自由研究発表児童福祉1  朴 志允

韓国における被虐待児の現状
 -地域での支援施設の事例調査から-

東洋大学  朴 志允 (会員番号5367)
キーワード: 《児童虐待》 《地域での支援》 《児童福祉施設》

1.研 究 目 的

 韓国社会では、家庭内での児童虐待に対する社会的認識が低く、深刻な社会問題になって から発見されることが多い。2007年全国児童虐待現況報告書によると、虐待類型としては、ネ グレクト、虐待者としては、実親(81.1%)が最も多い。また、その親の54.2%が無職で貧困 家庭である。最終的措置として家庭での保護(73.2%)が多いが、年々再通告数も増加してい る。現在、全国44箇所の児童保護専門機関で児童虐待事例管理、再発防止など児童保護事業の 中枢的役割を担当している。しかし、業務増加、保護機関の不足、民間委託であるため、法的 権限の不足などで、措置後の支援が不十分である。
  そこで本研究では、地域支援資源 がないまま、家庭での保護措置が最も多いことは子どもの権利擁護の視点からも今後至急改善 すべき問題であると考えた。地域で子ども支援が可能な、生活密着型社会福祉施設の「公」と しての支援、それに伴う「民」としてのアプローチや役割などを調査することで、韓国で在宅 被虐待児に必要な地域支援を考察、今後の韓国型福祉政策の課題を明らかにすることを大きな 目的とする。

2.研究の視点および方法

 韓国における児童虐待事後支援ネットワークとは、地域社会で、保護・支援が必要な、要 保護児童(被虐待児童)が家庭復帰後、地域で家族との生活ができるような総合的支援を意 味し、その支援は、地域での緒関連機関との連携によるものであろう。特に虐待者である親の 多くが無職、または単純労働者であり、加えて 貧困状態である。 つまり、貧困地域を中心と するネットワークが必要であり、特に彼らの生活支援からアプローチ可能な、地域密着型福祉 施設が今後必要であるだろう。これは被虐待児童支援のみならず、虐待予防や広い意味での貧 困政策の観点からも必要な課題であると考え、本研究の視点として取り入れた。調査方法とし て、ソウル市の貧困地域に位置し、 貧困世帯を中心とした、子ども支援プログラムを多く取 り入れている共通点を持つ福祉施設から、社会福祉館2箇所、地域児童センター2箇所を選び 、事例調査を行った。施設長、職員、との自由な話し合いを行い、利用者の様子を観察、筆者 がまとめ、分析をする。抱えている問題や現状、「公」の支援と運営主体である社会福祉法人 「民」との関係性を探ることで地域子どもを支援する意味やそれに伴う今後の支援などに関し て分析を行った。

3.倫理的配慮

 本研究は、施設の施設長の協力と同義の下で行った。子どもが利用する施設であるため、 利用者のプライバシーに侵害を与えないように、時間や場所を配慮したインタビュー調査で あった。また、施設名はアルファベットに置き換えられ、施設名が特定できない。

4.研 究 結 果

 ①社会福祉館に比べ、地域児童センターの方が「貧困地域の問題を抱えている家庭の子も 支援」を目的とし、利用する子どもの状況、追求する施設の役割や目的から在宅被虐待児童 支援に適している。②国から民間委託であるが、補助金が100%支援されないため、公的権限が 弱く、委託された法人の運営理念により福祉的視点が変わることも指摘できる。つまり、法的 根拠が同じ施設でも、運営主体が違うことで、支援内容、理念なども異なる。そのことは支援 の公平性に関与するだろう。③地域のなかで必要に応じ、企業、住民団体、ボランティアなど と断片的連携を結んでいる。しかし、公的ネットワークではないため、児童虐待問題を担当す るには十分ではなく、法的権限がないと親介入に限界がある。民間委託では、運営主体により 、現場のニーズに合わせたサービスの提供は可能だが、被虐待児支援に必要な多様で、複雑な 支援ニーズには、「公」がもつ法的根拠、組織的バックアップが要求される。つまり、公的ネ ットワークの必要性が提言できる。
  以上、貧困地域において子ども支援を行う児童福 祉施設への調査結果を踏まえ、被虐待児支援に適した施設、その運営に伴う民間委託が抱えて いる問題、公的ネットワークによる地域連携のあり方、法的根拠のあり方など考察の結果、以 下のような結果が得られた。

児童虐待の窓口となる児童保護専門機関の業務量増大、虐待増加、家庭復帰後の 支援困難さから、被虐待児童の支援を諸福祉機関と連携より、支援できるかが重要な 課題である。特に地域で在宅被虐待児支援に要求される複雑で、多様なニーズに合わ せた支援に必要なネットワーク形成が必要である。
被虐待児童に対する支援でも、特に貧困家庭で、親によるネグレクト(放任)が 多い韓国の現状では、広い意味で生活全般的支援が要求される。地域児童支援セン ターでは、現在も親からの放任が原因で利用する子どもが多いが、まだ、児童虐待問 題として捉える認識度も低く、十分な専門的支援もない。地域児童センター内に虐待 に対する専門的相談が可能な専門家配置を行い、より積極的に親へのアプローチも望 まれる。
より専門的で、積極的な支援のために、児童保護専門機関と地域児童支援センタ ーがもつ法的権限の強化が早急に必要である。児童保護専門機関に相談・通告の窓口 、最終措置までに必要な手続きに法的権限強化、地域児童支援センターに、家庭復帰 により地域で生活する子どもや親の事後支援に法的権限をもつことが重要である。
法的権限をもつには、「民間委託」だけではなく、中心的、コーディネート的機 能をもつ施設の「公営化」が望まれる。例えば中央児童保護専門機関が「公的機関」 として、法的権限をもつとより効果的で、専門的なネットワーク形成が可能であろう。

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