自由研究発表児童福祉4  堀場 純矢

「児童養護施設で暮らす子どもの健康問題」
 -東海地区5施設の調査から-

日本福祉大学  堀場 純矢 (会員番号5614)
キーワード: 《児童養護施設》 《子ども》 《健康問題》

1.研 究 目 的

 児童養護施設(以下,施設)に関する近年の先行研究では,被虐待ケースの増加を背景 として,心的外傷(トラウマ)と心理治療(西澤1997,森田2002)など,心理ケアにおいて 一定の蓄積がある.次に,要保護児童1)の健康問題に関する近年の先行研究をみると,全国 児童養護施設協議会(1998),厚生労働省(2003),芝田・羽根ら(2008),増淵(2008)による ものなどがある.
  これらの先行研究では,施設で暮らす子どもの健康問題が深刻で あることが浮き彫りになったものの,入所後に疾患・症状がどのように改善したかについて はふれられていない.そこで,筆者は施設で暮らす子どもの健康問題,および「入所時」と 「入所後」の子どもの疾患・症状の実態について明らかにするため,東海地区5ヶ所で調査を 行った.

2.研究の視点および方法
(1)東海地区の児童養護施設5ヶ所の子ども211名.

 内訳:X園(50名),N園(64名),Y園(32名),W園(23名)Z園(42名).
(2)調査 期間: 2000年3月,2004年8月,2006年7月~2008年8月.
(3)調査項目:①各施設のケー ス記録と自立支援計画から,子ども健康状態について「入所時」と「入所後」(調査時点 )にみられた疾患・症状を転記した.②各施設の職員(主任や担当職員)には,記録に不備があ る部分とケースごとに子どもの疾患・症状がどのように改善したか,入所後に疾患・症状が深 刻化した理由の2点について聞き取りを行い,その情報をもとに表に転記した.
(4)調査 の枠組み
  筆者は,人間の「健康」について,社会的健康(人と人の対話・交流)を基 本に据えて,精神的健康,身体的健康,社会的健康の3つの側面から,包括的に捉えている三 塚に依拠して調査項目を設定した(三塚1997:54-59).

3.倫理的配慮

 本研究は本学会の研究倫理指針に基づき,研究倫理上,必要な手続きを経ている.また, 事例研究では,個人が特定されることのないよう,加工が加えられている.

4.研 究 結 果

 施設で暮らす子どもたち(5施設211名)の健康状態は,入所時に「アレルギー疾患」 が25.1%,「過食・偏食」が23.7%,「歯科疾患」が19.9%などの疾患・症状,および「知的障 がい・発達障がい」が21.8%と多くみられた.一方,入所後に増加する症状は,「精神的不安 定」の32.7%であった.身体症状と精神症状の重複ケースは,入所時に18%(38名),入所後(調 査時点)に19.4%(41名)存在しており,5ヶ所全体の合計で見ると増加傾向にあった.これは成 長に伴う思春期以降の精神症状やアレルギーの増加などによると考えられる.次に入所時に何 の症状もなく入所したケースは,僅か8.5% (18名)であった.一方,入所後の「症状なし」 は14.2% (30名)と約倍増しており,子どもの疾患・症状が一定程度,改善していた.
  以上みてきたように,本研究では,施設において,①入所時の子どもの健康問題(障が いを含む)が深刻であること,②入所後に通院や職員,他の子どもとの関わりの中で疾患・症状 が一定程度,改善していること,③入所後に「精神的不安定」などが増加し,職員が通院や個 別対応に追われていること,以上の点から④生活面だけではなく,心身の健康や服薬管理など の医療ケアが不可欠であることが浮き彫りとなった.
  本研究の課題として,①「入所 後」の調査時点が施設ごとに異なること,②子どもの入所期間が数ヶ月から10年などの開きが あり,効果測定が十分とはいえないなどの限界はあるが,施設で暮らす子どもの健康問題につ いて一定の傾向を掴むことができた.これは調査の性質上やむをえない面はあるが,今後,詳 細に事例を分析し,施設で暮らす子どもの健康問題について実証的に浮き彫りにしたい.


1) ここで述べる「要保護児童」とは,親の入院,就労,虐待,経済的理由な どの児童養護問題を契機として家庭で暮らすことができず,児童相談所や児童養護施設へ保護 された子どものことをいう.
文献

・三塚武男(1997)『生活問題と地域福祉』ミネルヴァ書房,54-59.
・芝田登美子・羽根司人他(2008)「要保護児童のう蝕と生活習慣の状況」日本子ども虐待 防止学会『子ども虐待とネグレクト』vol.10 No.1,金剛出版,25-33.
増淵千保美(2008)『児童養護問題の構造とその対策体系』高菅出版,173-175.
・全国児童養護施設協議会(1998)『児童養護施設における病・虚弱児等に関する調査結果 報告』.
・西澤哲(1997)『子どもの虐待と臨床心理的アプローチ』子どもの虐待防止 センター,72-116.
・森田喜治(2002)「児童養護施設における心理職の役割について」 高橋利一『児童養護施設のセラピスト』筒井書房,30-61.

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