自由研究発表児童福祉7  松橋 圭子

自治体認定型保育施設の屋外環境と地域資源のあり方についての研究
 -横浜市におけるアンケート調査より-

東京家政大学  松橋 圭子 (会員番号5815)
キーワード: 《保育環境》 《園外活動》 《地域資源》

1.研 究 目 的

 近年、少子化の進展に伴い児童数が減少する一方で女性の社会進出等により保育所の需 要は増加している。特に、都市部においては保育所に入所したくても施設不足により入所でき ない待機児童問題が依然として大きな課題となっていることから自治体独自の認可基準に基づ く保育施設の設置が推進されている。このような保育施設は、認可保育所に比べて、設置しや すい基準を設けることで近年拡充しており待機児童の重要な受け皿となっているが、施設の屋 外活動環境の実態や周辺地域環境のあり方について検討することは今後増設を行っていく上で 必要な要件であると考えられる。
  本研究では、3歳未満児の待機児童が顕在化し、認可 保育所で対応しきれないだけではなく多様な保育ニーズに対応する目的で横浜市が独自に認定 、設置を進めている「横浜保育室」に着目し、今後更に拡大が予想される自治体認定型保育施 設の周辺地域を含めた環境のあり方について、施設・地域計画の視点から検証を行い、子ども の体験と活動の広がりを促進する保育環境が保障された施設・環境整備の方向性について検討 することを目的とする。
  横浜保育室は1997年横浜市の単独事業として開始され、2008 年4月現在、市内128施設、定員は4.123人、基本3歳未満の児童を対象とし、入所要件は認可保 育所と同様である。1施設の定員は20人以上で認可保育所に比べると小規模であることも特徴 といえる。児童一人当たりの遊戯室面積については0・1歳児で2.475㎡、2歳以上で1.98㎡以上 と基準を設けているが、屋外遊戯場についての面積基準はなく、「屋外遊戯場を有すること」 との条件のみで、園庭を所有できない施設においては「付近の代替場所でも可」となっている 。子どもにとって自由に屋外活動が行える環境の整備と確保の必要性は社会的な背景からも近 年高まる傾向にあるが、実際には難しくなりつつあるのが現状であり、多くの保育施設は園の 外に出かけて屋外活動を行っていると考えられる。
  充分な屋外環境を保有することが できない施設にとって「園外活動」がより重要なものとなっていることが推測され、施設の立 地、屋外活動環境の現況を把握し保育施設における地域資源の活用とニーズを明らかにする意 義は大きいと考える。

2.研究の視点および方法

 2007年7~8月にかけて横浜市内にある全横浜保育室(133施設)を対象に施設の屋外活動環 境(施設概要・屋外活動スペースの実態と評価等)及び園外活動の状況についてアンケート調査 を実施した。郵送により配布・回収を行ったところ、計43施設から回答を得た。
  回収 率は43.3%。その中から特徴のある施設については実地調査及びヒアリング・園外活動の観察調 査も行った。本稿ではアンケートから得られた結果を中心に報告する。

3.倫理的配慮

 本調査におけるアンケートの内容はコンピューターで処理・分析を行い、収集されたデー タについては調査の目的以外には使用しないことはもちろん、細心の注意をもって取り扱うと ともに施設関係者に対する倫理的な側面には充分配慮して行った。

4.研 究 結 果

 今回、回答のあった横浜保育室の約7割は1997年以降に設置され、その多くがマンション やビルの一部を利用して開設されていることが推察されるが、「園庭あり」は全体の3割弱に 留まっていた。更に庭を保有する施設の児童一人当たりの屋外空地面積を測定(ゼンリン住宅 地図を用いて実測)したところ2.7㎡で、その広さについて『どちらかというと充分ではない』 『充分ではない』をあわせた割合は61.5%であった。立地としては比較的駅近く(平均距離506.8m )の商業系地域(52%)に立地する割合が多く、72%が3階建て以上の建物に併設されていた。施設 側からみた敷地内屋外活動環境に対する評価では、「安全性」については比較的充分(66.7%) と捉えている施設が多い一方で、「遊具等設備」「自然環境」では全体の6割近くが『どちら かというと充分ではない・充分ではない』と回答している。中でも「遊具等設備」面での評価 の低さが目立ち、多くの施設が施設敷地内だけでは充分な保育活動を行うことが難しい状況に あることが捉えられる。実際、8割以上が「ほぼ毎日」周辺地域に出かけ、午前中を中心に約 6割が「60分以上」活動を行っている実態が示された。更に、園外活動での保育のねらいに対 応する活動場所を複数選択により回答を求めたところ、全体に「公園」を選択する割合が多く 、『体力の増進や運動能力の向上(97.7%)』『自然との触れ合い(95.3%)』『生き物との触れ合 い(97.7%)』『地域交流(79.1%)』等公園が多くのねらいを充足できる重要な活動場所であるこ とが改めて窺えた。その一方で、普段利用する公園に対して『安全基準を満たした乳幼児用遊 具の設置』や『保育者の目の届きやすさ等』を求める声も多くみられた。また「道」は単なる 移動経路としてではなく子どもにとって『交通ルール(97.7%)』をはじめ様々な体験を得られ る場であると同時に設立から年数の浅い保育施設にとっては地域の人と関わりをもつことがで きる貴重な『地域交流(58.1%)』場所として捉えられている様子も窺えた。今後は更に園外活 動を行わざるを得ない状況にある保育施設の開設が増えることが予想されるが、如何に移動経 路や公園などの地域資源をこのような保育施設が活用しやすいものとできるか、さらに検討を 深めることが課題である。※本調査は、(財)住宅総合研究財団2007年度研究助成「保育施設 の屋外遊戯場としての公園の代替利用に関する研究(代表:三輪律江)」に基づくものである。

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