自由研究発表児童福祉6  松宮 透髙

メンタルヘルス問題のある親による児童虐待
 -児童福祉施設・相談機関への量的調査に基づくその実態と支援課題-

川崎医療福祉大学  松宮 透髙 (会員番号2749)
キーワード: 《児童虐待》 《メンタルヘルス》 《ソーシャルワーク》

1.研 究 目 的

 本研究は,児童虐待の発生要因の一つとされる親のメンタルヘルス問題に着目し,その 実態および支援上の課題を明らかにすることを目的としている.昨年度報告した探索的な事 例調査に続き量的調査を実施したので,本発表ではその知見を中心に報告する.
  なお,この調査は明治安田こころの健康財団2008年度研究助成を受けて実施した.

2.研究の視点および方法

 児童虐待の発生要因のひとつとして,「親の精神障害」が指摘されることが多い. 1980年代から虐待者にはアルコールや薬物,性格の問題や人格障害,知的障害,精神疾患など の問題が高率に認められている(小野2001:18)とされ,国内外の先行研究から虐待する親の 30~70%に精神障害が見られる(吉田・長尾2008:83)という.児童相談機関における調査で は,虐待者の約3分の1から半数弱に精神科への通院歴があり(岡本ほか2006:155),周産期 のうつ病とネグレクトの関係についても多くの文献が言及するなど,親の精神障害は児童虐待 のリスク要因と認識されている.
  しかし,この問題に焦点を当てた研究の多くは医 療・保健領域のものであり,その対応についても親への治療的介入や被虐待児童への心理的支 援など,いわゆる医学モデルに基づくアプローチに論点が集中するきらいがある.ソーシャル ワークとりわけ精神保健福祉の視点に立つ研究は少なく,福祉現場における支援課題も明らか ではない.
  そこで,児童福祉施設・機関を対象とする 2つの調査を実施した.調査Ⅰ では,家庭支援専門相談員(ファミリー・ソーシャルワーカー)を配置する児童福祉施設,す なわち①児童養護施設,②乳児院,③情緒障害児短期治療施設,④児童自立支援施設を対象と した.調査Ⅱでは,相談支援機関としての①児童相談所,②児童家庭支援センターを調査対象 とした.いずれも名簿をもとにした悉皆調査とし,調査票を郵送にて送付・回収した.

3.倫理的配慮

 調査によって得られたデータは統計的に処理し,回答者・機関が特定できないよう配慮 した.調査依頼時にもその旨を提示した.記名回答者には結果の抄録を発送予定である.

4.研 究 結 果(抄)

回収率は44.7%であった.回答者の属性では,児童福祉経験年数が相談機関で 短い.社会福祉士などの資格所持者は施設16.1%,児童相談所22.5%であった.
入所・相談ケース中,被虐待児童の比率は福祉施設49.1%,児童相談所28.1% ,児童家庭支援センター47.0%.精神医学的診断を経ない回答を含めると,施設入 所児童の34.8%の親にメンタルヘルス問題があると認識されていた.親にメンタル ヘルス問題があり,かつ虐待を受けていた児童は入所児童の22.6%で,被虐待入所 児童の46.1%にあたる.なお,何らかの障害がある入所児童は26%で,そのすべて の障害種別で障害の無い児童の被虐待率46.2%より高く,特に発達障害児で63.1% と,率・人数とも顕著.
虐待した親のメンタルヘルス問題について,児童福祉施設では24.5%をうつ病 などの感情障害が占め,他は知的障害14.1%,統合失調症12.5%,人格障害11.9% などであった.相談機関も同様で感情障害が最多であった.なお,問題はあるが診 断も無く詳細不明とするケースは,いずれの調査でも20%以上と大きな比率を占め ている.
虐待種別は,児童福祉施設でネグレクトが56.0%,身体的虐待が29.9%を占め る.相談機関ではネグレクトよりも身体的虐待の相談が同等かそれ以上みられる.
児童福祉施設では,主な虐待者は母親が65.6%を占めるが,母子世帯が過半数 でうち7割は母親以外の成人同居者がいないという背景もある.また,当該児童を含 む世帯の44.6%が生活保護受給,36.4%が非課税低所得世帯であった.
メンタルヘルス問題について,相談機関の回答者の約20%が経験・知識がほと んどなく施設職員も26%以上が理解できていない.機関連携を重視しつつも,実際 には連携上の問題がある.メンタルヘルス問題のある親との関わりはストレスにな るとする回答が過半数.施設・機関とも精神保健福祉士の配置はほとんど無く,配 置の必要性も高くは感じられていない.さらに連携できていないとする回答も59.3% .親にメンタルヘルス問題があるためのニーズに沿った支援は,施設・相談機関と も十分に提供できていない.

5.考 察

 メンタルヘルス問題のある親と児童虐待との関係が強く認識されるが,この「メンタル ヘルス問題」と精神科医療・福祉が主な対象としてきた「精神障害」との間には差異がある. また,児童福祉と精神保健福祉との連携は,重視される一方で希薄である.人員配置はじめ 研修の不十分さなどもあり,支援者はこの問題に困難とストレスを感じている.精神保健福 祉機関・専門職はこの問題を認識した上で児童福祉領域と連携を深め,親とその子どもの双 方を視野に入れた支援体制づくりをともに構築すべきである.

6.引 用 文 献

小野善郎(2001)「精神障害を持つ養育者と児童虐待-母親のうつ病を中心に その関連性を探る」『生活教育』45(7)
吉田敬子・長尾圭造(2008)「養育者に精神疾患がみられる場合の虐待事例へ の支援-支援スタッフに潜む問題と周産期からの予防-」『子どもの虐待とネグレ クト』10(1).
岡本正子ほか(2006)「虐待する親・家族機能の質的評価と虐待進行の予防的 支援方法に関する研究」平成16年度厚生労働科学研究費補助金報告書.

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