子育て意識と子育て支援についてのニーズ調査-日韓比較研究
福岡県立大学 細井 勇 (会員番号1437)
キーワード: 《児童福祉》 《子育て意識調査》 《国際比較研究》
日韓両国は、少子化問題とその背景をほぼ共有していると考えられる。即ち、①都市化等に伴う非行式な子育て支援
体制の後退、にもかかわらず子育てのための社会的環境が未だ十分には整備されていないこと、②伝統的男女の役割分業
意識の根強さ、③母子家庭に集中表現される貧困、④経済のグローバル化の中での規制緩和策、そこからもたらされる若
年層の非正規雇用化等である。
以上のような少子化問題とその背景をほぼ共有していると考えられる日韓両国、そこでの「子育て意識と子育て支援に
ついてのニーズ調査」を、都市部における比較研究として実施した成果を報告し、比較研究から浮かび上がる日本の特徴と
課題を改めて検討する。
日韓比較研究、それも都市部の比較研究をするため、福岡県立大学側の研究プロジェクト(代表細井)と大邱韓医大学
校児童福祉学科で、「子育て意識と子育て支援についてのニーズ調査-日韓比較研究-」について共同契約書を結んだ
(2007年)。調査内容、調査方法を双方で確認の上、福岡市(2007年夏)と大邱・慶山市(2008年夏)で調査を実施し
た。即ち、就学前の児童を養育する保護者へのアンケート調査を実施するため、保育所、幼稚園に協力を求め、保育所
・幼稚園を通じてアンケート用紙を配布・回収する方法を採った。回収率は日本側87.1%、韓国側76.0%であった。
調査票=調査項目は、出来るだけ共通にした。日本側調査では、公立保育所において世帯構成や親の就労実態等の調査
項目についえ理解が得られなかった。このため、やむなく二種類の調査票となってしまった。結果としての調査対象
(調査票の回収状況)は以下の通りである。世帯構成や親の就労等を調査できたのは日本では743人であった。
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福岡市(日本) |
大邱・慶山市(韓国) |
私立保育所 公立保育所 私立幼稚園 公立幼稚園 |
(5施設)493人 (493人) (2) 161 (3) 250 (250) |
(4施設)248人 (2) 168 (3) 187 (3) 151 |
計 |
904人 (743人) |
754人 |
調査の実施にあたっては、調査対象者のプライバシー・人権保護の観点から全て匿名での回答とした。データの管理 については共同契約書にも明記した。
4.研 究 結 果(1)回答者(ほとんどが母親)の年齢階層 = 日本では、30~34歳代が最も多いのに対し、韓国は35~39歳が56%を 占めた。
(2)居住年数 = 日本では、10年以上同一地域に居住が66.7%。これに対し韓国では24.3%であり、移動性がより 顕著であった。
(3)世帯構成 = 日本では核家族は78.2%。父子家庭2.3%、母子家庭8.6%、三世代以上7.8%。韓国では、核家族 84.7%、父子家庭1.7%、母子家庭1.3%、三世代以上10.7%であった。韓国側の母子家庭割合は実態を反映していない と思われる。
(4)日常的な子どもの世話 = 日韓とも、主な子育ての第一位は母親であるが、韓国では、父方の祖母が5.8(日本 は0.7)%あった。第二位では、父親53.9(日本は48.7)%であった。男女役割分業意識の強い両国であるが、韓国の方 が、父親、父親方の祖母の役割が大きいようである。逆に日本では母方の祖母の役割が大きくなっている。
(5)母親の就労と就労形態 = 母親の就業率は、日本では69.6%、韓国では48.3%であった。韓国では日本以上に男 女の役割分業意識が強いことがうかがえる。母親の就労形態では、正規雇用は日本で28.7%、韓国46.2%であった。パー ト・アルバイトは日本53.4%、韓国9.1%であった。なお自営業・副業の占める割合は男女とも韓国が高い。
(6)帰宅時間 = 帰宅時間では、日本の父親の帰宅時間は韓国より遅く。日本の母親の帰宅時間は、韓国よりも早く なっている。正規雇用における長時間労働は日本においてより顕著ということであろう。
(7)学歴 = 大学卒業の割合は父親では4割と日韓で違いはない。しかし母親では日本14.1%に対し韓国28.9%と大 きな違いがあった。
(8)子育てと家事の分担の現状と意識 = 日韓とも男女の役割分業の実態が顕著であるが、理想のあり方として役割 分業の是正を求める意識は韓国側の方が高い。
(9)理想の子どもの数と現実の子どもの数 = 日本では理想は3人、現実には2人というのが最も多いという調査結果 であった。韓国では、理想も、現実も2人との回答が最も多く、理想と現実との隔たりは少なかった。
(10)子育て支援サービスへのニーズ = 日韓とも、子育てへの経済的支援を求める声が最も多かった。日本の社会 保障制度が社会的公正に寄与していない一つの大きな要因は児童手当制度が子育て費用の社会化としてほとんど機能し ていないことに求められよう。また、最適基準で提供されるべき個別的な子育て支援サービスは、世帯構成、子どもの 年齢、子どもの健康状態や障害の有無等によって異なってくることが示唆された。