自由研究発表児童福祉2  八重樫 牧子

児童館の子育ち・子育て支援に関する調査研究からみた今後の実践課題

川崎医療福祉大学  八重樫 牧子 (会員番号1335)
キーワード: 《児童館》 《子育ち・子育て支援》 《調査研究》

1.研 究 目 的

 都市化,核家族化,少子化そして共働き家庭の一般化により,子どもを取り巻く家庭や地 域社会の子育て機能や教育力が低下している.その結果,子どもや親子関係に関する問題が 深刻になってきており,子どもの育ち,親の育ち,子育てに対する社会的支援が必要性になっ てきている.2003年には「子ども・子育て応援プラン」が策定された.従来からすべての子 どもの健全育成や子育て支援に取り組んできた児童館は,地域における子育ち・子育て支援 の拠点として一層重要になっている.一方,2003年の「地方自治法の一部を改正する法律」 により,指定管理者制度が創設され,児童館にも指定管理者制度が導入された.児童館の子 育ち・子育て支援の実践に関するアカウンタビリティを果たすためには,実践を実証的に評 価し,質の高い実践(EBP)を積み上げていくことが必要になってきている.芝野は,M-D&D による児童館のグループ・ペアレント・トレーニング実践モデルの開発を試みているが,今後 の課題として,地域の児童館でできるプログラム創りのための研究開発マニュアルを作成する ことが必要性であると指摘している.
  そこで,本発表では,児童館の子育ち・子育て 支援の実践モデルを開発するための基礎的資料を得るために,M-D&DのフェーズⅠ:「問題の 把握と分析」として児童館の子育ち・子育て支援に関する調査研究の文献レビューを行い,今 後の児童館の子育ち・子育て支援の実践の課題を明らかにする.

2.研究の視点および方法

 児童館の子育ち・子育て支援に関する先行研究には,児童館の子育ち・子育て支援に関す る活動報告を内容とする事例研究や,児童館の職員や,児童館を利用している子どもや親を対 象に実施した調査研究がある.本発表では,特に,児童館の児童館の子育ち・子育て支援に関 する調査研究を取り上げる.これらの調査研究を,①全国の児童館職員を対象にした実態調査 研究,②全国の児童館職員を対象とした事業内容に関する調査研研究,③地域の児童館職員を 対象にした実態調査研究,④児童館の子育ち支援に関する調査(実態調査,ニーズ調査)研 究,⑤児童館の子育て支援に関する調査研究に分け,分析・考察を行い,児童館の子育ち・子 育て支援の実践課題を明らかにする.

3.倫理的配慮

 日本社会福祉学会の研究倫理指針に従い,自説と他説との峻別に留意した.先行研究の 著者名・文献・出版社・出版年・引用箇所を明示した.

4.研 究 結 果

 1)全国の児童館職員を対象にした実態調査研究:8つの調査研究について検討を行った 結果,従来の児童館の基本的機能である子育ち支援機能だけではなく,予防的福祉の視点にた った子どもの生活支援や子育て支援機能,そして地域活動支援機能が重要になってきているこ とがわかった.また,指定管理者制度や第三者評価が導入される中で,地域のニーズや児童の 育成課題に対応するプログラムを開発し,客観的な評価のできる質の高い児童館活動が課題に なってきていることを確認することができた.
  2)全国の児童館職員を対象とした事 業内容に関する調査研研究:6つの調査研究について検討を行った結果,児童館では様々のニ ーズに対応したプログラムを実施することが求められており,児童館の実践は,ミクロ・メ ゾ・マクロレベルの実践が展開されるジェネラリスト・ソーシャルワークとして捉えること が必要であること,特にアセスメント機能の充実が課題であることがわかった.
  3 )地域の児童館職員を対象にした実態調査研究:6つの調査研究から,地域で実施されている 児童館の設置,運営,事業内容や活動内容については,地域差があり,それぞれの地域の実 情にあった児童館活動の展開が求められており,地域差を踏まえた調査研究が必要であるこ とが明らかになった.
  4)児童館の子育ち支援に関する調査(実態調査,ニーズ調査 )研究:8つの調査研究から,児童館を利用している子どものニーズや課題に関する調査はい くつかあるが,児童館を利用することによって,子どもの心身の発達,特性そして社会性に 与える影響について検討しているものは,児童育成研究会(代表:岡本奎)や筆者の調査の みであり,必ずしも多いとはいえないことがわかった.
  5)児童館の子育て支援に関 する調査研究:9つの調査研究の分析を行った.児童館の子育て支援のニーズ調査や評価に関 する調査はいくつか実施されている.児童館においてはさまざまな子育て支援プログラムが 実施されており,その提言もなされている.しかし,実践モデル・実践マニュアルの開発手 続きに従って実際にプログラム開発を行い,実践されている児童館の子育て支援プログラム は,芝野が開発したGPTのみである.また,児童館の子育ち・子育て支援の活動を客観的に 評価し,その効果を実証しているものはほとんどないことがわかった.
  以上の分析 結果から,児童館の子育ち・子育て支援の今後の実践課題として次の6つの課題が明らかにな った.①地域における子育ち・子育て支援の拠点としての児童館,②ジェネラリスト・ソー シャルワークとしての児童館の子育ち・子育て支援,③地域における児童館の子育ち・子育 て支援のニーズアセスメントの必要性,④子どもの発達(社会性)と児童館の子育ち支援評価 との関連性の検討,⑤親の子育て不安と児童館の子育て支援評価との関連性の検討,⑥児童館 における子育て・子育ち支援の実践モデルの開発の必要性である.

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