自由研究発表児童福祉3  野中 勝治

パワー交互作用モデルを基盤としたケースマネジメントの有効性について
 ―特別支援教育における学校-家庭間の協働支援を通して―

福岡県立大学大学院  野中 勝治 (会員番号7550)
キーワード: 《権威的》 《権力的なパワー交互作用の改善》 《パワー交互作用モデル》 《ケースマネジメント》

1.研 究 目 的

 近年、不登校・いじめ・非行・学級崩壊・発達障害など、学校現場で見られる児童生徒の 課題が深刻化している。その背景には、家族・学校・地域の協働が十分に機能していないことか ら生じる二次的課題も多く、それらが子どもの最善の利益や教育権を侵害し、問題をより複雑に している。また、障害児教育に対する関心が高まりを見せており、特別支援教育においても学校 ・家庭・地域間の協働体制の確立が急務の課題となっている。
  文部科学省(2003)の「今 後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」において、「障害の程度等に応じ特別の場で 指導を行う「特殊教育」から障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じて適切な教育的 支援を行う「特別支援教育」への転換を図る」こととした。また、基本的な考え方として「障害 のある幼児児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取り組みを支援するという視点に立ち、 幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズを把握し、その持てる力を高め、生活や学習上の困難を改 善または克服するため、適切な指導及び必要な支援を行う」と示している。しかしながら、特別 支援教育に対する教員の意識調査では高い関心がある反面、漠然とした不安があり、職務内容や 教職経験によって特別支援教育に対する意識に差異が認められている(例えば、下無敷(2005) らの調査)。
  また門田(2007)は、わが国の「個別の教育支援計画」を実施していくうえ で、「①学校・保護者・関係機関の協働に際しての調整機能、②生活支援を要する子どもに際し てのケースマネジメント支援」といった学校ソーシャルワーク(以下、SSW)の役割機能が求めら れると述べている。
  以上より、本研究では特別支援教育における学校-家庭間の協働支 援を目的としたSSW実践において、門田(2000)のパワー交互作用モデルを基盤としてケースマネ ジメントを手法として介入を行った事例について、Evidence-Based Practiceの観点から、その 有効性を明らかにしていくことが目的である。

2.研究の視点および方法

 本研究では、特別支援教育を要する児童生徒・家庭、また学校に対して、筆者が学校ソー シャルワーカー(以下、SSWr)として支援を行った3事例について研究・分析を行っていく。ま た、本研究の対象を①小学校中・高学年児童、②障害の種類を「情緒障害」、③特別支援教育 のうち「特別支援学級」を必要とする児童・家庭に限定した。
(1)ケース概要

(ⅰ)対象児童A
  小学校4年生の女子児童であり、家族構成は父親・母親・弟の 4人家族である。小学校低学年より欠席日数が慢性的に多く、4年生より欠席日数の増加が 深刻となり、不登校となった。母親は、本人が幼少時より行動面や情緒面の気づきを感じ ており、様々な医療機関や支援機関へ相談しているが、学校側は家庭の養育環境に要因が あると考えている。
(ⅱ)対象児童B
  小学校5年生の男子児童であり、家族 構成は母親・姉・兄の4人家族である。本児は、小学校入学時より年間欠席日数が30日を超 える不登校であり、登校してもほとんどが遅刻の状態にある。在籍小学校の教職員が、家 庭への電話連絡・家庭訪問を行い、関係形成を図っているが希薄な関係性が続いている。 また、本児の学校内の課題として、低学力や他児童への暴力行為などが教職員より挙がっ ている。
(ⅲ)対象児童C
  小学校4年生の男子児童であり、家族構成は父親・ 母親・姉の4人家族である。小学校入学時よりほぼ毎日の遅刻があり、今年度より欠席日数 の増加による不登校となった。保護者が登校させようとすると途中で引き返したり、隠れ ていたりすることや、また家庭内では暴れたり、物を壊したりすることがある。学校では 無口で、ほとんど声を出すことがない。幼少期は、幼稚園の時も登園しぶりがあった。保 護者の話では、言語の音による聞き取り間違えは現在でも多い。在籍小学校の教職員など が家庭訪問の際には本人は狭い場所や椅子の下などに隠れていることが多い。
(1)支援方法
  本研究では、パワー交互作用モデルを基盤としたケースマネジ メントを用いた支援を展開していくうえで、以下の手順で行った。まず、①学校(担任教諭・ 関係職員など)、家庭(本人・父親・母親など)、関係機関とSSWrによる面談・協議により得 られた情報をもとに、パワー交互作用モデルにおいての権威的・権力的なパワー交互作用の分 析を行う。これにより、権威的・権力的なパワー交互作用の状況改善を図っていく。次に、② 権威的・権力的なパワー交互作用による状況を改善するために支援計画を立てていき、③検討 された個別支援計画に対して関係機関が役割分担を行い、実行していった。そして、④一定の 取り組み後、ケース会議を行い、権威的・権力的なパワー交互作用の状況改善の評価・見直し を行い、その後、次なる支援目標への展開のため、情報収集・分析、支援計画の策定、介入、 評価・見直しといった一定の過程で行う。以上のようなケースマネジメントの過程にて行う。
  なお、筆者がSSWrとして行った実践活動のうち、2008年4月~2009年9月の約1年6ヶ月 を対象期間として研究を行った。

3.倫理的配慮

 本研究では、日本社会福祉学会の研究倫理指針に基づき、プライバシー保護の観点から 対象生徒・家族を特定出来ないよう匿名化して使用する。また、事例内容についても研究趣旨 の範囲内で一部加工を行い、個人情報の取り扱いには細心の注意を払った。

4.研 究 結 果

 本研究において、パワー交互作用モデルを基盤としたケースマネジメントを手法とした SSW実践を展開していくにあたり、それぞれ3事例に共通して、以下のような結果が見られた。

(1)対象児童の学校出席率の向上
  SSW実践の介入以前は、全体的に欠席日数が多 く不登校児童であったが、ケースマネジメントによる展開を通して、学校-家庭間の共通 認識や協働・連係後、すべての事例に共通して、欠席日数の大幅な減少に至った。
(2)本人・保護者・学校関係者の意見・感想の変容
  長年にわたり、学校-家庭間 の対立や相互理解や共通認識の未形成が顕在化されていたが、支援を展開していく過程 において、それぞれの立場を肯定・受容する意見・感想の変容が表れた。
(3)学校-家庭間の主導による積極的な関係形成
  ケースマネジメントによる支援 を展開していくにつれ、様々な場面で学校-家庭間の積極的な情報交換や電話連絡、家庭 訪問等が行われるようになった。

5.研究の考察

 特別支援教育における家庭-学校間の協働支援を目的としたSSW実践を行った本研究にお いて、家庭-学校間の関係形成や状況の好転に権威的・権力的なパワー交互作用を改善する「 パワー交互作用モデル」が大きな拠り所となったと考えられる。

(1) アドボカシー活動
  学校-家庭間の対立等により、パワーの減退した児童・ 家庭の抱える状況を改善するために、SSWrによる権威的・権力的パワーの行使者や状況 改善の協力者に児童・家庭の状況理解の促進のために代弁および権利擁護を行った。
(2)エンパワーリング
  学校等からの否定的評価により、児童・家庭のパワーの 減退を改善していくため、ケースマネジメントによる支援の展開を行い、環境の改善を 行った。
(3)サービス調整
  児童の学習保障を目的としたSSWrによる関係機 関や関連サービス・制度を活用したサービス調整を行った。

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