就学前児童を持つ母親の子育てとワークライフバランスに関する
自由記述を含めたデータの分析
-A市次世代育成支援後期行動計画策定のための調査より-
関西学院大学大学院 小野 セレスタ摩耶 (会員番号5205)
キーワード: 《次世代育成支援》 《テキストデータ》 《ワークライフバランス》
市町村次世代育成支援行動計画は、現在後期計画策定に向けて動いているところである 。本発表では、A市の次世代育成支援行動計画の後期計画(以下、後期計画)策定のために実 施された調査データを使用して分析を行う。本研究の目的は、ワークライフバランスについて 、A市の就学前の母親の考えや傾向を明らかにすると共に、A市における後期次世代育成支援行 動計画策定に向けての考察を行うことである。
2.研究の視点および方法 (1)研究の視点
後期計画では、前期計画に比して、就労と出産・子育ての二
者択一構造を解消するために、「働き方の見直しによる仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・
バランス)の実現」とその社会的基盤となる「包括的な次世代育成支援の枠組みの構築」を「
車の両輪」として進めていく必要性が強調されている。本研究は、前者の「ワーク・ライフ・
バランス」(以下、A市の表現に合わせて「ワークライフバランス」と表記する)に注目して
分析を行うものである。今回分析を行った「子育てとワークライフバランス(仕事と生活も調
和)に関して、ご意見を自由に記入してください」という設問は、最も記述数の多かった項目
の一つであり、子育て中の母親の関心の高い項目であった。本研究を行うことで、今後のA市
における次世代育成支援に必要な重要な視点を提供できると考えている。
(2)研究
の方法
本研究は、まず就学前児童の母親の回答の基本属性、ワークライフバランスに
関わる量的調査の項目の分析を行い、次に就学前児童の母親による子育てとワークライフバラ
ンスについての自由記述について分析を行い、これらの結果から考察を行うこととする。
A市在住の就学前児童のいる家庭を住民基本台帳より1500名を無作為抽出し、郵送法
によるアンケート調査を実施した。調査項目は、国の作成した後期行動計画策定のための量的
調査モデル質問紙にA市独自の項目を追加したものであった。独自項目の中には、自由記述型
の設問も含まれる。なお、本研究では、本量的調査のうち、属性及び「ワークライフバランス
」に関連する項目と自由記述を使用することとする。分析には主に、SPSS for Windows Ver.17
、Microsoft Excelを使用し、部分的にテキストデータ分析専門ソフトを使用した。
量的調査実施の際に、回答者に対して無記名であること、調査の結果は統計的に処理し 個人が特定されないことを周知した。また、A市の許可を経てデータを使用している。
4.研 究 結 果 (1)調査時期と有効回答数及び有効回答率
調査実施時期は、2009年1月末から
2月末までの約1ヶ月間であり、1500名のうち有効回答数は950名、有効回答率は、63.3%であっ
た。
(2)分析結果
(ⅰ)単純集計
「子どもの数」では、「2人」が
50.2%と半数であった。「主に子どもの世話をする人」では、「母親」が930名と98.6%を占め
ていた。
主な回答者である母親の属性を見てみると、「就労状況」では、「以前は
就労、現在未就労」が最も多く、507名(56.2%)と半数以上を占めていた。ついで、「就労
(フルタイム)」(128名;14.1%)、「就労(パート・アルバイト)」(115名;12.7%)とな
っていた。また、「育児休業中」との回答は7.6%(69名)、今まで「就労した経験がない」は
9.2%(83名)であった。
仕事と子育ての両立についての設問では、「育児休業制度
を利用した」のは、母親で18.4%(172名)に留まっており、父親の取得はわずか0.2%であっ
た。「仕事と子育ての両立に必要なこと(複数選択可)」では、「配偶者等の育児協力」が最
も多く(774名)、ついで、「保育サービスの充実」(701名)、「短時間勤務などの活用」(486
名)となっていた。
(ⅱ)自由記述
「子育てとワークライフバランス(仕事と
生活も調和)に関して、ご意見を自由に記入してください」という設問の内容を分析した。回
答があったのは、315名であった。分析の結果、子どもとの接し方などの「子育て」、企業の
体制整備などの「就労条件」、夫の協力や理解といった「家族の協力」などに分類される傾向
があることが分かった。
(ⅲ)考察
分析の結果、選択肢の内容よりも詳しい母
親の「生の声」を知ることができた。また、アンケート項目を補足するような結果も明らかと
なった。「ワークライフバランス」の問題は、短期的に解決できるものではなく、地道な努力
が必要であるが、この結果をA市へ報告し、後期計画に何らかの貢献ができないか検討を依頼し
ていることである。