自由研究発表障害(児)者福祉10  新藤 こずえ

親と暮らす重度障害児・者の自立
-親への質問紙およびインタビュー調査を中心に-

高知女子大学  新藤 こずえ(会員番号5496)
キーワード: 《重度障害者》 《自立観》 《障害者の親》

1.研 究 目 的

重度障害者でも達成可能な自立の形として、自己決定や地域生活といった選択肢が確立しつつある。しかし、そのような自立すら困難な重度障害者が存在することも現実である。一方、自立は障害者のみに求められるものではない。子どもから大人になる過程においては、障害のない一般の若者にも「自立」という課題が突きつけられる。しかし、健常者が子どもから大人になる過程でなしうる自立イメージのバリエーションは多様であるが、障害者のそれは極めて少ない。
 インペアメントが重度で、他者とのコミュニケーションにも困難を抱える障害者においては、周囲の人々の関わり方が、その障害者のライフコースを左右する。特に、子どもの頃から傍らで障害者を支え続けた親の考え方・関わり方が、障害者の生活と自立に与える影響は大きい。それは現在の生活だけでなく、「親亡き後」まで含めた将来にわたって、その障害者がどのように生活を営み、いかなる形で自立するのか(あるいは断念するのか)を規定することもありうる。そこで本研究では、障害を持つ子と同居する親を対象とし、現在の子どもへの関わり方や子どもの将来の暮らし方、さらに自身の子どもにとっての自立観を明らかする。このことを通じて、重度障害者にとっての自立イメージが狭いものとなっている要因を明らかにし、そのバリエーションの拡大に向けた展望を示したい。

2.研究の視点および方法

障害のある子と同居し、日常的な介助を行っている親に、その子の「自立」についてどのような考えを持っているのかを探ることを目的として調査を行った。調査は質問紙調査とインタビュー調査からなり、質問紙調査に協力が得られた20名のうち、7名からインタビュー調査への協力を得られた。
 質問紙調査の項目は、1)基本属性、2)人生観、3)親子関係、4)障害福祉サービス事業利用について、5)子どもの将来像、5領域22項目である。
 インタビュー調査は、子の出生時から現在に至るまでの1)養育・親子関係を語ってもらい、これまでの親自身の経験や考え方に基づいて、2)子どもの将来像、3)自立観を述べてもらうこととした。なお、それらに加えて基本的属性(家族構成、障害の状況、日常的な介護の状況)についても聞き取りを行った。適宜質問しながら自由に話してもらう形式をとり、所要時間は1人につき2時間~5時間程度であった。

3.倫理的配慮

調査に協力依頼する際には、事前に研究目的と調査概要、個人情報の取扱、調査協力者の権利等について紙面にて説明を行い、その後データの取扱、匿名性、結果の公表の方法についても説明を行い、了解を得た。なお本研究は、高知女子大学社会福祉研究倫理専門審査委員会の承認を得ている(承認番号 第40号、平成19年7月12日付)。

4.研 究 結 果

質問紙調査とインタビュー調査から得られた知見は以下のとおりである。
 質問紙調査からは次の2点が明らかとなった。第1に、障害のある子を持つ親は「親は子の一生に責任を持つ義務がある」と考えており、子が「自分で生きていけるようにすること」を重視していない。そのため、経済的な援助や介助面でのサポートについても親に責任があると考えている。第2に、子の将来について親がいなければ心配だとは考えていないが、親離れ・子離れはできていないと自覚しており、子に対しても親離れするようには接していない。このような親の子に対する接し方には親の自立観が関わりを持っている。
 インタビュー対象からは、重度障害の子を持つ親たちは、ADL自立を自立イメージの基準として考えていることが明らかとなった。しかし、現実にはADL自立はわが子にとって困難であると感じている。そのように自立を捉えた場合、子の自立はあり得ないものになる。その一方で、親が子の介助ができなくなり、他人に介助を委ねるために同居を解消して、子が離家することも「自立のようなもの」として捉えている。ただしそれは、親が面倒を見切れなくなったときに持つ「あきらめ」のようなものでしかない。このように、障害のある子を持つ親は子の将来像をイメージし難い状況におかれている。
 これらのことから、第1に、親自身が持つ重度障害者の自立観が制約されたものとなっていること、また第2に、そのために子の自立は実現不可能なものであり、子の自立を促すような関わりはしていないこと、が明らかとなった。この背景には、「自立ができない以上、自分が養育せねばならない」という親の責任感が見出せる。しかし、この状況にとどまることは、障害を持つ子、その親の双方にとって、出口のない親子関係を継続させることになる。この状況を改善し、重度障害者の自立のバリエーションを豊富化するためにも、まずは親に対し、障害を持つ子の自立イメージを多様に捉えられるような支援が求められるだろう。
 本研究は、平成19‐21年度文部科学省科学研究費補助金若手研究(B)「親と暮らす障害のある若者の自立に関する研究-日常生活構造と将来設計に着目して」(研究代表者・新藤(太田)こずえ)に基づく研究成果の一部である。

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