医療的ケアを必要とする重度障害者と家族のニーズと支援
-家族類型別の支援モデルを考える-
愛知淑徳大学 春見 静子(会員番号0555)
キーワード: 《医療的ケア》 《家族支援》 《支援モデル》
この研究は、平成19年度20年度、厚生労働省科学研究費の助成を受けて行ったものである。
医療的ケアを必要とする重度障害者の家族への支援策に関する研究は、近年少しずつ充実してきている。またその成果に基づいて、少なくとも特別支援学校内においては医療的ケアが行われる体制が次第に整いつつある。しかし、それに比較して、学校を卒業した18歳以上の障害者の地域生活のための対策は非常に立ち遅れている。本研究は、医療的ケアを必要とする在宅の障害者と家族の生活の実態、とくに彼らのニーズと障害者自立支援法下で受けられる支援の現状と問題点を明らかにし、必要な支援の在り方を明らかにすることを目標にしている。
平成19年度の調査研究では、医療的ケアを必要とする障害者の在宅生活の状況と本人と家族のニーズを把握することを目的に、東京、神奈川、大阪の3地区において家族、通所施設、専門医師を対象としたアンケート調査を行い、さらに、同じ3地区で、家族、職員、医師に対する聞き取り(ヒアリング)を行い、結果を分析した。
平成20年度は、医療的ケアの必要なもっとも重い障害者でも在宅生活が送れるような家族生活のあり方を検討するために、アンケート調査の対象の中からとくに困難事例とされる12事例を選定し、より詳しいインタビューを行うことを試みた。困難事例としては、人工呼吸器をつけて在宅生活するもの、気管切開をして在宅生活するもの、主たる介護者が70歳以上の高齢者、同一の家族に医療的ケアを必要とする重度の障害者が複数いるものとした。
調査の方法は、関係団体から東京、神奈川、大阪の各地区4家族ずつを紹介してもらい、計12家族を自宅、病院、施設などに訪問し、主たる介護者と約90分のインタビューを行い、被調査者の承諾のもとに、テープに録音して文字化した。インタビューは、介護者の自由な発言を重んじながら、1)介護者の負担 2)家族の抱える問題(夫、きょうだい、祖父母等)3)在宅サービスや施設サービス提供の期待と問題 4)医療機関の利用 5)サービスのコーディネート 6)親の会の役割について話してもらい、その内容を項目ごとに整理して、それぞれの類型ごとの家族のニーズと支援の在り方を考察した。
平成20年度の調査研究については、平成20年10月に愛知淑徳大学大学院医療福祉研究科の倫理委員会の審査をうけて、承認された。
4.研 究 結 果12事例の一覧は別紙のとおりである。
困難事例の類型を以下の通りとする。類型1 人工呼吸器をつけて在宅生活をしているケース
類型2 気管切開して在宅生活をしているケース 類型3 主たる介護者が高齢であるケース
類型4家族に医療的ケアを必要とする障害者が複数いるケース
1 類型ごとの課題とニーズ
類型1(5ケース) 医療的ケアを常時必要とする介護度が最も高いケース。3ケースは、自立生活に近い生活を理想と考えていて、2ケースは合併症が重く昼夜の医療的ケアと見守りが必要な重度障害のケースである。家族全員の協力が不可欠であり、情報を収集して、必要な社会資源を確保するために絶えず、関係機関に働きかけ、また社会に訴え続けていかなければならない。
類型2(4ケース) 障害が重くなり、または病気を併発することにより人生のある時期に気管切開をせざるをえなくなる。その決断は家族にとって苦渋の選択である。またその時から、痰の吸引や経管栄養などの医療的ケアの技術を家族が習得しなければならない。
類型3 (3ケース) 障害者の年齢が40歳以上、介護者の年齢が70歳以上となると、両者の年齢のギャップは意外に大きいものがある。子どもたちはようやく体調し安定して地域生活を楽しみたいと望んでいるのに対して、親は体力、気力とも衰えてくる。また介護者を支えていた家族にも変化がおこり、母親は孤立感を味わう。
類型4(3ケース) 難治性のてんかんや脳性まひなどできょうだいが同じような重度の障害者になることも決して珍しいことではない。日常的な介護も大変であるが、緊急時の対応がとくに問題である。親が病気になる、子どもの一人が入院する。一人の具合が急に悪くなり、病院に連れていかなければならないなどである。
2 類型別の支援の在り方(支援モデル)
4つの類型に共通しているニーズは多いが、それぞれのグループに強調される特殊なニーズに対応した支援モデルを考えてみる。
類型1 家族が介護にのめりこみすぎないように、家族の日常生活を近くでみているヘルパーや訪問看護師などが家族の雰囲気や負担度を見て、相談相手になったり、地域の支援チームを組織して家族を支援することが必要である。また、彼らにとってもっとも必要な社会資源は、障害が重くてケアが難しいケースについては、定期的に受け入れてもらえるレスパイトサービスの確保であり、また、自立生活を望んでいる障害者のケースでは、常時2人体制で付き添ってもらえるヘルパーと夜間のヘルパーの確保である。
類型2 気管切開がなされることについて医者から十分なインフォームドコンセントがなされ、気管切開の後で必要になる医療的ケアの技術を、母親だけでなく、家族全員が習得して、家族が分担して取り組めるようにすることが必要である。必要な社会資源は、1週間に数日間通える通所の場が確保されること。 また、その施設には医療的ケアの対応ができるスタッフがいて、医療機関と緊密な連携があることである。
類型3 「子どものために頑張りたい」という親の気持ちを汲んで、それを実現できるような施策が自治体や施設に求められている。求められている社会資源としてはグループホームがあるが、今の制度下では、そこが終のすみかにはなりえない。
類型4 日常と緊急時のサービスのコーディネートをすべて母親が一人で行っている現状があるが、本来は、そのための専門機関が必要である。 切実に求められる社会資源としては、緊急時に預かってくれる医療的ケアに対応できるショートステイと、留守番を頼める訪問看護師の充実である。