受給している者は約47万人と推測することができるが(青木2008:122)3)、これは精神障害者全体の数からすればあまりにも少ない。
  これまで、障害年金受給支援についてはPSW等の支援者が関わることが多かったと思われる。しかし、支援者が必ずしも精神障害者の個々の受給要件の可能性に迫れていたとはいえない。そこで着目したのが、障害年金のプロとしての社会保険労務士である。社会保険労務士は障害年金もさることながら、労務管理のプロとして企業経営者と精通していることをはじめ、従来の精神保健福祉の関係者と精神障害者との二者関係では想像もつかない可能性を有する。これらのことから、本研究では、社会保険労務士の活用を通して、一次的には障害年金受給の拡大に向けて、そして、二次的には社会保険労務士が帰納的に生み出すものについて明らかにすることを目的とする。

2.研究の視点および方法

①社会保険労務士への障害年金の相談依頼は、精神障害者や家族はもとより支援者にとってもイメージできないことが多い。そこで、社会保険労務士を活用する際のフローチャートを資料等から提示する。
  ②社会保険労務士にインタビューを実施し、専門性に迫る。特に、社会保険労務士が専門性として保有する障害年金等の知識や関係機関とのネットワークの構築等の技術、基盤としての価値について明らかにする。
  ③精神障害者、家族、PSW等の支援者に対して、社会保険労務士による障害年金の講演会を実施する。そして、そこでの講演及びその後の質疑応答を通して、社会保険労務士の専門性と精神障害者の障害年金受給の実態について概観把握をする。
  ④上記講演会において、参加者から障害年金についての認知及び意識調査を実施する。その結果の分析を通して、社会保険労務士を活用することの有効性について考察する。

3.倫理的配慮

本学会の「研究倫理指針」に準拠して倫理的配慮を行っている。調査においては、事前に趣旨及び概要説明をして同意を得ていると共に、その結果については研究以外の目的に用いないことについても説明をした。

4.研 究 結 果

社会保険労務士はPSW等と異なり、医療機関等に所属していることは殆どない。そうではなく、個人開業している者が多い。したがって、実際活用することになると、報酬が必要になる。となると、従来「福祉は無料」のような価値観が根強い精神障害者や家族はもとより支援者にとっても、「障害年金受給の活路が開けるのでは」という思いを抱きつつも、躊躇することが珍しくない。しかし、障害年金は、基本的に申請月の翌月からの支給となる。ということは、社会保険労務士に相談することによって、申請が3ヶ月早まれば、その余分に受給できる分を報酬に充当することが可能となる。また、社会保険労務士のなかには、障害年金の相談を精神障害者の生活全体との関係性の中で捉え、雇用保険をはじめとする他の制度の活用や就労支援を行っている者もいる。加えて、精神障害者やPSWに対して、自らが関わるまでもないケースであると判断した場合は、社会保険労務士が無報酬の助言を与えることもある。
  以上のことから、社会保険労務士は障害年金の申請を代行的に行う、という社会資源にとどまらない。そうではなく、PSW等が生活支援を行う際、一つの社会資源として、障害年金受給の困難ケースに対して直接活用できるばかりか、それらの知識や技術を知ることによって、支援者のスキルアップ等の間接的な活用にもつながる。いずれにしても、精神障害者の生活支援において、社会保険労務士は新たな風穴を開けることができると期待できるが、その鍵を握るのはあくまでもPSW等の支援者次第であるといえよう。
  【註】
  1)谷中輝雄(1996)『生活支援』やどかり出版.
  2)田中英樹(2001)『精神障害者の地域生活支援』中央法規.
  3)青木聖久(2008)「社会保障-年金-」精神保健福祉白書編集委員会編
   『精神保健福祉白書2009年版』中央法規.

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