自由研究発表児童福祉2  植木 信一

1970年代の児童健全育成施策における母親クラブの役割
 -「官製化」の意義をめぐって-

新潟県立大学  植木 信一 (会員番号2922)
キーワード: 《地域組織活動》 《国庫補助》 《官製化》

1.研 究 目 的

 「母親クラブ」は、1948(昭和23)年に「母親クラブ結成及び運営要綱」(「児童文化 向上対策についての事項」厚生省児童局長通知)が示され、1973(昭和48)年に「国庫補助に よる母親クラブ活動の運用について」(厚生省児童家庭局長通知)が示されて以降、今日に至 るまで、継続的に国庫補助を受けた児童健全育成のための地域組織活動として存続している。
  本研究は、(1)1970年代に母親クラブの国庫補助制度が整えられ、その役割が強 化された理由は何か。(2)厚生行政は、母親クラブが内包するどのような機能を活用しよ うとしたのか。(3)母親クラブのみに厚生行政のすべての機能を期待されたとは考えにく い。では、母親クラブに期待された役割や分野とは何か。これらを検証し、母親クラブをと おして、1970年代の厚生行政における児童健全育成政策の方向性を明らかにすることを目的 とする。

2.研究の視点および方法

 旧厚生省児童家庭局育成課は、1970年代当時の厚生行政として、児童健全育成環境条件 の維持を、地域や家庭の機能を定着もしくは回復させることによってはたそうとしていたので はないか。しかし、厚生行政が直接、地域や家庭の機能に介在することには限界がある。した がって、すでに存在していた地域組織活動である「母親クラブ」に着目し、国庫補助制度に組 み込むことによって、ボランティア組織でありながら一方で「官製化」させ活用しようとした のではないか。また、厚生行政が、地域や家庭の機能に介在する一手段として母親クラブを維 持してきたのではないか。
  分析を進める手段として、財団法人児童健全育成推進財団 、全国地域活動連絡協議会(母親クラブ事務局)が保管する資料から、母親クラブに関する 1970年当時の資料・文献収集を実施した。また、資料・文献の記載内容を検証するために、国 庫補助制度設立当時の旧厚生省元担当専門官に対する聞き取り調査を実施した。

3.倫理的配慮

 日本社会福祉学会研究倫理指針に基づき、可能な限り原典主義による資料・文献収集を 行った。また、調査内容に関しては、匿名性や対象者の名誉・プライバシーに配慮した。

4.研 究 結 果

 1948(昭和23)年の「母親クラブ結成及び運営要綱」(「児童文化向上対策についての 事項」厚生省児童局長通知)は、当時のいわゆる浮浪児の課題を警察に頼るのではなく、子ど もにとっての良質な児童文化財提供を地域組織活動で実施し克服しようと構想され、児童文化 財の向上・提供を行う組織として母親クラブを育成しようとした背景があった。
   その後、1973(昭和48)年に「国庫補助による母親クラブ活動の運用について」(厚生省児 童家庭局長通知)が適用された背景として、(1)国の厚生行政が行き届きにくい中山間部 等でも、地域組織活動である母親クラブが極めて有効だという考え方があった。母子保健分野 であれば、恩賜財団母子愛育会による母子愛育班である。児童健全育成分野では、母親クラブ が役割を期待された。(2)母親クラブ活動が、「地域社会において、自らが問題を発見し、 近隣の人々の共通的理解のもとに、協働して、それを解決する体験が、今日、とかく問題とな るコミュニティ意識の形成にも役立つのである。」(1972年、高城)とされ、母親相互の親睦 を図ることによって、子どもの社会性の発達や、地域や家庭の機能を定着もしくは回復させる ことを期待された。旧厚生省はこれらを「官製化」することで、厚生行政の方向性を位置付け ようとしたと考えられる。
  母親クラブの役割として4分野の活動が規定されているこ との理由については、(1)母親クラブのみに国庫補助をつけることの議論に耐えなければな らなかったこと。(2)具体的に規定する4分野を実現する対価としての国庫補助の位置付け とした。
  母親クラブの名称と会員規定に関しては、当初、「地域における児童を持つ 母親の連帯組織」(「国庫補助による母親クラブ活動要綱」1973年)とされた。1948(昭和23) 年以来母親クラブが存在していたことと、1973(昭和48)年当時はまだ、母親の在宅率が高か ったことが予想され、地域の母親に期待できる環境条件にあると判断されたためである。
   また、母親クラブ事務局の拠点として1973(昭和48)年5月に発足した「財団法人東邦生命社 会福祉事業団」を活用することで、官製化組織の強化を図ったことがわかった。当時の当該事 業団設立準備室資料の原本(「事業団設立趣意書(案)」)を入手し、当初案から最終案にい たるまでの関係資料を比較分析した結果、事業団設立の際、旧厚生省の指導を受け、「母親ク ラブ等の児童育成地域組織および母子保健地域組織の活動に対する援助」という項目が途中追 加され、設立認可にいたっていることがわかった。
  一方で、母親クラブ活動の今日的 課題も明らかになっている(財団法人こども未来財団「地域性を重視した母親クラブによる児 童健全育成支援方法の研究」主任研究者植木信一、2009年)。約35年間の地域や家庭環境の変 化とともに、今日的課題を取り込みながらも、「官製化」組織を活用しながら児童健全育成施 策を実行する厚生行政の在り方も確認することができる。

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