子ども家庭福祉行政機関の機構改革と運営に関する研究
-障害児童福祉の在り方を中心に-
○ 東海大学 小林 理 (会員番号3505)
淑徳大学 柏女 霊峰 (会員番号273)
日本子ども家庭総合研究所 有村 大士 (会員番号5180)
日本子ども家庭総合研究所 板倉 孝枝 (会員番号6400)
子どもの領域研究所 尾木 まり (会員番号2333)
淑徳大学大学院 佐藤 まゆみ (会員番号5954)
関東学院大学 渋谷 昌史 (会員番号2908)
東京家政大学 網野 武博 (会員番号2334)
神奈川県立保健福祉大学 新保 幸男 (会員番号1599)
キーワード: 《機構改革》 《障害児童福祉》 《サービス供給体制》
本研究は全国の自治体における子ども家庭福祉行政機関の組織再編や機構創設その他の 先駆的取組について調査し、特色ある機構、事業についてその評価、検証を行い、今後の子 ども家庭福祉行政実施体制の在り方について検討を行うことを目的とするものである。特に 、障害児童福祉サービスの実施状況を把握し、今後、全国展開に資すると考えられる先駆的 取組について検証を行った。
2.研究の視点および方法 障害児童福祉分野における先駆的取組に関する情報収集、厚生労働省「障害児支援の
見直しに関する検討会」の情報、あわせて、本研究チームで別に行った、子ども家庭福祉行
政機関の機構改革と運営についての全国の中央児童相談所長対象質問紙調査の障害児童福祉
に関する結果(1)等を踏まえて、インタビュー対象とする10自治体(5道県2圏域3市)
を選定し、半構造化面接に基づくインタビュー調査を実施した。調査時期は2008年10月~2009
年2月である。質問項目は、それぞれの自治体の個別質問と障害児童福祉施策について、主
に都道府県から市町村への分権化に関する今後の方向等を問う共通質問を設けた。特に、分
権化についての項目では、障害児童福祉施設入所措置権限の移譲等市町村が担う主体的役割
に焦点化して質問を行った。
なお、本研究では過年度の研究枠組みを継続し「先駆的
取組」を、(1)国で制度化されていない取組、(2)国の制度を幅広く展開しているもの、(3)国
で制度化されている事業の制度化されていない部分を埋めているもの、と定義している。
自治体へのインタビュー調査においては、回答者名を匿名とし、自治体名を公表するこ とを前提として、報告書に掲載する内容の確認を求め、承認を得る手続きを踏んだ。さらに 、個別の障害児童福祉の利用ケースに関わる内容は扱わないこととした。
4.研 究 結 果(1)障害児童福祉部門における機構改革
本調査の対象自治体の現状では、3道県では、「障害」の専門性に着目した児者一貫の
支援体制への指向がみられた。北海道では、障害保健福祉課の所管業務範囲の拡大による機
構改革の状況、愛知県では、障害福祉課と心身障害者コロニー中心の実施体制、高知県では
、専門総合機関(療育福祉センター)の創設がみられ、「障害」に着目した児者一貫の支援
体制を指向する機構のしくみづくりが見られる。
他方、千葉県浦安市は、「子ども
に関する業務を一体的に進めることを目的」として、埼玉県東松山市は、「子どもに対する
取り組みの一貫性を意図」して、「子ども」であることに着目した機構改革を行っている。
相模原市については、平成19年の局制導入時に子ども専門の部を設置したが、障害福祉分野
の組織体制は維持され、障害児の所管に変更はなかった。機構改革は、分権化や自治体の財
政状況により、今後さらなる展開がみられる可能性があるが、「子ども」という点、あるい
は、「障害」という点という着眼点のちがいによる機構改革の方向性がみられることがわか
った。なお、この点の考察については、都道府県と市町村という行政単位の相違について配
慮が必要である。
(2)障害児童福祉分野における先駆的取組
一般施策の
中で障害児の受け入れを先駆的に進めている3市(浦安市、東松山市、相模原市)をみていく
と、いずれの市にも、子どもの障害を含む総合的な相談窓口が設置されている。なかでも浦
安市では早期から子どもの障害に関する専門スタッフを配置すると共に、近年では利用者が相
談を持ち込みやすい体制を築くために、研修等により養成された一般住民による「子育て相談
室」を置くなど、身近な相談を入口とし、専門性の高い相談窓口につなげる相談体制を構築し
ている。
(3)今後の障害児童福祉サービス供給体制の在り方
本調査の自
治体においては、障害児童福祉サービスについて、市町村及び契約制度を中心として実施す
ることは、原則として、支持されるものであった。しかしながら、すべてをこの仕組みのも
とで展開できるかについては、単純ではない。職権による介入が必要なケースや判断が難し
いものについては、児童相談所の業務とすることが適当であると考えられている場合が目立
った。浦安市では、その背景として、市町村の専門性や財源、社会資源(とくに入所施設)
の整備状況に格差があるということのほか、深刻な相談であればあるほど、住民にとって市
町村の敷居が高くなるという見解が見られた。
機構改革における障害児童福祉の対応は、児者一貫の支援体制を指向するために、子
ども家庭部局と障害福祉部局間での専門性の置き所や確保の課題、福祉関係部局と教育関係
や保健医療関係部局との間での連携や連続性の確保の課題が、共通にみられ、また自治体ご
との工夫がみられている。さらに、道県が専門性を地域へ根付かせる、活用しやすくすること
に課題や工夫をみせるのに対し、市では住民の利用をしやすくする、サービスへつながりやす
くすることに課題や工夫をみせる。加えて、過年度に報告した本研究メンバーによる「児童
福祉法改正要綱試案」(2)との関係では、措置制度と契約制度の間で、特に民営施設で、
児童の受け入れや経営の在り方について、経営安定面の課題に直面する可能性があるという
論点がみられる。
これ以外の考察論点に関しては、口頭報告のなかでふれることに
する。
※本研究は、恩賜財団母子愛育会日本子ども家庭総合研究所の平成20年度チーム
研究の一環として実施したものである。
註
1)本研究チームで昨年度実施した
全国の中央児童相談所長への質問紙調査結果については、「第10回日本子ども家庭福祉学会
大会」(2009年6月)の口頭発表(佐藤まゆみ他)とし本報告では取り上げない。
2)「
第54回日本社会福祉学会大会」(2006年10月)の口頭報告(柏女霊峰他)及び『日本子ども
家庭総合研究所紀要第42集』(2006年)所収の論文(柏女霊峰他)を参照。