自由研究発表障害(児)者福祉1  山下 幸子

障害者介助と資格に関する一考察

淑徳大学  山下 幸子(会員番号4434)
キーワード: 《介助》 《資格》 《専門性》

1.研 究 目 的

現在の高齢者や障害者への介助における課題を要約すれば、「人材の量的確保」と「質の高い人材育成」となるだろう。2009年2月に開催された「障害福祉サービス費等報酬改定及び障害者自立支援給付支払等システムに関する都道府県等・国保連合会合同担当者説明会」では、2009年度の障害福祉サービスの報酬単価引き上げ案が発表されたが、そこでは「良質な人材の確保」のために、福祉・介護人材の処遇改善を目指しての報酬単価引き上げとともに、介護福祉士・社会福祉士など有資格者配置への一定の加算が示された。
  「良質」な介助のためには、人材の量的確保と質の高さ(専門性)の二つが求められている。たしかに介助の人手は必要であるし、仮に介助の量が十分であっても、それが劣悪であってはならないことは確かだ。しかしここで考えたいのは、質の高さの判断材料に資格の有無が用いられがちだが、その結びつきは自明で不可分なのかということだ。
 介護の資格としては、国家資格としての介護福祉士をはじめ、ホームヘルパー資格、障害者自立支援法に基づく重度訪問介護従事者資格や行動援護従事者資格等がある。こうした資格を有することは何を意味するのか。 第一に、現実問題として支援費制度以降、有資格者でないと報酬単価に則った介助を行えないということがある。つまり介助者として賃金を得ようと思えば、無資格者ではいられないのだ。第二に、実習をはじめとする一定の教育プログラムを受講の末に資格が取得できることから、資格は介助に関する専門的な知識や技術を身につけた者だという証明として機能する。そしてこの点と関連して、第三に資格取得が社会的評価につながるということである。
 こうして資格取得は介助労働をするための要件とみなされ、さらに専門職としての質を担保するために機能すると考えられている。介助者の社会的地位を引き上げるためにも重要視されている。もちろん、知識や技術があるのは必要なことなのだが、介助は個別の関係性を通して良いか良くないかが決められていくもので、極めて個別性の高いものである。介助の質を高めていくことは重要だが、その方法は資格取得だけなのか。
  こうした問題を強く主張してきたのが、障害当事者による自立生活運動である。自立生活運動は障害をもたない専門家が障害者の生活を指導したり決定することを明確に拒否し、生活の様々な場面において障害者自身の主体性を尊重するための運動を重ねてきた。こうした運動の軌跡に沿いながら、障害者介助と資格制度について考えることを本研究の目的とする。

2.研究の視点および方法

本研究は、障害者運動が資格制度や介助の専門性をどのように考えるのかを、障害者運動の理念や展開から考察するものである。方法としては文献研究とインタビュー調査を主に行う。障害当事者が求める介助の理念や実際について論じられた文献とともに、行政交渉の展開を知る上で、障害者自立生活・介護制度相談センターによる『全国障害者介護制度情報』を中心とした文献を活用する。
 また文献で得られた知見を、障害当事者が主体となる介助派遣事業所へのインタビュー調査を通してさらに現実に根ざしたものとする。

3.倫理的配慮

日本社会福祉学会研究指針に則った倫理的配慮を行う。文献研究にあたっては引用等のルールを厳守する。またインタビュー調査においては、聞き取り対象者による本研究のチェックとともに、プライバシーに十分配慮する。

4.研 究 結 果

障害者介助において直接的に資格の有無が問われてきたのは2003年の支援費制度からだった。居宅介護において介助者には、介護福祉士資格、ホームヘルパー資格、(支援費制度下での)日常生活支援従事者研修受講等が必須となり、学生など無資格の介助者によって成り立ってきた障害者の生活は混乱に陥った。
 1970年代からの障害者運動は、障害をもたない専門家主導の支援のありようを否定し、障害者自身が介助の内容を決め、介助者養成やその管理を中心的に担うことを目指してきた。それは障害者が自らの生活を自らが主体となって行うために必要なことだった。
  障害者運動の成果の一つが自薦ヘルパー方式の展開だった。これは障害者自身が確保した介助者を登録ヘルパーとして推薦するもので、登録された介助者は推薦した障害者のみの介助を行うものである。身体介助やコミュニケーションの方法は一人一人異なる。一律に研修を受けて介助者を養成する方法には適さず、長い時間をかけて障害者と介助者とが関係を作り上げていくなかで、介助方法や障害者が生活に求めることを介助者に伝えてきた。それだけ、障害者運動においては介助における個別性を重視してきたのである。
  介護技術は汎用性のある、誰にでも適用可能なものだとは言い切れない。障害者と介助者との相互作用のなかから"その人に応じた専門性"が作り上げられるのではないか。介助労働の社会的評価を上げ、報酬を上げて介助者の生活を安定させるのは、障害者の生活の安定に不可欠だ。しかし、その条件に資格の有無が問われるのは再考を要すると考える。

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