家庭訪問型子育て支援ボランティアの有効性と課題
-ホームスタート方式による支援を中心に-
○ 大正大学 西郷 泰之 (会員番号2610)
日本社会事業大学専門職大学院 宮島 清 (会員番号6344)
キーワード: 《子育て支援》 《家庭訪問》 《ボランティア》
わが国では、入所型や拠点型の子育て支援サービスの整備は着実に進んでいる。しかし
こうした支援拠点等に出て来ることのできない保護者や孤立した保護者への支援、保護者の気
持ちに焦点を当てた支援、そして子育て困難家庭ではないがストレスのある1次予防から2次
予防の必要な家庭への支援に焦点化した継続的な自立支援のための取り組みはほとんど見られ
ない。
専門家やボランティアによる家庭訪問型子育て支援を含むホームビジティング
というアプローチは、全世界的にその必要性が認められ広がりを見せている新しい支援形態で
ある。また、わが国では、子育て支援活動に取り組む市民層の力量が高まってきており、こう
したボランティアによるサービスの担い手としても期待できるようになってきている。加えて
、各種の先行調査研究でも当事者による支援は孤立感の解消、エンパワーメントに高い効果を
もつことが明らかになってきている。
こうした状況の中で、訓練を受けた専門性のあ
るオーガナイザーのもと、「傾聴」と「協働」を主な活動とする、問題の発生予防を目指した
、当事者参加による、家庭訪問型子育て支援ボランティア(ホームスタート)のわが国での有
効性と課題を明らかにしたい。
ボランティアによる子育て当事者参加型支援の効果測定について重視する研究とした。
研究の方法としては、ホームスタートに関する文献研究と、全国4か所(大分県豊後
大野市、熊本県城南町、東京都江東区、東京都北区)で14家庭に訪問することでホームスタ
ートの試行を実施した。本試行の実施の評価は3つの方法(①各試行地域でのヒアリング、②
訪問終了後のアンケート調査=利用者・ホームビジター・オーガナイザー・保健師対象、③最
終評価シートの集計)で実施している。
家庭訪問及び記録にあたっては、当該家庭から書面で同意を得、また収集した個人情報 の保護とデータの公表にあたっては個人が特定されることの無いよう配慮を行った。
4.研 究 結 果(1) ホームスタートの利用目的
新しく子どもが生まれることで家事や育児にかかる手間が増え、今まで通り家事がまわ
らないことに対する不安や戸惑いに起因するニーズが多かった.つまり、利用者の利用目的と
しては、育児困難のニーズに対応しているというより、「安定した子育てのための支援」を期
待しているケースが多い。
(2) ホームスタートの成果
利用者からは「子どもがよろこん だり家事が進んだ」「主婦のぐち、ぼやきに付き合ってくれました」「ママ友達に話せないよ うな話をすることもできて私のストレスも大分ゆるやかになりました」などの声が多く、「必 要としているお母さんたちがたくさんいると思います」との期待も寄せられた。
* ホーム ビジターによる評価 -「人の役に立てる喜びを感じた」-
家庭を訪問するホーム ビジターにとってもやりがいにつながる様々な出会いや感動があった。「待っていてくれる」 「訪問させてもらえる喜び」「心の交流ができたような気がして心が暖まった」「成功感・達 成感があった」「人の役に立てる喜びを感じた」などの言葉がアンケート上で多く見られた。
* 行政(保健師)による評価 -「既存のサービスの間隙を埋める活動」-
行政から回収されたアンケートが少なかったことから一般化することはできないが、既存のサ ービスの間隙を埋める活動として評価を受けた。
(3) 最終評価シートによる評価 ―99% のニーズに効果―
利用者による評価のうちニーズの一部達成・全部達成を含めると 13項目中12項目のニーズの改善に寄与していた。改善が認められなかった項目は家計の やりくり上手につての項目で1件が変化なしであった。つまり14家庭の延ニーズ件数総数70 のうち1つのニーズを除いて99%のニーズに対し何らかの効果があったということができる。 また、問題が完全に解消されたとの回答を得たニーズは約6割となっている。
(4) 訪問 支援活動上の主な課題
○困難ケースと遭遇した場合などの対応原則を明確化しておくこと
○3回目ぐらいからが実質支援の開始であることを踏まえた展開を想定しておくこと
○ボランティアのできること、しないことを利用家庭に事前に明確に説明しておくこと
○オーガナイザーが業務に集中できる条件整備を行うこと
○オーガナイザーによる定期的(週1回程度)なスーパービジョンを実施すること
○オーガナイザーがビジターや利用家庭へフレンドリーに関わること
○オーガナイザーは原則女性であること(利用者が女性であることが多いので)