自由研究発表児童福祉3  倉石 哲也

学齢期子育て支援講座の即時的効果と持続的効果に関する研究

武庫川女子大学  倉石 哲也 (会員番号1618)
キーワード: 《子育て支援講座》 《即時的効果》 《持続的効果》

1.研 究 目 的

 本研究の目的は、学齢期の子どもを持つ親への子育て支援講座の即時的効果と持続的効 果について明らかにすることにある。我が国では子育て支援を目的とした講座は数多く開かれ ているが、その効果の検証に関する研究は、講座開催の活発さに比べ盛んであるとは言い難い 。多くは講座終了直後のプログラムへの評価であり、親の変化や親から見た子の変化或いは親 子関係の変容とプログラムとの関連性を検証したものは少ないと言えよう。本研究は、発表者 らが開発した子育て支援講座の即時的効果と持続的効果を検証し、学齢期子育て支援講座の意 義について効果の側面から明らかにしようとするものである。

2.研究の背景-学齢期に子育て支援の意義

 発表者らは、学童期の子どもへの不適切な関わりや子どもの初期非行化に着目したA市社 会福祉協議会から委託を受け(2000年度)、学童期の親子関係の諸課題を解決することを目的 とした「学童期子育て支援講座」の開発に着手した。2001年度から実施し始めた講座は、子ど もへの親の共感が促進することを目的としたプログラムとして現在定着している。発表者らは 参加した親の訴えから、学童期の諸問題は幼児期にその兆候が見て始めていることを認識し、 2008年度より講座名をParents' Empathic Communication with their Children in Kobe;以下 、通称PECCK)と名付け、対象を幼児期に拡大した。
  本研究において学齢期とは、幼児 期(概ね3・4歳)から学童期までの時期と規定する。この規定は、乳幼児を対象とした子育て 支援が展開される中で、小学校入学前後を対象とした支援に「切れ目」が生じているという認 識に立脚するもので、子育て支援の連続性を意識した規定である。子どもが幼稚園(保育所)や 小学校に所属し始めると、子育てを巡る課題やその解決場面は地域から所属集団に移行するが、 親の子どもへの期待や子育ての苦悩が個別化し始めるこの時期は、所属集団で親の孤立を招く 傾向にあるといえる。親集団の孤立から、親は感情コントロールが困難となる可能性は否定で きず、年齢にそぐわない期待を持つと不適切な養育(Mal-Treatment)に発展する危険性も生じ る。学齢期における子どもの育ちや子どもへの関わりを学ぶ場が、切れ目のない子育て支援と して地域に展開する意義は大きいと言えよう。

3.研究の経過

 PECCKは、子どもへの共感を促進させる「きっかけ」を作ることを主な目的とし、これまで の親子の行き詰まりのコミュニケーション・パターンに「気づく」→そのパターンを「変化させ てゆく」ために体験型学習を中心に据えている。そして、親が子どもの気持ちを理解すると同時 に、子どもとの新たな関わりが獲得されることを目標としている。
  発表者らは、2001年 度から7年間(21期)継続しているPECCKにおいて、終了時に行っていたアンケートを分析し、 親自身の変化と、親から見た子どもの変化について検証を行った。その結果、親自身は'感情の 統制''子どもとの向き合い''コミュニケーションの促進'などに効果を感じており、親から見た 子どもの変化では'情緒の安定''衝動のコントロール''自主性'などに効果を感じていることが明 らかとなった(日本社会福祉学会第56回全国大会)。そして講座全体とプログラム内容との満足 度の相関を検証した結果、ロールプレイを中心とした「体験型学習」は、講座の満足度と相関 (.725 p<.01)を示しており、参加者が感じた親自身の変化と子どもの変化に寄与しているので はないかという結果を得た。2008年度からは、地域における開催ニーズに対応するためにPECCKの 短縮版を開発し、プログラムのアウトリーチを試行始めたところである(日本子ども家庭福祉学 会第10回全国大会)。本研究ではPECCKの持続的効果に着目し、学齢期の子育て支援が講座終了後 に参加者に与えている効果或いは影響について分析し考察を試みる。

4.研究の視点および方法

 持続的効果については、M.Suzanne Zeedykらが実施しているインタビュー調査を採用した。 これはアンケートから回答を得るという平面的な認識ではなく、講座終了後の親と子の変化と生 活全体の変容を立体的に認識するためである。対象は、講座の記憶が保持されていると推測でき る、2年以内の修了者50名とし、調査の目的とインタビューの主旨を記した文書を送付し、同意 を得た20名に40分~1時間の個別インタビューを実施した(2009年5~6月)。インタビューは、 ①参加時のPECCKへの期待、②PECCKから学び、③現在継続している変化、④継続困難な事柄、⑤ 参加後の生活の変化、⑥プログラムへの提案、を中心に半構造化面接で行われ、内容は録音され た。録音された内容を逐語録に起こし、意味があると思われる内容を抽出し質的分析を行いカテ ゴリーに分類した。

5.倫理的配慮

 講座終了後のアンケートは、主催者が参加者に目的を説明し同意を得たうえで、またイン タビューは、依頼文書で目的を説明し了解を得たうえでそれぞれ実施している。録音については 、目的を説明し内容分析においては匿名性に十分に配慮することを口頭で説明し、了解を得た上 で実施した。

6.研 究 結 果

 インタビューの結果から、PECCK終了時に明らかとなった即時的効果が参加者に一定持続 していることが明らかとなった。家族関係の肯定的な変化や人的サポートの広がりを感じてい る親も多く見られた。一方で子どもの成長に伴う課題に直面し、講座の学びを生かそうとして いる親がいることも判明した。結果から、PEECKが参加者に持続的効果をもたらしていると言え る可能性はあるが、今後更に詳細な分析と検証を行う予定である。
(参考文献)
M.S.Zeedyk.,et,al'One Year On: Perceptions of the Lasting Benefits of Involvement in a Parenting Support Programme'Children & Society Volume22, 2008 pp.99-111

↑ このページのトップへ

トップページへ戻る


お問い合わせ先

第57回全国大会事務局(法政大学現代福祉学部)
〒194-0298 東京都町田市相原町 4342

受付窓口

〒170-0004
東京都豊島区北大塚 3-21-10 アーバン大塚3階

株式会社ガリレオ 学会業務情報化センター内
日本社会福祉学会 第57回全国大会 係

Fax:03-5907-6364
E-mail: taikai.jsssw@ml.gakkai.ne.jp