知的障害者の地域移行支援の過程に関する研究
-本人、保護者、社会資源への取り組みに焦点を当てて-
○ 国立のぞみの園 相馬 大祐(会員番号6655)
国際医療福祉大学 松永 千惠子(会員番号4825)
キーワード: 《知的障害者》 《地域移行支援》 《地域生活体験支援》
「障害者自立支援法」では、「市町村障害福祉計画」の策定の際、入所施設あるいは精神科病院からの地域移行者の推計を入れることを定めている。また、2003年に策定された「重点施策実施5か年計画」(前期)において、「入所施設は真に必要なものに限定し地域資源として有効に活用する」と定めている。すなわち、現在のわが国では、入所施設整備抑制と地域移行支援は、国をあげた課題という様相を呈している。
このような状況において、地域移行支援の過程を明らかにする必要性が考えられる。先行実践や先行研究では、地域移行支援の過程について、いくつかの報告がされており、一定程度の蓄積があると言える。知的障害者に対象を限定した場合、実践では地域移行支援の過程を図式化しているものが多々ある。また、研究においては、地域移行に向けた支援活動の構成要素を検討しているものがある。しかし、これらの先行実践、先行研究の多くは、多様な支援をまとめあげたものであるため、地域移行支援において何が課題とされ、その課題に対してどのような支援を行っているのか、また、課題への対応がどのように順序立てられて行われているかという、その過程については明らかにされていない。
そこで、本研究では、地域移行支援が実際にどのように行われているのか、支援の過程を明らかにすることを目的とする。また、地域移行支援の様々な課題に対して、どのような支援を実際に行っているのか、具体的には、先行研究で得られた障害当事者本人(以下、本人と略記)、保護者、社会資源が抱えているそれぞれの課題に対する地域移行支援を明らかにすることを目的とする。なお、本研究において、地域移行支援とは、入所施設からグループホームやケアホームなどの生活の場に移行する支援とした。
先行研究で地域移行支援は、多様な課題があると指摘されている中で、本研究の視点としては、①本人が抱えている課題、②保護者が抱えている課題、③社会資源が抱えている課題の三点に絞り、それぞれの課題に対応した地域移行支援とその過程を明らかにする。
本研究の調査方法としては、国立のぞみの園で地域移行を担当している、または担当していた職員5名に対して、職員自身が担当した事例の地域移行支援の流れについて聞き取り調査を行った。その際、地域移行支援の流れを把握できる項目、「どのような利用者であったか」、「何が困難でどのように対応したのか」等を使用し、半構造化面接を行った。なお、面接時間は、1時間から2時間程度であった。また、多くの事例を担当した職員については、数回に分けて面接を行った。その結果、15名の事例の聞き取りを行うことができた。以上の面接調査の結果、逐語トランスクリプトを作成した。この逐語トランスクリプトと調査時に記入したメモを分析対象とした。分析は、国立のぞみの園地域移行課でまとめ、整理された資料と先行研究、先行実践を参考に、地域移行支援過程に着目してコーディングを行った。
事例の取り扱いについては、日本社会福祉学会研究倫理指針に則り、対象者を特定できないように匿名化するなどの配慮を行った。
4.研 究 結 果本研究の結果として、まず、国立のぞみの園で行われている地域移行支援過程の項目一覧表を作成した。それぞれの項目は、①支援理念、②対象者の決定、③地域生活体験支援、④社会資源の確認、確保、開発、⑤保護者への支援(直接的な関わりを持つ支援、間接的な関わりを持つ支援)、⑥移行先事業所との連携、⑦移行先行政との連携、⑧移行後の支援とした。また、時期区分については、本研究の対象事例となった15事例に共通して行われた支援について、共通した時期には行われておらず、時期区分に一致性はなかった。そこで、本研究では、時期区分としては、全ての時期に共通する支援理念については、「すべての時期」とし、地域移行支援が始まる直前の段階を「移行開始期」、地域移行の支援が行われている時期を「移行期」、グループホームやケアホームに実際に生活をしてからの時期を「移行後」と定めた。
次に、先述したように、本人、保護者、社会資源がそれぞれ抱えている課題に焦点を当て、事例毎に課題の有無とその課題にどのように取り組んだのかについて把握した。その結果、15事例中に課題がほとんどないと考えられた事例は1事例であり、本人が何らかの課題を抱えていると考えられた事例が3事例、保護者が何らかの課題を抱えていると考えられた事例が6事例、社会資源が何らかの課題を抱えていると考えられた事例が1事例、課題が複合的にあると考えられた事例が4事例であった。
まず、本人が抱える課題としては、本人の能力、またはこだわりなどの課題と、本人の地域移行への意欲についての課題があり、それらに対して、地域生活体験ホームなどでの地域生活体験支援が行われ、課題を解消していた。保護者が抱える課題としては、地域移行へ拒否的な態度をとる保護者への対応と直接的支援が必要な保護者の存在が明らかとなり、双方にとって、直接的な関わりを持つ支援が行われ、課題を解消していた。次に、社会資源が抱える課題としては、移行先の社会資源が不足していることが課題としてあり、その対応として、移行先の市町村、事業所と密な連携を行うことより、社会資源の情報を得て、課題を解消していた。また、複合的に課題を持つ事例については、以上の実践を組み合わせて行っていたが、地域生活体験支援がはじめに取り組まれていた。
最後に本研究は、対象事例を国立のぞみの園の事例に限定しているため、得られた研究結果を一般化することは難しいと言える。今後、他施設への質的・量的調査を行い、一般化に向けた研究を行うことが課題となる。