自由研究発表障害(児)者福祉10  松井 宏昭

発達障害者に関わる人たちへの支援
-A市の自主研修会の実践-

特定非営利活動法人自閉症サポートセンター  松井 宏昭(会員番号7193)
キーワード: 《発達障害者》 《研修会》 《市民》

1.研 究 目 的

平成17年4月、A市において、発達障害のある人への正しい理解啓発促進と関係者・支援者間のネットワークづくりを目的とする発達障害者支援協議会(以下、「協議会」と言う。)が自主的に設立された(事務局は、特定非営利活動法人 自閉症サポートセンター)。協議会の運営は、保護者、本人、医師、保健師、保育士、教師、心理士、研究者など市民有志ら(以下、「世話人」と言う。)のボランティア活動による。主な事業は自主研修会(参加費無料)の実施であり、世話人が企画する講演会形式で、毎月平日の夜に開催されている。もともとこの研修会は、平成14年9月に開始された自閉症児者親の会主催の研修会を前身とし、その後自閉症サポートセンターの主催を経て、発展的に協議会が設立され、現在に至っている。
 本研究は、A市において取り組まれてきた発達障害に関する研修会の推移と参加者の実態から、市民参加、理解啓発という視点を取り入れて、研修を通じた発達障害者に関わる人たちへの支援を評価することを目的とする。

2.研究の視点および方法

発達障害のある人への支援は、早期発見・早期家族支援と、幼少期からライフステージにそった一貫した支援が重要とされている。しかし、現状では発達障害のある人に関わる専門職はまだ少なく、地域における連携も不十分で、当事者本人や家族、関係者・支援者は困り感を抱えていると推察される。これらのことから、A市で始まった市民有志による自主運営の研修会の参加者の推移と、参加者のニーズを解析することにより、研修を通じた発達障害者支援を評価し、今後の発達障害者に関わる人たちへの支援のあり方を検討する上での検討材料にすることとした。
 (1)参加者名簿の分析:協議会設立後の第27回から第73回までの研修会参加者(47回分)の名簿により、参加者数の推移を分析した。
 (2)アンケート調査の実施:調査は、平成21年3月、4月及び5月の研修参加者に対する直接手渡し、及び平成21年3月~5月末まで世話人及び参加者メーリングリストによる自記式質問紙法によった。質問項目は、性別、年齢、立場、職場、職種、研修会への参加回数、研修テーマへの関心度、参加後の成果、今知りたいこと等からなり、76人の回答を得た。解析の一部には、統計処理ソフトSPSS17.0Jを用いた。

3.倫理的配慮

アンケート調査を実施するにあたって、対象者の同意と協力が得られるように、①調査の目的・内容、②対象者とそのデータに関する秘密保持の方法(個人名・プライベートな情報の保護)に配慮し、③調査への参加は任意であることとした。さらに、調査票に④結果を学会等にて発表すること及び⑤調査の責任者と問合せ先を明記した。

4.研 究 結 果

研修会は毎月一回、平日の夜に開催され、その回数は20年度末で73回となった。
 参加登録者数は、18年度末435人、19年度末579人、20年度末719人と毎年増えてきており、27回から73回までの参加の延べ総数は2,731人となった。一回当たりの平均参加者数は58人であり、20年度に一回以上参加した人の参加回数は平均2.6回であった。
 参加者の所属は、こどもルーム(学童保育)、学校・教育委員会、福祉事務所、幼稚園・保育園が多い一方で、家族や一般市民、本人の参加も見られる。
 研修テーマは、当初は「障害理解」に関する基礎研修が中心であったが、現在では毎年のアンケート結果から参加者のニーズにそったテーマを企画しており、「園・学校生活」や「療育」に関する内容に加えて「生活支援」「地域社会」といったテーマへの参加者も多い。
 研修テーマへの関心度を5段階で尋ねたところ、いずれのテーマにおいても「大変興味がある」や「やや興味がある」と回答する人が多く、関心の高い順番に「自閉症・ADHD ・LDへの理解と対応」、「家庭、園・学校での具体的な支援」、「早期発見と支援」、「不適応行動への理解と対応」、「子どもの障害をどう受容するか」、「生活支援と地域支援」、「福祉制度」、「就労支援」、「子どもの思春期と性」、「療育の方法」、「不登校、引きこもり等への支援」となり、その関心は対象とする年齢層・生活環境ともに広範囲にわたり、発達障害の基礎的な知識から、地域生活、子育て不安、不登校、引きこもりといった社会問題にまで広がっていることがわかった。後者の課題は、当事者と家族、関係者・支援者の二者関係だけで解決できるものではなく、学校、職場、町会などにおいて、ライフステージを通していかに支援していくかの広い視野が欠かせない。このことは、研修会で関係者・支援者へ理解を求めるだけでは不十分であり、同時に、市民一人ひとりに対する理解啓発活動が必要であることを示唆する。
 さらに、テーマごとに20年度の参加回数2回以下とそれ以上の人の関心度を比較した結果、いずれのテーマにおいても参加回数の差は有意ではなかった。すなわち、参加回数の差は、テーマに対する関心度に影響を与えず、いずれのテーマも共通して極めて高い関心がうかがえる。また、参加者は、いずれも自発的に参加しており、4割以上がリピーターであること、研修会の広報はメール配信、チラシ案内、ホームページなど行っているが、知人に誘われてと口コミによる参加者も少なくないことが聞取り等からわかっており、A市の自主研修会は、毎月の実践を経て、熱心な参加者が多いことが裏付けられる。

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