自由研究発表児童福祉7  上田 美香

10代子育て家庭への妊娠期からの福祉的支援に関する研究
-A市における10代親への継続的インタビュー調査-

○ 日本大学  上田 美香 (会員番号5950)

東洋大学  森田 明美 (会員番号0646)
キーワード: 《10代子育て家庭》 《継続的インタビュー調査》 《子育て支援》

1.研 究 目 的

 10代の妊娠・出産・子育てについては、母子保健や看護分野において、出産の動向や産 科学的な検討、社会的背景の実態と課題を指摘した研究等があるものの、妊娠期から出産後1 ヶ月くらいまでの分析にとどまっている。また、筆者らは、東京都の保育関係者と都内公私立 保育所に通う10代で出産した母親への子育て実態調査(2002年東京都社会福祉協議会保育部 会調査研究委員会)を実施したが、妊娠期から子育て期にわたって継続的に調査された研究 は、これまで存在しない。
  本研究は、10代の妊娠・出産・子育ての実態把握と、それ をふまえた10代子育て家庭への妊娠期からの福祉的支援システム開発を目的とし、本報告では 、協力を得ることが難しい10代親への継続的なインタビュー調査の方法、調査結果の一部を報 告する。

2.研究の視点および方法

 10代の妊娠・出産・子育ての困難と支援課題を明らかにし、支援方法を開発するため、 A市の協力を得て地域で暮らす10代親を対象とした、妊娠・出産・子育て期までの継続したイ ンタビュー調査を行う。調査方法は半構造化面接インタビュー調査で、妊娠期2回、子育て期 4回、1歳10か月までの計6回実施し、インタビューした内容の逐語録を作成し分析を行う。 調査は、2009年1月に開始し、2011年6月までを予定している。また、A市の10代子育て家庭 の実態を把握するために、A市の保健師11名より10代親の妊娠・出産・子育てについてこれま での事例のヒアリングを行う。

3.倫理的配慮

 学内の倫理委員会の審査を受け承認を得ている。詳細は発表時に提示する。

4.研 究 結 果

 A市における2007年度の10代女性の出産は36人、全出生数における割合は1.9%で全国平 均(1.5%)より若干高くなっている。A市の保健師からのヒアリングにおいても、10代親の 多くがひとり親家庭で育ち、サポート体制が脆弱であること、貧困や精神的不安定、地域か らの孤立など10代親の実家も含めた家族が深刻な問題を抱えており、行政支援に繋がりにくい 、あるいは拒絶している状況が明らかになった。
  A市の協力を得て行っている今回の 調査は、その対象者の個人情報の管理や限られた対象であるがゆえに実態把握が非常に難しい 。そのために、支援が必要と思われながらもその実態把握と支援の方法について十分に開発さ れてこなかった。そこで、本研究では1年間かけてA市との調整を行い、その調査方法を開発 して以下のような継続的な「支援型」調査が実現した。①母子健康手帳の交付時に市内の全交 付窓口(子育て支援課・保健センター・8か所の地域子育て支援センター)で、10代妊婦に市 の担当者が調査の協力依頼を行う、②公共性と支援の継続を目的とし、地域子育て支援センタ ーをインタビュー場所とする、③調査員は、助産師、保育士、小児科医、臨床心理士などの専 門家であり、インタビュー調査の際に対象者の持つ課題や不安・悩み事を把握した場合は、そ れを放置せず、適宜支援をしながら調査を進めていく、④調査員が専用の携帯電話を持ち、対 象者の妊娠や子育ての心配に対し、いつでも相談できる体制をとる。
  調査までの流れ は、母子健康手帳交付窓口等で了承が得られた協力者へ調査員より電話をして、再度、調査目 的の説明を行い、初回のインタビュー調査の日程・場所を調整し、調査の開始となる。調査時 期、調査項目についての詳細は、発表時に提示する。
  2009年6月現在、母子健康手帳 交付時(出産直後の10代の母親としてA市保健センターより連絡が入った協力者も含む)に調 査協力の了承が得られた協力者は7人、うち4人(産後間もない母親2人、妊婦2人)に対し 、それぞれ1、2回のインタビュー調査を行った。しかし、3人については、1度は調査協力 の了承が得られたものの、その後調査員から電話やメールをするなかで断られている。
  インタビューは、調査対象者地区の子育て支援センターの広場の一部を使用するため 、保育所内に設置されている子育て支援センターの案内や地域の子育て情報の提供など、今後 の利用や支援につなぐことができると同時に、10代親が実際に様々な月齢の親子の様子を見る ことができる。
  また、4か月時、10か月時に行われる乳児健診を兼ねた親子の集まり にインタビュー調査の日程を合わせることで、10代親と他の親子との関わり方を観察すること ができ、一緒に参加したパートナーへのインタビューも実施できている。また、10代親の参加 率が低いこれら行政主体の健診や母親学級に、参加を促す効果もあると考える。
  インタビューを行った4人(①17歳褥婦 ②17歳褥婦 ③19歳妊婦 ④19歳妊婦)は 、いずれも妊娠による学業の中断、妊娠中や産後は自分やパートナーの実家でサポートを受け ながらの生活となっている。2人の妊婦はパートナーとの不和、あるいは未婚のままの出産を 決意しており、経済的問題や家族形成の困難を抱えている。また、妊娠・出産・子育ての知識 不足や、10代の母親ネットワークにおける偏った情報の中での育児であることが明らかになっ ている。
  *本研究は、科研基盤研究B(一般)「10代子育て家庭への妊娠期からの福 祉的支援に関する日韓比較研究」(研究代表:森田明美)によるものである。

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