自由研究発表児童福祉5  森本 美絵

継続的インタビューから見えた里親家庭への社会的支援のあり方
 -就学前と就学後の育ち環境の進展に着目して-

京都橘大学  森本 美絵 (会員番号2777)
キーワード: 《里親家庭》 《社会的支援》 《育ち環境》

1.研 究 目 的

 本研究の目的は、ある里親家庭において観察された子どもの成長の要因を分析すること を通して、これまで客体化させる試みの少なかった里子の養育過程とその養育条件を明らかに することにある。これまでに森本・野澤は、里子A受託後~就学前(2006『社会福祉学』第47 -1巻)と就学後から3年間(日本社会福祉学会・口頭発表)の里子Aの成長過程と分析及び 社会的支援の必要性について、里子の養育過程分析を中心に報告してきた。
  本発表 では、里子受託から前思春期を迎えるまでの約8年間の継続的インタビューによる里親家庭 が必要とした支援のなかみ(実際)を検討することにより、就学前と就学後における育ち環 境の進展に着目した里親家庭への支援のあり方を述べる。

2.研究の視点および方法

 本研究への課題意識は、①里親家庭で子どもはどのように成長していくのか、②実親家 庭を奪われた子どもの育ちに必要な環境や条件は一体なにか。③施設養育と里親養育とでは 何がどのように共通し、また異なるのか、④里親家庭は、地域社会や専門機関にどのような 支援を求めているのか、である。研究方法は、里親家庭への訪問による半構造的インタビュ ーである。里子の成長、里親・里親家庭の様子および社会的支援に関する情報を収集した。イ ンタビューの時間は、2時間半ないし3時間であり、里親の承諾を得てICレコーダー等で録音し た。その際、里子Aが同席することもあった。

3.倫理的配慮

 本研究は、里親の証言によって得た養育過程の記録を総合的に分析したものであるが、 事例分析では、プライバシーの保護、守秘義務により、趣旨を歪曲しない程度に若干の加工 をしている。また、里親家庭Cより本研究の発表の承諾も得ていることを明記する。

4.研 究 結 果

 受託時の里子(里子A)は、実年齢2歳10ヶ月であるが、無言、無表情、抱っこを拒否、 基本的生活習慣の未自立、運動諸機能の遅滞など、発達年齢は1歳4ヶ月であった。里親家庭 は、夫婦、高校生以上の実子3人、小学生の里子(里子B)の6人家族、夫婦共働きであった。 里 子就学までに、里親が軽減・解決を望んだ主な課題は、排泄、食事、睡眠、入浴に関わる基 本的習慣の自立、言葉の獲得、自己表現力の発達、自己肯定感を高めること、発達の遅れを 取り戻すことであった。そして、発達の遅れに対しては、虐待環境での養育に起因するか、超 未熟児出生に起因するかはわからなかった。受諾時から就学前、里母が仕事にでた日中の里子 Aの主な世話は、実子と帰宅後の里子Bによる。主な生活の場と関わる人は、里親家庭であり家 族である。そして、少しずつ、近所の子どもの居る家、里母の職場、保育所へと生活範囲は広 がって行くが、限定的であった。そして、これら生活・活動の場は、常に里親家族と里子状況 をよく知った保育所に見守られている。里親及び里親家族は、様々な里子の課題に直接に対応 することが多く、中心的な養育環境として果たす役割は非常に重要である。しかも、里親家庭 は、初孫の実家出産と母子の世話、義母との同居と介護など、家族構成や生活のあり様に変化 があった。 就学後の里親の心配は、里子Aの排便自立の見通し、偏食、真実告知の時期、実 親との関係、ともだち関係、里子の将来であった。入学後の里子Aの生活・活動は、学校を中 心に多様になる。例えば、登校班での異年齢児童との関係、クラスメートとの関係、友人の家 族、親友、スポーツ少年団の仲間とその保護者・監督者等である。里子Aの生活・活動範囲は 、4年間でかなりの広がりをみせ、しかも、家庭以外で過ごす時間は格段と多くなり、親密な 仲間関係がそれら生活を支える。このように学年が進むにつれ、里親が直接に関わり掌握でき る里子の生活内容はかなり減少する。里親家庭の生活は、転居、転居による通勤・通学の変化 、義母の施設入所、短期里子きょうだい3人の受託と措置移管、幼児Cの受託、里母の体調不良 (鬱様症状)、実子らの大学受験や結婚・独立、里子Bの進学等の各家族のライフサイクルに 伴う生活形態の変化にも影響を受ける。 里子Aは、このような養育環境の大きな変化のなか で、不登校傾向を現す。里親の心身の負担は、大きい。気心の知れた保育園の世界から引越し してきて見知らぬ地域社会へ。勉強の遅れ、級友との関係、先生の反応、いつまでつづくのか 等、保育所と義務教育である学校の欠席・遅刻・早退では、里親の心理的負担は全く異なる 。 就学前里子A養育において主に里母を心身ともに支えたのは、里父、年齢の高い3人の実 子、小学生の里子B、知人の発達相談専門家、里親会の里親、里子・被虐待に理解ある保育所 である。そして、就学後では、学校・虐待対応教員、里親会・里親、スポーツ少年団の保護者 である。里母の心配・不安を緩和した声掛けは、体験に基づく助言や、里母の心労や里子Aの 気持ちを気遣う言葉である。
  里親家庭は、①里子養育環境であると同時に家族養育 環境である。その環境は、里子だけに準備されているわけではなく、日日家族のそれぞれの 事情やその関係で、変化する。そして、②里子は、里子の成長とともに、それぞれの家族や自 分のこと、そして、将来を考える知力を備えていく。里親家族と里子はそれぞれに2重構造を 抱えている。2重構造は就学後増大する。これらのことを考慮すると、里親家庭への支援は、 里子の就学前と就学後では、大きく異なることがわかる。また、里親家庭への支援は、里親家 庭への公的支援メニューを次の点から考慮したあり方が必要であろう。
  ①里子の抱え ている課題-育ちの課題、実親との課題、障害による課題と年齢(就学前、後)への支援と共 の観点から ②里親の年齢、家族構成と家族のライフサイクルの位置に対する家族支援 ③地域 社会や住民組織の状況、近隣保育所の意識、学校及び教員の意識と職員配置などがあり、地域 里親会の活動状況・行政との連携状態、里親の社会的活動への意識、地域の福祉施設の里親連 携の状況、地域行政の方針と実態の検討が求められる。

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