自治体における子どもの権利救済制度に関する調査研究
-Y自治体子ども家庭支援センターケース記録調査から-
○ 江戸川大学総合福祉専門学校 田谷 幸子 (会員番号7045)
東洋大学 森田 明美 (会員番号0646)
日本大学 井上 仁 (会員番号6187)
東洋大学大学院博士後期課程 小椋 佑紀 (会員番号5797)
東洋大学大学院博士後期課程 我謝 美左子 (会員番号6119)
キーワード: 《子どもの権利》 《子どもの相談・救済》 《子ども家庭支援センター》
現在、子育て支援や児童虐待への対応は自治体における児童福祉施策において重点化が
図られ、自治体における子どもと家族への支援体制の整備が行われている。
東京都で
は先んじて1995年より区市町村を設置主体とした、子どもとその家庭の相談窓口である子ども
家庭支援センター事業を実施し、2003年度からは虐待の対応・予防機能を強化した先駆型子ど
も家庭支援センター事業を実施し、在宅の児童虐待ケースの家庭への支援事業や、児童虐待防
止のための要支援家庭サポート事業を行っている。
子ども家庭支援センター(以下、
センター)の役割の変遷、相談内容の量的質的変化、それに伴う職員に求められる力量の変化
が生じているが、それらの変化への戸惑いがセンターおよび相談員にあり、相談員の研修の充
実が先行研究から課題として挙がっている。そのような中で、具体的に子ども家庭支援センタ
ーがどのような問題を抱え、それに対してどのような取り組みがなされてきたのかについては
これまで十分な分析がなされていない。本研究では、センターが直面している課題を具体的に
明らかにするとともに、センターの有効性や今後の有効な取り組み方法を検討することにより
、自治体における子どもの権利救済システムのあり方を提案することを目的としている。
自治体における子どもの権利救済制度について、調査協力をいただいたY自治体のセン
ターの制度およびシステムの変遷、それに伴う役割の変化、支援方法の変化を、子どもの権
利視点に立って検討を行った。
具体的にはY自治体の相談ケースについて、質的、
量的な分析を行い、相談システムの状況(家族関係、子どもあるいはその家族の相談意欲、
疾病等の有無、親子の生活実態、機関内外のケース進行管理及び連携状況、サービス利用状況
等)、関係者ネットワークの構成や会議の形態、記録様式などを検討した。調査時期は、2006
年10月~11月の新規ケースについて、2007年4月~8月にかけて相談事例調査を実施した。そ
の後のケース対応の変化をみるため、2007年度及び2008年度分についてサンプル調査を行った
。また、相談対応の仕組みについて、2007年3月及び2008年9月にセンター長、2009年1月に
係長及び相談員に聞き取り調査を実施した。
Y自治体より開示していただいた相談事例は守秘義務が厳しく要請される情報であるこ とから、情報のデータ化と保護、管理については、調査研究前段階よりY自治体及び研究グ ループにおいて検討及び調整を行った。その結果、以下の倫理的配慮を行った。①センター での転記およびその後の使用は、研究グループメンバー以外はしないこと、②転記する項目は Y自治体の倫理委員会に了承を得ること、③個人名はデータ化して個人情報を保護すること、 ④転記調査時にはY自治体センター職員に立会っていただくこと、⑤調査用紙は施錠できる場 所に鍵付きの書庫に保管をすること
4.研 究 結 果 2006年度ケース分については以下のような結果が得られた。
相談種別は、児童虐
待相談が全体の約3割、養護相談全体では約6割を占めている。相談経路は関係機関や近隣で
半数を超え、子どもの年齢は就学前と学齢期以降でほぼ半数ずつであった。ケース受理会議は
、相談事例の約7割が初回相談から1週間以内に検討対象となっており、約1割が会議での検
討対象となるまでに2週間以上を要している。会議の必要性の判断には時間を要するケースも
あり、相談を受けた相談員の判断・対応で行われている状況にあることが明らかになった。ケ
ースへの対応については、相談の動機づけが不明確、子どもやその家族と出会えていない、父
母に精神疾患がある、センターがケースの進行管理機関となっている場合に、相談員はケース
を「重い」(養護相談)、「取り組みにくい」(児童虐待を除く養護相談)、「関与度が低い
」(すべての相談種別)と感じていることが明らかとなった。このことから、相談員の力量に
よるものだけでなく、自治体における他機関との、及び庁内ネットワークの再構築、円滑化が
重要であることを導き出した。
これらの結果から、課題として、ケースマネジメント
に必要な情報の収集、かつ組織的なマネジメントをするためのケース進行管理、ケース見直し
の時期設定といったケースマネジメントの手順設定、およびそれらが確認できる記録書式の開
発が挙げられる。Y自治体のセンターでは、本調査期間内にもシステムの改善が行われ、調査
研究が実践に活かされている。具体的には、支援会議が、緊急受理会議を行ったケースは受理
会議から1週間後に、定例(週1回)の受理会議を行ったケースは4週間後に実施されること
に加えて、初回の支援会議から3ヶ月後に第2回目の支援会議が設定された。初回相談から3
~4ヶ月間に対応に困難さを抱えたケースを再アセスメントすることは、新しい視点での支援
をすることになり、ケースが有効にマネジメントされることにつながる。これらの状況につい
ては、調査結果の詳細とともに当日報告を行う。
(本研究は、東洋大学特別研究(平
成18年度~平成20年度)によるものである。)