自由研究発表障害(児)者福祉1  田原 雄二

知的障がい者の生活ニーズから見るソーシャルワーカーの役割について
-A市における相談支援の実践から-

(社福)日本キリスト教奉仕団アガペセンター  田原 雄二(会員番号6269)
キーワード: 《知的障がい児者》 《生活ニーズ》 《相談支援》

1.研 究 目 的

2006年10月に完全施行された障害者自立支援法において、地域で生活する障がい者への相談支援が「地域生活支援事業」として市町村事業に位置付けられた。障害者自立支援法第1条には、「障害者及び障害児がその有する能力及び適性に応じ、自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、必要な障害福祉サービスに係る給付その他の支援を行」うことが掲げられているが、実際に知的障がい者が「自立した日常生活又は社会生活を営む」ためには、本人の生活の細部に渡り、そのニーズに寄り添ったきめ細かい支援が展開されなければならない。
  発表者はA市の委託を受けた事業所において、2年以上に渡りソーシャルワーカーとして知的障がい者の相談支援を行ってきた。今回の研究においては、2007年度及び2008年度の2年間の相談支援の実践から、A市の知的障がい者がいかなる「生活ニーズ」を有し、それらのニーズに対してソーシャルワーカーがどの「支援レベル」で関わったのかを統計的に明らかにすることにより、今後地域で生活する知的障がい者への相談支援を展開していく上でのソーシャルワーカーの役割について検討することを目的とした。

2.研究の視点および方法

ここで取り上げる知的障がい児者は、2007年度及び2008年度に発表者が相談支援にかかわった75名の利用者(両年度にまたがっている者10名含む)とする。
  まず「生活ニーズ」に関しては、先行研究や文献などを参考にしながら、発表者の私見も若干取り入れて、①生活基盤、②医療・健康、③日常生活、④家族支援、⑤コミュニケーション・対人関係、⑥社会生活技能、⑦社会参加、⑧教育・就労の8つに分類した。次に「支援レベル」については、A見守り・助言レベル、B情報提供レベル、C側面支援レベル、D連絡調整(ケアマネ)レベル、E権利擁護(危機介入)レベルの5段階を設定した。
  そして「生活ニーズ」と「支援レベル」のそれぞれの項目についてクロス集計を行い、利用者の生活ニーズの傾向、ソーシャルワーカーの支援傾向、さらには両者の関連性の有無について分析を行った。

3.倫理的配慮

倫理的配慮として、日本社会福祉学会研究倫理指針に則り、データの収集及びその取扱いにあたっては、利用者個人の氏名、居住地等が特定されないようプライバシーに十分配慮した。

4.研 究 結 果

まず、全体としては、2007年度及び2008年度に関わった利用者75名対して延べ329回の支援を行い(1回につき複数の生活ニーズへの支援あり)、2008年度は2007年度の2倍近い回数となった。
  次に、利用者が有する生活ニーズに関しては、社会経験を積むための訓練などが含まれる「社会生活技能ニーズ」が最も多く、次いで「社会参加ニーズ」、「家族支援ニーズ」が他の項目に比べて多かったが、「日常生活ニーズ」や「コミュニケーション・対人関係ニーズ」は極端に低かった。当然ケースバイケースではあるが、「日常生活ニーズ」については、身辺自立や家事援助などの内容が含まれるが、これらは主にホームヘルパーなどの居宅介護事業者によって対応され、「コミュニケーション・対人関係ニーズ」については、主にその利用者が所属する施設や企業の職員等によって対応されるニーズであることが示唆される結果となった。
  一方、「支援レベル」に関しては、施設や制度、専門機関などを紹介する「情報提供レベル」と「連絡調整(ケアマネ)レベル」が多かった。また「生活ニーズ」と「支援レベル」との関連性では、「家族支援ニーズ」、「社会生活技能ニーズ」が「見守り・助言レベル」または「情報提供レベル」での支援が多かった反面、「社会参加ニーズ」、「教育・就労ニーズ」は「連絡調整(ケアマネ)レベル」での支援が多く、この2つのニーズに対しては、複数の専門職・機関が加わったネットワークとしての関わりが特に重要であることが明らかとなった。ソーシャルワーカーの役割として連携・調整(コーディネート)が重要視されているが、地域の知的障がい者の相談支援においてもその役割が重要であることが裏付けられ、発表者自身にとっても今後の業務遂行に向けて一定の示唆が与えられたと考えている。
  なお「生活ニーズ」の傾向は地域の特性、年齢などの要因によって差異が生じることが考えられる。社会資源が充実している地域とそうでない地域、あるいは学齢期と中高年期の知的障がい者では必要とされるニーズは当然異なるであろう。地域ごとの比較検討や 年齢別での分析などが今後の残された課題として提示しておきたい。

↑ このページのトップへ

トップページへ戻る


お問い合わせ先

第57回全国大会事務局(法政大学現代福祉学部)
〒194-0298 東京都町田市相原町 4342

受付窓口

〒170-0004
東京都豊島区北大塚 3-21-10 アーバン大塚3階

株式会社ガリレオ 学会業務情報化センター内
日本社会福祉学会 第57回全国大会 係

Fax:03-5907-6364
E-mail: taikai.jsssw@ml.gakkai.ne.jp