自由研究発表障害(児)者福祉10  岡 茂

ALS(筋萎縮性側策硬化症)患者と家族介護者の介護と療養生活への思い
-一女性患者のインタビュー調査から-

○ 東海大学  岡 茂 (会員番号2583)
下西 潤子 (会員番号7081)
キーワード: 《ALS》 《介護と療養生活》 《思い》

1.研 究 目 的

在宅で生活する一女性患者とその家族介護者を対象に、自由な語りという方法で、介護と療養生活への思いを捉えようとするものである。ALS患者の介護と療養生活に関して当事者および家族介護者の双方に視点を当てた研究は殆ど見当たらない。家族の生活や心情については若干の研究があるのみである。

2.研究の視点および方法

対象  ALS患者1名(60歳女性)および家族介護者(夫)
 参加者 患者、家族(夫)、研究者2名、ヘルパー
 方法  半構造化インタビュー法
 期間  2007年10~11月 計4回 1回2時間程度  場所は患者の自宅
 インタビューに用いた項目は、McAdams(1993)のライフストーリー・インタビューを参考にして、改編したものを用いた。1)困っていらっしゃること 2)楽しみとしていらっしゃること 3)当事者および介護をする方の介護への思いや要望 4)病気前よかった出来事 5)病気後嫌だった出来事 6)病気後に印象的な出来事 7)周囲への希望 8)暮らしていく上で大切にしていらっしゃること 9)今までの人生 10)病気の経験 11)過去のこと 12)現在のこと 13)これからのこと

3.倫理的配慮

不参加でも何等の不利益を蒙らないこと、途中辞退も可能なこと、情報の守秘、結果公表の際には個人を特定できないように配慮すること、結果を研究目的以外に使用することはないこと、を明記した書面を説明し、同意を得た。

4.研 究 結 果

1 各項目の出現頻度
 逐語録を文章単位で読み取り、内容を分類すると15項目が得られた。これらを大分類にまとめると、病気・医療、介護、療養生活の3領域に分類された。項目ごとに文章単位で読み取った内容を、出来事とそれへの思い・意味づけに分類した。3領域ごとに、本人と家族介護者のそれぞれについて、出来事と思い・意味づけに分類した。
 2 本人の思い
 本人の思いからは、時々刻々に起こる具体的な大変さや不安とそれへの対処としての要望、この病気を罹患したことから生ずる無念さと将来への心配など、過去・現在・未来への思いが伝えられている。それと同時に、病気の持つプラス面として、やさしい人々と知り合えたことや楽しみも語られた。
 3 家族介護者の思い
 夫の思いは多岐にわたっている。具体的な大変さや不安は本人と共通の項目もあれば異なるものもある。本人が病気を受け入れることや自分が健康を害した場合の不安、家族との話し合いの難しさなど、広範かつ深刻な内容に及んでいる。他所での死亡事例や協会の対応、家族内の事情や負担、本人と家族の負担の葛藤や意思の優先順位など、複雑な問題が多角的、客観的に示されている。他の家庭を観察した上で、ヘルパーを入れること等の助言や正しい生き方についての言及もなされている。家族介護者の健康と絆の重要性を指摘しつつも、そこに同時に葛藤がみられた。

5.考 察

上記の結果を出来事と思いに分けてみると、事実としてのできごとと、それに対する思いや意味づけは峻別できる面と、必ずしも明確に峻別できない面とがあることが分かる。8b③、8b④は事実を述べているが、そこには言外に不満や困惑が含意されている。9b④「自分の心の中に閉じこもっていて、人を入れるのが嫌な人がいる。」は事実の記述であるとともに、そのことへの否定的意味合いを読み取ることができる。しかし、ここでは思いや意味づけとして抽出した文章について見ていくことにする。
 本人の思いからは、時々刻々に起こる具体的な大変さや不安とそれへの対処としての要望、この病気を罹患したことから生ずる無念さと将来への心配など、過去・現在・未来への思いが伝えられている。それと同時に、病気の持つプラス面として、やさしい人々と知り合えたことや楽しみも語られた。
 家族介護者の思いは多岐にわたっている。具体的な大変さや不安は本人と共通の項目もあれば異なるものもある。本人が病気を受け入れることや自分が健康を害した場合、家族との話し合いなど、広範かつ深刻な内容に及んでいる。他所での死亡事例や協会の対応、家族内の事情や負担、本人と家族の負担の葛藤や意思の優先順位など、複雑な問題が多角的、客観的に示されている。他の家庭を観察した上で、ヘルパーを入れること等の助言や正しい生き方についての言及もなされている。家族介護者の健康と絆の重要性を指摘しつつも、そこに同時に葛藤があるといえよう。
 心理的ケアの基本的イメージは、その人の客観的状況とその人の主観的な思い・願い・価値観のズレによってもたらされる苦しみに対し、このズレが小さくなるように支えることとされている。本研究結果からは、個別的・具体的な困難に関してはズレが小さくなるように支えることが可能であるが、簡単ではない内容も多くみられた。
 在宅療養患者である本事例では、家族が暗中模索して全ての関係者・社会資源と連絡を取りながら進めており、チームは存在しない。当事者および家族介護者の語りから、我が国においてはこのような事例が多いのではないかと推測される。

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