自由研究発表障害(児)者福祉2  小野 隆一

矯正施設を退所した知的障害者の地域生活支援に関する研究
-地域生活における自立に向けた効果的な支援体制と必要な機能-

国立のそみの園  小野 隆一 (会員番号7641)
キーワード: 《受刑中の支援の開始》 《地域生活移行》 《合同支援会議》

1.研 究 目 的

矯正施設(刑務所・少年院等)に入所している知的障害者の実態について法務省の調査(H18年度)によれば、調査対象となった刑務所入所者27,024人のうち知的障害者又は知的障害が疑われる者が410人、うち療育手帳所持者が26人であること、また親族等の身元引受人がない満期釈放は約7,200人、うち高齢者又は障害を抱え自立が困難な者が年間約1,000人いることがわかってきた。 
 矯正施設に入所中において知的障害などにより福祉サービスの受給資格があるにも係わらず手続きを行うことなく、福祉側もまた当該障害者が矯正施設に入所していること自体を知らずに、当然受給できるはずの福祉サービスがないまま、住む場所もなく所持金もほとんどなく満期釈放され、結果的に罪を犯してしまった時と同じ環境に置かれ、再犯を繰り返していることが実態として浮かび上がってきた。
 このため、知的障害者の再犯を防ぎ、地域生活移行を推進するために、どのような機能を持った支援体制を整備することが効果的であるか、その体制のあり方と必要な機能について研究を行った。

2.研究の視点および方法

高齢者や障害者の犯罪の再犯率の問題が、国の政策的課題になっていることから再犯防止の面が重視され、矯正施設の後も福祉施設で収容すること自体が目的とされがちである。しかし、本来の目的は対象者の能力・意欲に合わせた地域での自立生活であり、施設利用はあくまで矯正施設と地域との中間的位置づけである。この研究での効果的支援や個別支援計画は施設生活の安定ではなく、地域生活に向けての支援内容であることとした。
 方法として、本法人としてモデル的に実際に矯正施設から直接受け入れ(平成20年2月と平成21年2月に少年院及び刑務所より2人を受け入れた)、支援・研究チームにより、受け入れ準備、支援プログラムの作成、生活の場を居住棟・職員宿舎・施設外体験ホームとした段階的支援の実践、職業訓練・職場実習等の就労支援の実践を行うと同時に、その支援プロセスとなる、①矯正施設入所中、②刑務所から福祉施設、③福祉施設利用中、④福祉施設から地域へと段階的にどのような現状の課題と対応策があるかについて調査・研究することとした。

3.倫理的配慮

受刑者の個人情報であり、厳密に保護することとした。当該する刑務所・少年院及び保護観察所と本研究を行う法人との間で、個人情報保護に関する協定書を締結したほか、本人からも個人情報を本研究対象としての提供や、発表についての同意書を得ている。
 さらに、個人情報を管理するため専用パソコンとプリンターを配置し、他の機材とネットワークを結ばないことで流失防止に努めた。

4.研 究 結 果

実態調査と実践の中から、法務省の矯正・更生保護事業と障害福祉の福祉サービスの制度的狭間の実態は明らかになってきた。一方、各機関が互いに歩み寄ることで、再犯防止や地域生活自立など同一線上目標を効果的に実施することの可能性を見い出せた。さらに、その中での福祉施設の役割・機能についても明らかになりつつある。
  また、具体的な支援を実施する上で次の項目について検証・考察した。
  ① 緊急的な受け入れ
  ② 個人情報の共有
  ③ 福祉サービスに求められていること
  ④ 罪を犯した者を受け入れるという不安からの解消
  ⑤ 合同支援会議の有効性
  ⑥ 更生援護の実施者の決定
  ⑦ 福祉制度上の身元引受者の決定
  ⑧ 契約制度の限界
  ⑨ 本人への福祉情報の提供/福祉制度の刑務所職員への周知
  ⑩ 施設のリハビリ機能(安心感=キーパーソン)
  ⑪ 施設のリハビリ機能(社会性)
  ⑫ 地域社会生活に向けた段階的支援の必要性
  ⑬ 地域移行先の確保
  ⑭ いつでも受け入れる福祉施設(セフティーネット)としての機能の必要性
  ⑮ 幼少年期における適正な療育支援の必要性 
  ⑯ 家族支援の必要性と二次的障害
  特に、合同支援会議については、入所中に関係者(刑務所等矯正施設、保護観察所、援護の実施者の市町村、福祉関係事業所)が一堂に会しそれぞれが保有している本人に関する情報を共有して、お互いの役割を確認し、本人の退所後の地域生活において、円滑に福祉に繋げることにある。結果として、本人に関する共通認識のもと、矯正施設を退所すると当時に福祉サービスが受給できるような手続、地域生活移行に向けた具体的個別支援計画の作成に繋がった。平成21年度に全国に設置される計画である「地域生活定着支援センター」の機能の一つとして、この合同支援会議が開催されることが期待されている。

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