自由研究発表家族福祉1  新川 泰弘

地域子育て支援拠点施設利用者の親育ちに及ぼす影響
-親のコンピテンスを高める実践モデル開発の視点から-

三重中京大学短期大学部  新川 泰弘 (会員番号5077)
キーワード: 《地域子育て支援拠点施設》 《親育ち応援》 《コンピテンス》

1.研 究 目 的

筆者はこれまでに地域における子育ち親育ちを応援する実践の手がかりを探るため、A県7市町の地域子育て支援拠点施設の利用者アンケート調査を実施した。そこで、マルトリートメントと子育ち環境の関連性について検討したところ、子どもを育てにくいと感じている親ほど子どもの気持ちを理解した関わりが行えず、子どもの出生前に子育ての大変さを自分の身に置き換えていなかった親ほど子どもの気持ちを理解していないことが明らかになった(新川,2009)。その一方で、地域子育て支援拠点施設における子育ち応援、親育ち応援を行うために親のコンピテンスを高める実践を模索していく必要がある。そこで、本研究では子育てにおける親のウエルビーイングを探るため、親が子どもの気持ちを理解して子に関わること、子どもと過ごす時間を楽しいと感じていること、子育てによる親育ちを感じていることに及ぼす影響について検討した。

2.研究の視点および方法

調査対象は調査協力を得た地域子育て支援拠点施設を利用した親を無作為に抽出した。アンケート回答者数840名、内有効回答者数504名(男性8名,女性496名)であった。平均年齢は31.6±4.5歳であった。調査期間は2008年2月25日~3月25日であった。
 芝野(2002)、子ども総研式・育児支援質問紙(2003)、原田(2006)、安梅(2003)、海老原・秦野(2004)、川崎他(2004)、日下部・坂野(1999)の項目を参照し、独自に作成した質問紙は施設長、園長、支援センター職員とのグループ協議を複数回繰り返して修正するとともに予備調査(新川,2008)を実施し、再度修正を加えた。修正を経て完成した質問紙は地域子育て支援拠点施設の職員の協力のもと配布、説明し、記入後に回収した。  
 SPSS17.0Jを用いて集計するとともに、子どもに対して子どもの気持ちを考えて対応している親、子どもと過ごす時間を楽しんでいる親、さらに子育てによる親育ちを感じている親がそうではない親と比較して子育てをどのように感じているか、またどのような環境で子育てをしていたか、出生前に子どもと関わった経験、子どもの出生前の心理的状況、子どものタイプと親のしつけがどのように違うのかを明らかにするため独立したサンプルのt検定にて分析した。なお、平均年齢は気持ち理解高群(31.99±4.39歳)、低群(31.25±3.93歳)に有意な差はなく(t(294)=1.51,n.s.)、子育て楽しい高群(31.67±4.65歳)、低群(31.17±3.39歳)、にも有意な差は確認されず(t(355)=0.72,n.s.)、親育ち高群(32.12±4.63歳)、低群(31.04±3.90歳)においても有意差は確認されなかった(t(378)=1.85,n.s.)。

3.倫理的配慮

本調査にあたってはアンケート調査の趣旨を説明するとともに、個人のプライバシーがもれないように結果はすべて統計処理することをあらかじめ伝えた後に同意を得て協力いただいた。

4.研 究 結 果

子育てへの認識と子育て環境、出生前に子どもと関わった経験、子どもの出生前の心理的状況、子どものタイプと親のしつけとの関係について検討したところ、子どもの気持ちを理解して子に関わっている親とそうでない親とでは、28調査項目のうち21項目において有意な差が確認され、1項目に有意傾向な差が確認された。また、なぜ子どもがそのような行動をしたのか考えるようにしていた、落ち着いて対応するようにしていた、ついかっとなって叱っていたといった項目の差が特に大きかった。このことから、子どもの気持ちを理解して関わろうとするほど、子どもの行為の意味を考え、落ち着いて対応するのに対して、子どもの気持ちを理解しようとしないで子どもに関わることは子どもを衝動的に叱ってしまうことにつながることが示唆された。
 また、子どもと過ごす時間を楽しいと感じている親とそうでない親とでは、28調査項目のうち23項目において有意な差が確認され、子育てをしていてイライラすることがなかった、普段子どもがしているよいところを見つけてできるだけほめるようにしていた、子どもの成長や発達を考えて子どもと遊んでいたといった項目の差が特に大きかった。これらのことから、子どもをほめることや成長や発達に応じた子どもとの遊びは、子育ての楽しさに影響を与えるとともに、子育てによるイライラを抑制することも子育ての楽しさに影響を及ぼしていることが推察された。  
 子育てによる親育ちを感じている親とそうでない親とでは、28調査項目のうち21項目において有意な差が確認され、子どもとの遊びの種類をたくさん持っていた、子どもの成長や発達を考えて子どもと遊んでいた、普段子どもがしているよいところを見つけてできるだけほめるようにしていたといった項目との差が特に大きかった。この結果から、子どもの成長や発達に応じた遊びを行うとともに遊びのレパートリーを豊富に持つことや子どものよいところに気づいてほめていくことが親育ちにつながると考えられた。これらのことから子どもの成長や発達を的確に親が捉えられるような支援が必要であるだろう。  
 今後は、地域における子育ち親育ちを応援する実践内容、方法を探るため、子育てによる親育ちを感じていることに及ぼす影響の要因以外についても検討していくことが課題である。また、地域子育て支援拠点施設におけるファミリーソーシャルワーク実践モデル開発の視点から地域子育て支援拠点施設における利用効果の調査にも取り組んでいきたい。
 本研究は科学研究費(若手研究B)新川泰弘「地域子育て支援センターにおけるファミリーソーシャルワーク実践モデルの開発的研究」(課題番号20730394)による研究の一部である。

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