病院併設型乳児院入所児童の状態像に関する研究
―重症度・看護必要度評価票を用いた調査結果より―
○ 静岡県立大学 東野 定律 (会員番号4467)
国立保健医療科学院 筒井 孝子 (会員番号1486)
立教大学大学院 大夛賀 政昭 (会員番号6668)
キーワード: 《乳児院》 《重症度・看護必要度》 《状態評価》
乳児院は、児童福祉法37条に規定された児童福祉施設で、平成20年4月現在の全施設数は
、121か所である。このうち高度な医療機能を有する病院併設型施設(以下、病院併設型乳児院
と呼ぶ。)は、全国でもわずかである。
これらの施設では、他の乳児院では受け入れ
の困難な障害児や病虚弱児を積極的に受け入れ、24時間体制のケアを提供しており、ケアの提
供にあたって高い専門性が要求される施設となっている。とくに疾病や重度の障害がある医療
的処置が必要とされる乳幼児のケアは、相当、困難であると考えられるが、実態として、どの
ような状態像の乳幼児が入所しているか、また、これら乳児の状態を急性期病棟と比較したよ
うな資料は、ほとんどない状況である。
そこで本研究においては、急性期入院医療に
おいて、急性期病棟等の患者の状態評価に用いられている看護必要度評価項目注1(重症度・
看護必要度評価票注2)を用いて、とりわけ医療的なケアニーズが高いと考えられる病院併設
型乳児院に入所する児童の状態像を明らかにすることを目的とした。
調査協力の得られた病院併設型乳児院2施設における、入所児童およびケアを提供した全
職員を対象に調査用に開発された看護必要度入力支援システムを用いて調査を行った。
調査した項目は、2週間に施設に存在した入所児童のべ60名の看護必要度項目と調査期
間中に調査病棟で勤務を行った看護職員の勤務時間および時間帯別の配置人数を示したデータ
である。
研究に関しての調査の実施については、国立保健医療科学院に設置される倫理審査委員会 の認証を得ている(NIPH-TRN#08003)。
4.研 究 結 果1)調査対象児童の性別・年齢
性別は、男性が32名(53.3%)、女性が28名(46.7%)であった。また、平均年齢は0.5歳
で、最小は0歳、最大で6歳であった。
2)調査対象児童の重症度・看護必要度得点
調査対象となった児童の医療的処置に関するA得点の平均値は0.2点、ADLに関するB得
点の平均値は14.1点であった。
3)調査対象児童の患者タイプ注3
調査対象児童の看護必要度項目を用いて簡便に、患者の重症度のレベルを示すことが
できる患者タイプによって入所中の乳幼児を分類した結果、一般急性期病院で特定集中治療室
(ICU)レベルで最重度に値するタイプ5が427名(63.6%)と一番多く、続いて、同様にICUレ
ベルであるタイプ4およびハイケアユニット(HCU)レベルに相当するタイプ3がそれぞれ209
名(31.1%)、35名(5.2%)存在し、比較的一般病棟に多い、軽症の患者タイプの1、2の児
童は、全く存在しなかった。
4)患者タイプ別の処置およびADLの比較
患者タイプ別に看護必要度項目によるAおよびB項目の得点について、一元配置分散分析に
より検討を行った結果、処置を示すA項目では、「時間尿測定」にのみ、タイプ別の有意差があ
った。また、ADLの状況を示すB項目では、「どちらかの手を胸元まであげることができる」、「
寝返り」、「起き上がり」、「座位保持」、「移乗」、「移動方法」、「食事摂取」、「他者へ
の意思の伝達」の8項目について、患者タイプ別に統計的に有意な差が示された。
5)結果のまとめおよび考察
病院併設型乳児院に入所する児童は、急性
期入院医療におけるICUレベルに相当する児童が6割以上であり、その他の児童もHCUの患者に
相当する手厚いケアを必要とする児童であった。今後は、これらの状況を踏まえ、入所児童の
ケアニーズに応じた人員配置に資するような施策を検討する必要があると考えられた。
本研究は、H20厚生労働科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業)「要保護児童にお
ける被虐待による問題や障害等の類型化された状態像とケアの必要量の相互関連に関する研究
(研究代表者:筒井孝子)」の研究成果の一部を取りまとめたものである。
注1)看護必要度項目とは、患者の看護提供量を予測する項目として筒井によって開
発された。これらの項目の一部は、すでに診療報酬上の要件(7対1入院基本料、ICU、HCU、回
復期リハビリテーション病棟等)として医療保険制度に活用されている。
注2)重症度・
看護必要度評価票とは、注1で述べた診療報酬上の要件のひとつ「ハイケアユニット入院医療
管理料」の届出の基準とされる評価票のこと。
注3)患者タイプとは、ICUやHCU病棟の入
院管理料の届け出要件として義務付けられた患者評価票を用いた患者の分類法である。患者タ
イプ1から5まであり、数字が大きくなるにしたがって、看護の必要量は増加する。