自由研究発表児童福祉6  藤原 里佐

重なり合う困難としての母子の障害-母子生活支援施設利用者の分析から

北星学園大学短期大学部  藤原 里佐 (会員番号4865)
キーワード: 《障害》 《母子生活支援施設》 《貧困》

1.研 究 目 的

 母子生活支援施設に関する研究動向としては、DVが社会的に認知されるのに伴い、ま た施設に入所している母親を母親役割に固定するだけではなく「女性」として捉え直し、女 性福祉の立場から母親への支援を検討していくという流れがあった。
  しかし一方で、 近年の貧困問題が注目される以前より、母子生活支援施設に入所している母親の生育歴には、 子ども期の生活困窮や家族関係の不和等が見られた。定位家族から生殖家族へ移行するとき にも、そうした不利が解消されず、DV、借金、貧困等のさらなる困難を抱え、ひとり親家庭 を形成するという経過をたどっていることは、これまの調査でも明らかにされている 。
  母子生活支援施設利用者の貧困や社会的関係性の乏しさ、生活スキルの問題等は、 世代間連鎖や再生産という視点から着目されているが、母・子の障害に伴う、生活上の困難や 子育ての大変さについては、これまであまり論じられてこなかった。本研究では、母子生活支 援施設が児童福祉施設であるという側面から、母親の「子育て」を援助していく時に、困難の 重なりをどのように捉えるかについて検討するものである。
  子どもに重度の障害があ る場合は、母子生活支援施設での親子の生活は選択されにくく、母親に顕著な障害がある場合 も、母子は分離される可能性が高いと思われる。しかし、母子生活支援施設入所後に、集団生 活や医療機関受診の機会を通して子どもの障害が発見される場合や、母親の疾患や障害が、就 職活動やその訓練の途上で顕在化することも起こりうる。すでに全国調査 でも示されているよ うに、母子生活支援施設の母親が知的障害や精神障害を有している割合、同施設の子どもが障 害や疾患を持っている割合は、高率であると言える 。
  母子家庭の母親に障害がある こと、子どもに障害があること、あるいは、母子共に障害があることをどのような視点から見 ていくべきか。本研究では、母子生活支援施設入所者の「障害」の諸相と、その支援のあり方 を探りたいと考える。

2.研究の視点および方法

 母子生活支援施設に入所する母親の背景には、低所得、親族ネットワークの希薄さなど、 生活基盤の脆弱さが潜在している。すなわち、安定的な収入、身近な援助者、親子が生活でき る住居等を得られない事情を有している点に、母子生活施設の母親の特性があると仮定する。そ うした中に、障害という問題が重なることは、より多くの困難が生じることであり、また、母や 子に障害があったが故に、生活が立ちゆかなくなることも想定される。
  母親の日常生 活スキルの向上、社会資源とのつながりの援助、子どもの生活支援や学習指導など、すでに多 面的な機能を果たしている母子生活支援施設において、障害のある母親や子どもに、どのよう な援助を行うことが可能であるのか。母子の実態を手がかりに、母子生活支援施設の現代的役 割を考えていく。
  調査は、「調査伺い」を事前に施設に送付し、承諾を得た12都道府 県38施設に対して調査票を送付した。回収は、「施設でまとめて回収して返送する方法」と「 回答者自らが郵送により返送する方法」の二種類の方法を提示した。いずれの場合にも、調査 票に封のできる封筒(個人回収の場合は切手付きの封筒)を用意し、個人のプライバシーが保 たれるように配慮した。調査時期は、2009年2月~4月であり、本報告は、それに基づく中間 発表である。なお、本研究は、平成19~22年度科学研究補助金(基盤研究B)「母子生活支援 施設の現代的役割に関する研究」の交付を受けた研究の一部である。

3.倫理的配慮

 本調査は、平成20年度北海道大学大学院教育学研究院における「人間を対象とする研究審 査」において承認されている(受付番号08-19番)。

4.研 究 結 果

 上記手続きによるアンケート調査のうちの117票(配布183票、回収119票、その中で白紙 の2票を除く117票、回収率63.9%)の分析結果に加えて、施設と本人に承諾が得られた母親 に対する面接調査に基づき、結果を考察する。
  母子生活支援施設において、母親が障 害を有している場合には、就労のための訓練や、就職活動の困難、経済的な不利に加え、体調 がすぐれない状態で子どもをみることの負担感が明らかになった。一方、子どもに障害がある 場合は、個別的かつ専門的なかかわりを母親が担うことの困難、子どもの「自立」が展望でき ないことと、それによって、母親自身の自立が遅れることの葛藤が窺えた。ひとり親家庭の母 親に、経済的な問題、健康上の不安、子育ての問題等が集中的に顕れ、それぞれの問題は重複 することでより深刻化していること、また、相互作用的、連鎖的に派生していることが示唆さ れた。

1北海道母子生活支援施設協議会(2002)『母子生活支援施を利用している方の生活と意 識に関する調査報告書』。岩田美香(2007)「シングルマザーの『貧困観』-母子生活支援利用 者への調査結果報告」『教育福祉研究』第13号。
2財団法人子ども未来財団(2008)『母 子生活支援施設における発達障害児支援に関する調査研究』。
3財団法人子ども未来財 団 前掲書41-44p。

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