自由研究発表児童福祉3  大西 良

不登校に対するスクールソーシャルワークの実践
  -エコロジカルアプローチからの検討-

○ 久留米大学  大西 良 (会員番号6793)

久留米大学  藤島 法仁 (会員番号6873)

長崎ウエスレヤン大学  占部 尊士 (会員番号7130)
キーワード: 《スクールソーシャルワーク》 《不登校》 《エコロジカルアプローチ》

1.研 究 目 的

 学齢期の子どもたちが直面する課題は,時代や社会の状況を反映し,様々な形態をとっ て顕在化してきた.近年では,貧困や疾病といった問題に加え,不登校や引きこもり,児童 虐待や学級崩壊なども生じている.とりわけ,不登校については,2008(平成20)年度の文部 科学省の統計(速報)では,不登校生徒数が105,197名を数え,近年,再び増加傾向にあるこ とが報告されている.
  このような状況に対して,文部科学省は,不登校への対応とし て,①「将来の社会的自立に向けた支援の視点」,②「連携ネットワークによる支援」,③「 将来の社会的自立のための学校教育の意義・役割」,④「働きかけることや関わりを持つこと の重要性」,⑤「保護者の役割と家庭への支援」の5つの視点を示している.特に,「社会的 自立」や「連携ネットワーク」,「家庭への支援」については,スクールソーシャルワークの 実践においても重要なキーワードである.
  以上のことを踏まえ,本研究では,不登校 生徒への支援を通して展開されたスクールソーシャルワークの実践について,「人と環境の相 互作用」に着目するエコロジカルアプローチの観点から分析を試みるとともに,上述した5つ の不登校対応の視点について考察することを目的とした.

2.研究の視点および方法

 分析対象の事例は,以下に示すように,スクールソーシャルワーカーが支援に関わった 不登校事例3例である.
  事例1:身体的不調を伴う不登校の事例
  事例2:友人 とのトラブルによる不登校の事例
  事例3:教師とのトラブルによる不登校 の事例
  分析方法としては,エコロジカルアプローチの観点からecological map(以下 ,エコ・マップと略す)を使用することで,当該事例での人間関係や社会(資源)関係などの諸 関係の空間的位置と時間的変化を視覚的に把握し,全体構造と関係性の分析を行った.

3.倫理的配慮

 事例の取り扱いについては,先立って生徒およびその保護者に対して説明を行い,結果 は学会等で報告を行うが,プライバシーは厳密に保護される説明を行って同意を得た.また ,各事例の詳細は差し支えのない範囲でプライバシー保護のために一部改変した.さらに,「 日本社会福祉研究倫理指針」に準じて,最大限,個人情報の秘密保持とプライバシー保護への 配慮を行った.

4.研 究 結 果

 この3つの事例に共通するスクールソーシャルワーカーの働きかけとしては,①家庭訪 問や教育相談などの生徒への支援ならびに保護者への働きかけ,②不登校生徒の受け入れに 向けた学級づくりや生徒間の関係調整などの学級への働きかけ,③医療機関や小学校,教育 支援センター(適応指導教室)などの外部機関との連携や情報共有といった地域への働きか けなどであり,ミクロレベルからマクロレベルにかけて広がりをもつ実践であった.
  生徒とその家族の「社会的自立」に関しては,学校に登校するという結果のみを最 終目標にするのではなく,生徒が自らの進路を主体的に捉え,社会的に自立することを目指 すものであった.また,不登校状況にある時期をストレスからの回復するための休養期間と しての意味や進路選択を考える上で自己を見つめる積極的な意味での'待つ'期間として捉え た支援を行った.しかし,現実の問題として,不登校による進路選択上の不利益や社会的自 立のリスクについても検討する必要もあった.さらに,それぞれの事例において,プランを 立て,実施し,見直すというプロセスを繰り返していく過程の中で,環境づくりに向けて, 画一的に「する」とか「しない」という対応ではなく,生徒の社会的自立や社会的な繋がり を回復するためには何ができるのか,何をしないといけないのかについて何度も確認しなが 支援を検討した.また,「連携ネットワーク」については,生徒およびその家族を取り巻く 社会関係を包括的に捉え,ネットワークをマネジメントしていく機能が必要であった.本事例 においても,本生徒が必要としている支援について見極め(アセスメント)を行い,適切な 機関や人的資源に繋いでいった.その際,ただ繋ぐだけではなく,繋いだ関係を維持,発展 させる連携のネットワークを目指した.また,不登校の原因を特定の保護者の特有の問題のみ に見出そうとはせず,子育てを支える仕組みや社会環境に目をむけつつ,保護者の個々の状 況に応じたネットワーク構築を行った.さらに,ネットワークの形成・発展において,生徒 自らが進路を主体的に選択し,社会的に自立する姿を捉える事が必要であり,スクールソー シャルワーカーの社会的自立に向けた発展的なネットワークの形成の重要性について示唆し た.また,エコ・マップに時間的要素を示すこと,すなわち生徒の発達や成長に関する内容 を示すことで,それぞれの子どもの発達や成長に合わせた支援,さらには今後の支援の方向 性についてより明確に把握することが可能となり,スクールソーシャルワーク実践における 支援の幅の拡大につながることを示唆した.

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