里親委託に関する一考察
-良好・不調ケースの分析から-
○ 日本子ども家庭総合研究所 有村 大士 (会員番号5180)
青山学院大学/日本子ども家庭総合研究所 庄司 順一 (会員番号3315)
相模原市 浅井 万梨子 (会員番号7059)
京都府立大学 板倉 孝枝 (会員番号6400)
愛知淑徳大学 谷口 純世 (会員番号3631)
キーワード: 《里親》 《里親委託》 《良好・不調ケース》
平成21年4月より、養育里親の手当が増額され、かつ児童相談所の他に里親を支援する 里親支援機関の設置が可能になるなど、必ずしも十分とは言えないが、里親家庭を支援する ための施策が進んでいる。里親委託を円滑に行うためには委託後の経過が良好なケースの分析 とともに、里親-里子の関係が不調になったケースの分析が必要だと考えられる。とくに里親 不調は委託された子ども、そして里親自身にも大きな痛手を与えるものであり、この問題の理 解と対応は里親委託においてたいへん重要な課題といえる。しかしながら、里親不調について は、これまでほとんど客観的な把握が行われてこなかった。委託する側である児童相談所と、 委託を受ける側である里親では、立場により求めるもの、あるいは里親不調等に関する認識の 違いがあることが考えられる。従って、本研究では里親不調を減少させるための視点を探るた めに、現状の把握と分析を行う。また、その背景にある児童相談所と里親、さらに子どもを送 り出すことの多い施設の側からみた里親委託についての現状と認識等を把握することを目的と する。
2.研究の視点および方法委託する側である児童相談所、子どもを里親のもとへと送り出す側である乳児院、児童 養護施設、そして里子を委託される側である里親(今回の場合、専門里親)を対象に調査を実 施した。児童相談所、乳児院に関しては全数調査とし、児童養護施設に関しては数が多いため 20%をランダム抽出し、それぞれアンケート票を送付した。加えて、里親経験が比較的長いと 考えられる専門里親について、平成20年度日本子ども家庭総合研究所 専門里親継続研修参加 者に対して、アンケートの趣旨を説明し、ご協力頂ける方のみに記入をお願いした。
3.倫理的配慮倫理的配慮のため、施設、個人が特定されないよう入力、集計結果のみを使用すること し、調査票単位での分析を行わないこととする。加えて、日本子ども家庭総合研究所の研究倫 理委員会にて審査を受け、研究方法についてその承認を得た。
4.研 究 結 果 児童相談所135カ所(68.5%)、児童養護施設74カ所(74.0%:抽出した100施設のうち)
、乳児院92カ所(76.0%)、専門里親86名(97.7%:専門里親継続研修出席者のうち)より回答
が得られた。
回答のあった児童相談所において、乳児院、児童養護施設の入所定員と
比較し、平成19年度中に新たに委託された子どもの数を把握したところ、それぞれ平均約41.8
%、13.5%であった。乳児院、児童養護施設におけるデータを見てみると、乳児院、児童養護
施設とも、一定の期間子どもと家庭の様子を慎重に検討した上で、里親委託を実施する割合が
高いことがうかがえた。一方で年齢が高くなってからの里親委託も、割合は少ないながらもあ
る一定の割合あった。
里親不調については、 児童相談所において平成19年度に「予
定していなかった措置変更」のための委託解除となったケースについて調査した結果、小学校
に上がる段階の5歳以上7歳未満、7歳以上10歳未満が一つのピークでとなっていた。さらに13歳
から16歳、そして自立に向けた16歳以降も一つのピークとなっていた。
乳児院でうま
くいかなかった事例の記述を検討すると、まず子ども側の要因として試し行動、生活体験不足
からくる行動上の問題も挙げられているものの、里親、あるいは里親夫婦の一方になつけなか
ったという記述が多い。里親側の要因としては、里母、里父の間での温度差、里子に対する過
剰な期待、先に委託された子どもとの関係不調、実子との関係などが挙げられていた。マッチ
ングの問題としては、初期の情報提供不足に加え、遠方であるなどの理由で委託前の面会が不
十分であったことなどが挙げられていた。委託後のフォロー、サポートの問題としては、家庭
訪問が十分できなかったことや、里親からの手紙等で順調だと判断していたことなど、里親の
思いや不安への対応の課題が示唆された。
また、専門里親では 専門里親では、半数
近い里親が委託解除の経験を持ち 、その理由としては最も重要なものとして年齢、障害、問
題行動などの面から、子どもの状態が難しかったという回答が最も多く、次いで自分(里親)
、家族の対応がうまくできなかったこと、児童相談所の支援が不十分だったことなどが挙げら
れていた。
今回の調査で、里親不調については、里親は約50%が経験していたことが
注目されるが、その要因について、児童相談所、施設、里親それぞれの立場からの見解が示さ
れたことは重要といえる。里親の支援策については、従来から指摘されてきたことも多いが、
児童相談所職員の増員と専門性の向上など、いわば基盤整備といえることから、適切なマッチ
ングと交流、里親支援機関への期待、研修の充実や里親同士、里親と施設との連携なども指摘
された。マッチングにおいては子どもの状態把握とともに、里親の特徴(経験、考え方など)
だけでなく、力量等についても検討される必要が示唆された。
本研究は、財団法人こ
ども未来財団 平成20年度児童関連サービス等調査研究等事業「施設から里親への円滑な移行
と里親支援のあり方に関する研究」(主任研究者:庄司順一)の一部として実施した。助成に
深く感謝する。