障害者通所施設における重度重複障害者の医療的ケア
-公立障害者通所施設調査から-
調布市福祉健康部障害福祉課 山本 雅章(会員番号6588)
日本福祉大学大学院福祉社会開発科社会福祉学専攻
キーワード: 《医療的ケア》 《重度重複障害者》 《公立通所施設》
重度重複障害者が,自宅で暮らし社会に参加するためには,その支援のしくみの整備が生活介護や更生施設等の通所施設(以下「通所施設」)を含めて問題となる.特別支援学校ではすでに国の「盲・聾・養護学校におけるたんの吸引等の取扱いについて(協力依頼)」(厚生労働省2004)により,一定条件下での教員による吸引や経管栄養などの実施が容認され,医療的ケアは定着している.しかし,卒業後に通所する施設においては医療的ケアの実施の可否や実施の根拠,その手法に関する研究が不十分で理論的解明もこれからの課題である(飯野2006).そのため,東京都区市(以下「自治体」という)においては,公立通所施設などで医療的ケアを要する卒業生を受け入れているところもあるが,人的整備や法的解釈,医療との連携等に悩んでおり,東京都の自治体としては自宅に暮らす重度重複障害者の日中活動の対応は手探りの状態にある(東京都2007).本研究では,障害者の豊かな日中活動を保障することは社会の責務であるという見地から自治体における重度重複障害者の問題に注目し,通所施設における重度重複障害者の受け入れの実態や医療的ケア問題の実情を把握することを目的とした.
2.研究の視点および方法東京都では特別支援学校在校生の三割が何らかの形で医療的ケアを要する状況となっている.医療的ケアを要する障害児が学校を卒業した場合,その多くは地域の通所施設を希望しており,通所施設での医療的ケアの重要性が高まっている.こうした状況の中,住民の要望に応える形で医療的ケアを実施する通所施設が主に公立通所施設などで見られるようになってきている.
本研究ではこうした公立通所施設における重度重複障害者受け入れの現状を明らかにするとともに,医療的ケアがどのように取り組まれているのか,また,取り組まれている場合どのような利点や困難さがあるのかなどについて把握する.そのために,東京都通所活動施設職員研修会医療的ケア研究会として2008年に東京都内通所施設を対象に医療的ケアの実施状況調査を実施した(筆者も共同研究者として参加).本報告では公立施設の調査結果を分析・考察した
調査においては,社会福祉学会倫理指針遵守し,調査目的を明示し,調査結果については統計的に処理することとした.
4.研 究 結 果本調査では,156施設を対象に79施設から回答を得た(有効回答率50.6%).
回答した79通所施設のうち33施設で必要な医療的ケアが必要な通所者がいた.加えてそれら施設で,29施設が施設内で施設関係者が何らかの対応をしていた.
また,医療的ケアを要する通所者を受け入れている通所施設に,医療的ケアの実施を検討する場合の不安や課題について聞いた.人員体制が最も多く(65.7%),次に医療機関との連携(55.3%)であった.また,法的解釈,研修体制などもについて不安感を有する施設がそれぞれ34.2%あった.加えて「受け入れ・対応について必要性は感じているが,現状では困難と考えている」と回答した通所施設にその理由を聞いた結果,人員等の条件整備(64.3%),経費(57.1%)が多く挙げられており,条件整備が課題になっていた,
次に,施設職員が医療的ケアに取り組んでいるとした施設,27の施設(以下「実施施設」という)に対しての回答を検討する.
医療的ケアを実施している通所施設は,2000年以降年々増加し2004年以降実施した施設が約半数を占めていた.また,医療的ケアを実施している職員の職種は,看護師などに限定している施設が44.4%であり,ケアの内容によっては医師や看護師と連携のもと福祉職や介護職が実施しているところも1/3あった.しかし,医療的ケアの実施に係る要綱や基準を作成している施設が59.3%あるものの,作成していない施設も37.0%あった.
公立通所施設での医療的ケア実施施設は年々増加し,その取り組みは広がっていると考えられる.しかし,国が特別支援学校に示されたような,教員よる医療的ケアを容認した通知はもとより,実施責任を負う自治体からの方針や方向づけがなされている施設は少ない.各施設が独自に取り組まざるを得ない状況であり,人的体制や医療機関の連携などの不安が課題となっていることが明らかになった.
医療的ケアを要する重度重複障害者が特別支援学校卒業後も自宅で暮らし続けられるためには,通所施設が彼らを受け入れ一貫した支援を行うことが必要である.そのためには,自治体が地域の福祉課題として医療的ケアの問題に取り組む視点が必要である.
そこで,公立通所施設においても特別支援学校が実施している医療的ケアの統一的な基準や対応方法に学びながら,自治体が医療的ケアの基準などを定め人的配置や研修体制などの条件整備を図ることが必要である.こうした条件整備を前提に,安全確実な医療的ケアを現場で積み重ねていくことが,国を動かし法的制度化につながると考える.