自由研究発表家族福祉1  山脇 敬子

高齢期パーソナルネットワークと介護類型
-高齢期における脱家族化と自立の構造-

天理大学  山脇 敬子 (会員番号6145)
キーワード: 《高齢世帯》 《家族規範》 《いきがい》

1.研 究 目 的

近年、高齢期における夫婦世帯と単独世帯が増加しており、それに伴って介護が必要となっても子ども家族と同居しない高齢者世帯も増加している。その背景には、介護保険を始めとする介護の社会化の進展が、親の介護を引き受けたがらない子どもの増加と、子どもとの同居を諦める(あるいは望まない)高齢者の増加の傾向に拍車をかけているという現実がある。更に、若い世代の未婚化、非婚化、熟年離婚の増加などの傾向からも、これらの世代が高齢期にさしかかるときのひとり暮らしの増加が予想される。
 したがって、今後の高齢者介護の施策においては、独居高齢者や高齢者夫婦世帯の老老介護への支援問題が極めて重要なテーマとなってくると考えられる。そして、その場合には、従来の家族介護が果たしてきた心理的・精神的支援や身体的介護の役割を代替する社会的資源として、友人ネットワークや介護サービスを通じてつくられるケアのネットワークなどの新たな社会的機能に注目することが必要になるだろうと考えられる。
 そこで、本報告では、高齢者のパーソナルネットワークの実態を調査分析し、ひとりで生きることを選択した高齢期の自立生活の現状、子ども家族との同居を選択しない夫婦世帯の内実を検討することを通じて、地域福祉ネットワークの課題を探ることを目的とする。

2.研究の視点および方法

地域社会におけるパーソナルネットワークの形成に関しては、都市化がコミュニティの基盤となる親密な社会関係を衰退させるというWirth,L.の古典的命題や、都市化はむしろ友人ネットワークの規模を増大させるのではないかというFisher,C.S.の仮説などがよく知られているが、高齢者の場合には、高齢期に遭遇する生活構造の変化がそのパーソナルネットワークの形成に及ぼす影響に注目する必要があろう。
 高齢期には、男性は定年退職に伴う職業的役割の喪失、経済基盤の弱化、人間関係の縮小など生活構造全般の決定的変化を経験し、女性も定年後の配偶者とどう関わるか、中年期の夫婦とは違った生活が始まる。そして生活過程の進行とともに、一方における行動範囲の縮小と職場や遠方の友人との疎遠化、家族や友人の転居や離別・死別、他方における地域コミュニティの集団への参加、医療機関やケア従事者との新しい交流など、多様なパーソナルネットワークの変容の体験が、この時期における生の実質を形づくってゆく。
 これまで、親族ネットワークに関してはTownsend,P.やLitwak,E.らの先駆的研究があり、日本でも高齢者介護をめぐるネットワークは藤崎宏子や金子勇らによって明らかにされてきているが、本報告では、要介護者状態となっても自立した生活を送ろうとする高齢者たちの場合、どのようなネットワークが結ばれているのかを、要介護高齢者の家族意識の変化を含めて検討する。分析方法としては、広い意味でのエスノグラフィーの方法を用いて、対象者と長くかかわり関係を維持しながら、加齢によって変化していく介護生活を記述し、高齢期の特徴を十分詳細に観察し、ナラティブな形をとる語りを分析する。
 分析の対象者は大都市近郊の遷移地帯A市に住んでいる単独世帯、夫婦世帯の要介護高齢者。市内にあるB居宅介護支援事業所のサービス利用者(および利用申し込み中)である要介護高齢者30人を対象として、(家族、ケアマネジャー、介護ヘルパーも含めて)2008年3月~5月、9月~11月の間に2回、聴取り調査を実施した。

3.倫理的配慮

福祉実践の既存データの活用に関しては、個人が特定できないように匿名化して使用した。事例の対象者には、事前に調査の目的を説明した上で、プライバシーの保護を確認し協力を得た。

4.研 究 結 果

1)調査結果から、まず、高齢期のパーソナルネットワークに影響を与える要因としては、配偶者の有無、居住年数、以前の職業、交通機関の利用の可否、年令、身体能力などが考えられることが分かった。
 2)要介護者となってからも自立した生活を継続するためには、近隣や友人などの社会的ネットワークの有無が重要であると分かった。学校時代や戦争当時の友人、職場の同僚、近隣の住民などとの交流がみられたが、これらは年齢とともに縮小している。
 3)一方、医療機関、ケアの従事者との関わりが親族や友人などと同程度にまで増加し、これらが高齢者の社会的ネットワークの下部構造を形成していることがみられた。
 4)男性高齢者では、配偶者のいる人は社会的ネットワークが少ない場合が多くみられたが、女性ではこの差はあまりみられなかった。家族と同居している高齢者は、家族に庇護されているので積極的にネットワークをつくるケースは少なかったが、別居すると親族ネットワークの接触頻度が低下し、別居交流型の関わりは疎遠となる傾向がみられた。
 5)要介護者も地域での活動が増加することにより、地域とのつながりが濃密になり、コミュニティ意識形成の萌芽がみられた。世帯の小規模化は高齢期における自立的生き方の実現を促進したが、それは反面、子ども家族への気遣いや不安の結果に他ならないことも見てとれた。

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