自由研究発表障害(児)者福祉1  北村 弥生

国立更生援護施設理療教育課程教官の情報技術の現状と課題

国立障害者リハビリテーションセンター研究所  北村 弥生(会員番号3839)
キーワード: 《IT》 《パソコン》

1.研 究 目 的

本研究では、全国5ヶ所の国立更生援護施設における理療教育課程(以下、理教)の教官による パソコンを主とした情報技術の活用状況と課題を明らかにし、教育環境整備に資することを目的とする。 あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師は就労先で電子診療録や施術所経営管理システムなどを 使用することが増えたことから、平成13年度から国立更生援護施設理教では「情報概論」を導入し 一年次の授業でパソコンの使用方法を指導し始めた。しかし、時間数が限られていることから、 個々の履修科目の中でパソコンを活用することが望まれている1)。一方、視覚障害のある教官は、 特に、情報技術研修の機会を必要とすることも提起されている2)。そこで、理教教官が日常使用する 情報技術を視覚障害の有無で比較し、差異を明らかにする。

2.研究の視点および方法

平成17年度に、5ヶ所の国立更生援護施設(函館、塩原、国リハ、神戸、福岡)理教の全教官95名を対象に 質問紙法による調査を実施した。
 調査項目は全21問で国家試験と同じ選択肢法とした。調査内容は属性3問(視力、点字触読速度、点字視読速度)、  パソコン機能使用経験の14問、読み補助機器・システム使用経験(録音機、DAISY再生機、ないーぶねっと、びぶりおネット)4問であった。  また、情報技術を教育に活用することについての期待と課題について記入を依頼した。
 21問について属施設毎の単純集計、2段階にわけた視力区分間の検定を統計解析ソフトStatView(ヒューリンクス社)により行った。  視力区分は調査時には、「ゼロ」「光覚」「手動弁」「指数弁」「0.01以上0.02未満」など0.01感覚で0.1まで9段階、  「0.1以上0.2未満」「0.2以上0.3未満」「0.3以上」「視覚障害なし」の合計13段階を選択肢とした。  検定時には、画面を拡大しても識別することが困難と考えられる0.02未満(低視力群)と0.02以上(高視力群)の2段階に分類した。

3.倫理的配慮

本研究は国リハ研究倫理審査委員会の許可を得て行われた。

4.研 究 結 果

回収された調査票は78(回収率82.1%)であった。低視力群の教官は全体の39.7%であったが、国リハでは61.9%と高率であった。 パソコン機能の使用状況は下記の4種類に分かれた;1)視力に関わらず高率で使用する機能、2)視力に関わらず使用が低率である機能 、3)高視力群が低視力群に比べ使用率が高い機能、4)低視力群が高視力群に比べ使用率が高い機能。
1) 視力に関わらず高率で使用する機能は、ワープロ 98.7%(以下、数値はすべて全教官中の使用者比率)、 メール 92.3%、ファイル管理 92.3%であった。
2) 視力に関わらず使用が低率である機能は、ファイル添付 526%、メーリングリストへの登録 46.2%、パソコンでのDAISY再生14.1%であった。
3) 高視力群が低視力群に比べ使用率が高い機能は、高視力群の使用率が80%を超える機能に、表計算73.1%、インターネット利用83.3%、IT活用74.4%、情報検索85.9%があった。 また、高視力群でも使用率が50%より低い機能に、プレゼン 32.1%、データベース 20.5%、HP作成 20.5%、授業でパソコン利用 9.0%があった。
4) 低視力群が高視力群に比べ使用率が高い機能は、DAISY作成ソフト使用 17.9%、ないーぶねっと使用 28.2%、びぶりおねっと使用 10.3%であった。
  情報機器活用にして今後の整備が必要な課題は多い順に、教官への研修19名、在所生への教育19名、視力差への配慮13名、教室の機器整備10名、音声ソフトの改良8名であった。   情報機器活用で活用が期待される機能は多い順に、情報入手7名、教材作成7名、5センター間で教材・情報を共有できる6名、授業準備5名であった。課題・期待と視力との関係はなかった。

5.考察

1)教官による授業でのパソコン活用は1割未満の教官によってしか行われておらず、今後、もっとも強化すべき課題であると考えられる。
2)視力により使用するパソコン機能に差があったことは、視覚障害教官への情報技術研修が必要なことを裏付ける。視覚障害者が全体の4割から 6割を占める職場は視覚障害者にとっての職場モデルともなると考えられるため、視覚障害教官に対する支援のあり方は情報技術に 限らず検討すべきと考える。
3)情報機器活用については、期待される機能よりも整備が必要な課題の方が多く上がり、機材、ソフト機能、 技能それぞれの充実が必要と教官には認識されていた。
4)教官の年齢を調査しなかったため、年齢とパソコン活用の関係は不明であり、 今後の推移を予測することができないことは本研究の限界である。

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