自由研究発表児童福祉4  伊藤 嘉余子

児童養護施設入所児童が語る施設生活のアメニティ
-施設入所児童に対するインタビュー調査からの検証-

埼玉大学  伊藤 嘉余子 (会員番号3930)
キーワード: 《児童養護施設》 《満足度》 《アメニティ》

1.研 究 目 的

近年、児童養護施設のあり方をめぐる論議は、地域化や小規模化をキーワードとした「いかにして、施設入所児童に対して 一般家庭に近い養育を提供できるか」という点に焦点が当てられることが多い。また、被虐待児や発達障害を抱える子どもの 入所が増え、施設として効果的な援助を行うにはどのような改善が必要なのかという議論も活発化している。子どもの目線に 立ち、子どもの成長発達に望ましい養育を提供するにはどうしたら良いのか、現場職員・学識経験者をはじめとする関係者が 模索している。
  どの施設においても、子どもにとって最善の生活を提供するという共通の目的を掲げ、日々の養護実践のあり方について 検討する中で、子ども自身が施設生活をどう捉えているか、また施設生活についてどのような感情を抱いているかについて吟 味し、養護実践に反映させようという試みは必ずしも多くない。施設によっては、子どもの自治会のような組織があり、そこ で子どもと職員の意見交換がなされ、施設生活に反映させるという取り組みがなされている施設もある。しかし、子どもたち が、直接の利害関係にある自分の養育者である施設職員に対して常に「本音」を語ることができるかは疑問である。
  そこで、本研究では、施設入所児童自身の語りによって、子どもたちが施設生活の何に満足/不満足を感じているのかに ついて明らかにすることによって、今後の児童養護施設における養護実践に活かす視点を見いだすことを研究の目的とした。

2.研究の視点および方法

A児童養護施設において、施設入所児童10名を対象にインタビュー調査を行った。
  インタビュー調査の対象児童については、学年(小学校低学年・高学年、中学生、高校生)、性別に偏りが出ないよう 配慮した上で、A施設に選定して頂いた。選定に際しては、施設職員の方から、子ども本人に対してインタビューの趣旨と 内容および方法について説明して頂いた。
  上記の手続きを経て、合意を得られた10名の子どもを対象に半構造化面接によるインタビュー調査を行った。協力者の 属性は表1のとおりである。
  インタビューにおいては「施設に来てよかったと思うこと」「施設に来てイヤだなと思うこと」について自由に語って もらうことに焦点をおいた。
  さらに最後に「あなたにとって児童養護施設とは?」という質問に自由に語ってもらった。
  インタビューの結果については、M-GTA(修正版グラウンデッドセオリー)の手法に基づき、以下の手順で分析を進め た。①逐語化(結果のデータ化)、②データの秩序付け、③データの断片化、④オープン・コーディング、⑤カテゴリー作 成、⑥カテゴリー間の関係探索

3.倫理的配慮

倫理的配慮として、協力者に対して、秘密保持に関する文書を提示し、口頭説明を行った。また、A児童養護施設に、 協力者の個人情報を守る旨の誓約書を提出した。
  インタビューをICレコーダーで録音することについては事前に協力者及び施設長に承諾を得た。

(表1)インタビュー協力者の基本属性

      入所期間  父母の状況・入所理由
 A  女  17歳  3年 9ヶ月  父:不明・母:時々面会あり 母子家庭、母養育困難
 B  男  11歳  0年 6ヶ月  父:死亡・母:生活不安定、母触法行為、養育困難
 C  女  14歳  4年 6ヶ月 父:不明・母:死亡(長女:面会外泊あり)、養育者なし 
 D  男  16歳  3年 5ヶ月  継父:別居、実母:面会外泊あり、継父からの虐待
 E  男  13歳  3年 6ヶ月  父:死亡・母:拘禁中(祖母:面会外泊あり)、祖母養育困難
 F  男  8歳  0年 6ヶ月  継父・実母面会外泊あり、継父からの虐待
 G  女   6歳  2年11ヶ月  父:行方不明・母死亡、養育者なし
 H  女   12歳  3年 2ヶ月  父:帰国・母:死亡、祖母養育困難
 I  女   10歳  2年 3ヶ月  父:行方不明、母:生活不安定、養育困難
 J  男  13歳  3年 2ヶ月  父:帰国・母:死亡、祖母養育困難
4.研 究 結 果

分析の結果、26のサブ・カテゴリーが抽出され、それらを10のカテゴリーにまとめることができた。なお、10カテ ゴリーのうち、4つは「施設生活への満足」カテゴリーに、6つは「施設生活への不満」カテゴリーに分類した(表2) 。なお、関係探索の結果については紙面の都合上、ここに掲載できないため、発表当日に配布する。

            (表2)インタビュー結果のカテゴリー

施設生活への満足   施設生活への不満
1)衣食住生活への満足
2)施設内の人間関係への満足
3)行事・イベント・レク活動への満足
4)退所後にもつながる愛着
1)食事への不満
2)ルール・制約への不満
3)建物設備への不満
4)家族との交流のあり方への不満
5)施設内の人間関係への不満
6)入所前の生活(実親との生活)との比較

5.考 察
1)安定した衣食住生活に対する強い安心感
2)職員への信頼感の強さは、施設生活への満足度に比例する
3)建物設備の新しさ、美しさが子どもに与える影響の大きさ
4)自由な生活から制約の多い生活への移行とストレス
5)人数の多さが子どもに与える快・不快(適切な養育ケア単位の人数の検討)
6)施設入所によって、子どもたちが失った「あらゆるもの」への配慮の必要性

※本研究は、2007~2008年度科学研究費補助金(若手研究(B))「児童養護施設小規模ケアにおける環境設定のあり方に関する研究」 (研究代表者 伊藤嘉余子)の成果の一部を報告するものです。調査研究にご協力頂いた関係諸氏と子どもたちに深く御礼申し上げ ます。ありがとうございました。

↑ このページのトップへ

トップページへ戻る

お問い合わせ先

第57回全国大会事務局(法政大学現代福祉学部)
〒194-0298 東京都町田市相原町 4342

受付窓口

〒170-0004
東京都豊島区北大塚 3-21-10 アーバン大塚3階

株式会社ガリレオ 学会業務情報化センター内
日本社会福祉学会 第57回全国大会 係

Fax:03-5907-6364
E-mail: taikai.jsssw@ml.gakkai.ne.jp