「学校」という場における教育と福祉の実践・理論の関連付け
-スクールソーシャルワークをどのように位置づけるのか-
神戸常盤大学短期大学部幼児教育学科 野尻 紀恵 (会員番号6653)
キーワード: 《福祉教育》 《教育福祉》 《スクールソーシャルワーク》
埼玉県所沢市で始まったとされる日本におけるスクールソーシャルワーク(以降SSWとす
る)は、その後兵庫県赤穂市や香川県、大阪府などで実践されてきた。そして2008年度にはス
クールソーシャルワーカー(以降SSWerとする)活用事業に15億円の予算が計上され、全国141地
域で新たにSSWが実践された。しかし、日本ではSSWの歴史は浅い。
そこで本研究では
、戦後から現在の「学校」における教育と福祉の実践・理論を整理し、そこでのSSW実践の立ち
位置を考察することで、日本における現在のSSWの位置づけを明確にすることを目的とする。
子どもの抱える生活課題が、学校教育にとっても大きな問題となっている。その背景に
は、貧困や生活格差の問題(青木2003;西田2005;山野2006)、子どもに関心が向けられな
い家族の実態(岩田2003;山野2003)というような、親の生活実態の困難さが存在する。よっ
て、教育が抱える問題は実は福祉の問題であり、教育と福祉の統合が不可欠であるといえる。
小川(1985)によれば、現代の教育福祉論は、「現代社会における教育福祉問題を前
提としている。前提としての教育福祉問題を基底的に規定しているものは現代の貧困問題、と
くに教育における現代の貧困問題にほかならない」(1))。背景には、社会の崩壊、地域社会
や家庭、親子関係にまで及ぶ人間関係の疎外、等がある。よって、それらの実態に対する教育
福祉のあり方は、実践的な課題であるといえる。小川は、「基本的に重要なことは、児童の生
活と教育の問題を全面的にとらえること、そのために『学校と児童の家庭と地域との間に適切
な処置を確保する責任』(シーボーム・レポート)が国と地方自治体、とくに自治体にあると
いうことである。」(2))としている。これらによれば、教育福祉の課題は、子どもの現実に
ついてリアルに捉えることであるといえる。
そのような学校現場に入り、福祉的アプ
ローチを試みているのがSSWerである。生徒の抱える問題は、基本的には生活課題であるから
だ。
さて、ソーシャルワークは、人とその成長に対する全体的なアプローチ、生活体
験の場での成長の可能性に力点を置くことなどに焦点を当ててきた。SSWerも、ソーシャルワ
ークの、特に人間の成長に役立つような環境の整備という目的を持つことができると考えられ
る。つまり、学校や地域等、メゾシステムが影響を及ぼす場に焦点を当てた活動は、広範囲に
わたる効果があり、システム全体にわたる反応を呼び起こすことができると考える。
そこで、SSW実践が日本の「学校」に根付くためにも、時代背景とともに、「学校」
においてどのような「教育」と「福祉」の重なりが見られ、どのような実践がなされ、またど
のような理論が展開されてきたのかを改めて整理する必要があると考える。SSWはその歴史的
な実践のどのような部分に関連し、どのようなところを補完し得るのか考察することが重要
である。そして、SSWの立ち位置を明確にすることは意義があると考える。
【研究方法】
① 教育と福祉の重なり合いについて、実践と理論を文献整理し、関連付ける。
② 日本におけるSSWの文献を整理する。
③ 日本におけるSSW実践例をリサーチし、整理する。
④ ①②③を関連付け、SSWの位置づけを明確にする。
研究倫理指針にのっとり、実践地域や個人情報については守秘義務を守ること、研究目 的以外には使用しないこと、記述にあたっては地域や個人が特定されないように十分に注意 すること、を文章で説明し理解を得た上で、SSW実践例のリサーチを行う。
4.研 究 結 果 次にあげる3つの視点による研究結果を構造化し、図に表現することができた。
(詳しい資料・構造化図は当日配布)
(1)「学校」のとらえ方日本における「学校」のとらえ方には特徴がある。
「学校」および教員には、そもそも福祉的役割が期待されている。またそれを担っ てきた歴史がある。
(2)児童福祉法との関連
「すべての子ども」が対象
教育福祉の理論を発展させることの意義
(3)福祉教育とSSWの重なりと補完 性
実践のあり方から見えたもの
【引用文献】
1)小川利夫(1985)『教育 福祉の基本問題』勁草書房 p168
2)上掲書 p169