遊びの価値を伝えるホスピタル・プレイ・スペシャリストの活動
脊髄性筋萎縮症のこどもと重複障害者に対する遊び支援を通して
静岡県立大学短期大学部 松平 千佳 (会員番号2557)
キーワード: 《ホスピタル・プレイ・スペシャリスト》 《遊び支援》 《遊びの価値》
文部科学省が公募した「社会人の学び直しニーズ対応型教育推進プログラム」に選ばれ
、平成19年度より、本学ではホスピタル・プレイ・スペシャリスト(以下HPS)の養成事業
に取り組みながら、病児のwell-beingという視点で見た場合、まだ改善されなければならない
小児医療のあり方を改善するための研究を進めている。
HPSとは、遊びをツールに
病児や障害児、またその家族が、医療とのかかわり経験がより肯定的なものになるよう小児医
療チームの一員として支援する専門職のことである。
2週間にわたる講義の内容を一
部紹介すると、・病児と遊び、・病児の療養環境をノーマライズするためのかかわり、・HP
Sの役割と専門性、・慢性疾患の子どもに必要な遊び、・救急病棟における子どもと遊び、・
隔離病棟の子どもと遊び、・デストラックション(デストラックションとは、採血などの医療
的処置から気をそらし、不必要な恐怖心を子どもが感じないように支援するための、痛みの軽
減テクニック)・プレパレーション(プレパレーションとは、病児が処置や手術に向けた心理
的な準備を作り出すための方法論である)・家族支援、・薬物を使わない痛みの軽減方法など
、およそ30のテーマ別講義および演習がおこなわれている。
HPSの役割を大まかに
整理すると、1.プレイルームやベッドサイドでの日常の遊びや療法的な遊び・活動を計画す
る。2.発達段階に適した目標を達成できるように遊びを提供する。3.子どもが入院や治療
を通して感じる不安や恐怖に対処できるように支援する。4.子どもが治療に対して心理的に
準備できるように遊びを用いて支援する。5.家族やきょうだいの支援(ファミリーセンター
ドケアの実現)6.グリーフ・ケア。7.遊びを通した観察により、小児医療チームの一員
として治療計画に参画する。8.病児に遊びのもつ価値を伝えることの8つがあげられると考
える。
今回の研究は、HPSの役割として8つ目にあげた、遊びの価値を伝える役割
と遊びの価値について、本学が養成したHPSが始めた「遊び支援活動」を通して研究発表を
おこなう
HPSに関する研究を進めていく中で直面した課題を精査していくと、それ
は遊びの持つ意味や概念が関係者間で共有化されていないことに多くが集約できると考えるに
いたった。遊びに対する誤解、つまり「遊び」は「まじめ」の反対軸にあるという考えや、
余剰的なものであり支援の本質には必要がないという考え方が、小児医療における子どもの
well-beingの充実を妨げる一つの要因ではないかと現在考えている。
今回の発表は
、本学が養成したHPSが始めた、難病をわずらう子どもに対し遊びをツールに支援をおこ
なった2事例と、視覚障害と知的な障害を併せ持つ2名の障がい者に対しておこなった遊び支
援を通して発表する。
難病の子どもは2名とも5歳以下でSMA(脊髄性筋萎縮症)とい
う病を患っている。人工呼吸器をつけた学齢期以前の子どもたちが、在宅でどのような生活
を送っているのか、行動が著しく制限される子どもたちやその家族にとって、なぜ遊ぶこと
が難しいのか、遊びがいかなる意味を持つのか、そして遊びを使った支援の結果どのような
効果がもたらせられるのかについて、明らかにしていきたいと考え研究をおこなった。また
、施設で生活する視覚および知的の重複障害の方にとっても、遊び支援の果たす効果につい
て明らかにするとともに、遊び支援が施設内に位置づくためにはどのような課題があるのか
について、HPSがおこなったセッションとその準備をとおして明らかにしていく。
研究にあたり、対象となる個人に研究の目的と内容について十分に説明して理解を求 め、了承を得ている。また、対象となる個人の人権擁護のための配慮として、データ収集や 処理、発表に紹介する際の匿名性を保証している。
4.研 究 結 果 病児であろうと子どもゆえ必ず必要な遊び。病児にとって遊びは、治療や処置の経験
を肯定的なものとして受け止められるよう、子どもの人格を守り、安心感を作り出すために
必要な活動である。今回の研究を通して、人工呼吸器による行動の制限があっても、大人の
工夫次第でその子どもはいくらでも遊べること、またその遊びを通して子どもはたとえ病気
があっても成長発達していくことが明らかになった。また、発達にあった当たり前の遊びを
遊んでいるわが子を見て、家族は当然のことながら喜ぶのだが、それだけでなく、子どもと
一緒に遊ぶことによってわが子のもつ可能性に焦点を当てたり、子どもと共通体験が出来た
満足感を得ることにつながった。結果、親子の意思疎通が深まる結果となった。
福祉施設で継続的におこなわれている遊び支援によって、重複障害を持つ方が、これまで
見せたことのない豊かな表情や感情の表出を見せている。また、最初は懐疑的な様子であっ
た介護職員も、いつもはただ一日中布団に包まって過ごしている者が、いすに座り集中して
遊ぶさまを見て、遊び活動の持つ意味と、本来あるべき福祉施設における「支援の目的・
目標」について改めて考えるきっかけになっている。
HPSは、遊びの価値を伝え
るという責任を担った専門職である。ともすれば命を保障するためという大儀の下に、阻害
される可能性のあるアドヴォケーション活動である遊びが、病児や障害児の生活の中心にお
かれることの重要性が働きかけによって明確になった。