自由研究発表児童福祉1  齋藤 知子

児童虐待死の司法福祉的分析とソーシャルワーク実践のあり方について
 ―行政の検証報告を司法の裁判記録に重ねて事例研究した考察―

白梅学園大学  齋藤 知子 (会員番号6029)
キーワード: 《児童虐待死》 《司法記録》 《ソーシャルワーク》

1.研 究 目 的

 2006年10月に社会保障審議会児童部会の下に「児童虐待等要保護事例の検証に関する専 門委員会」が設置され、全国の児童虐待による死亡事例等を分析・検証し、全国の児童虐待 への対応に携わる関係者が認識すべき共通の課題を明らかにし、対応策の提言を行うことを 目的として、これまでに第4次報告までが報告されてきた。その中で今後の課題として、①妊 娠期からの虐待予防の重要性、②安全確認の重要性の再確認、③リスクアセスメントの重要性 、④関係機関との連携のあり方の再確認、⑤きょうだいへの対応についての再確認、⑥人材の 育成及び組織体制の重要性の再確認、⑦地方公共団体における検証に関する課題の再確認など が挙げられている。しかし、上記報告書の総括の中でも述べられているとおり、「本委員会が 繰り返し提言を行い、国においてもさまざまな対応がされてきたにもかかわらず、痛ましい虐 待による死亡事例が続いており、同委員会が把握しているだけで3年半の間に約300人の子ども がなくなっており」と書かれている。また、最近の死亡事例においても同委員会が指摘した課 題等を要因として死亡に至ったと思われるものも生じてきていると述べられている。
   このように虐待死の予防対策の効果が見えてこない状況の中で、児童虐待が減少する傾向に ないのは、行政が行っている上記の報告や都道府県で行われている検証の分析の方法に不足し ているもの、偏ったものがあるのではないかと考えた。
  本研究においては、行政は何 を見落としているのか、または見間違ったのか、行政側の見えていなかった点を探るため、児 童虐待死亡事件について、警察や検察庁で作成された供述記録や公判記録等の裁判記録を分析 して、事件の加害者や関係者の事件当時の状況に近づき、子どもが死に至る前に、どの段階 で誰がどのように介入することが、死亡事件を防ぐための効果的な介入であるか、という視点 から死亡に至るプロセスの中の介入のピンポイントについて検討する。

2.研究の視点および方法
(1)先行研究・文献の研究

わが国の現状として、児童虐待死に関する研究はいくつかの領域からのアプローチが挙げ られるが、本研究においては、1)社会、文化的背景との関係を明らかにし、社会や家族の 機能との関係を理論化していく社会学からのアプローチ、2)児童虐待の加害者となる親の精 神状態や心理状態を分析し、虐待の要因を見出し、さらに予防することを研究している精神医 学・臨床心理学からのアプローチ、3)警察庁から発表されている児童虐待事件の検挙状況に よって罪種別検挙状況や被疑者と被害児童との関係、被害児童の性別や年齢等が報告され、児 童虐待死の犯罪化の過程を明らかにする視点からのアプローチである犯罪社会学、判例等が示 している法学的なアプローチ、4)児童福祉や子育て支援、児童相談所のソーシャルワーク実 践についてなどを分析・理論化し、児童虐待防止の法制度化などを論じている社会福祉学から のアプローチ、5)海外の制度等と比較した研究や、児童福祉の歴史から探る研究、新聞記事 の分析等、その他の領域からのアプローチ、として児童虐待の基礎的文献のレビューを行った 。
(2)本研究における事例研究の位置づけ
  本研究は、子どもの虐待死をできる 限り抑止するために、子どもの虐待死に至るプロセスについて、これを児童相談所を中心にし た関係機関の状況認識と意思決定のプロセスと捉え直し、行政の検証報告を司法の裁判記録に 重ねて、そのプロセスを検証することを目的とする。このような事例研究は、行政の虐待対応 ソーシャルワークのあり方を再検討する上で、重要な意義を持つと考える。
  なお、子 どもに対する親(以下、実父母、義父母、養父母、内縁関係を含む)からの虐待による死亡事 件(以下、児童虐待死と呼ぶ)について、裁判記録等などから関係者の供述や加害者の弁明な どの司法的な視点を加味して検証を行い、虐待死に至るプロセスを明らかし、有効な介入につ いて検討することを目的としているため、児童虐待については、主に身体的虐待とネグレクト が中心の議論とする。

3.倫理的配慮

 事例については、研究倫理指針に基づき、プライバシーの保護に努め、個人が特定する ことのないように表記する。また、判例については出展を明らかにして使用する。

4.研 究 結 果

 本研究では、多角的な見地から虐待死の全容に迫り、効果的・有効な介入の接点を解明 することに意義と独自性を持ち、「ソーシャルワークのあり方」については、その際に行われ る「介入」に焦点を当てた。
  裁判記録等などから関係者の供述や加害者の弁明などの 司法的な視点を加味して検証を行い、行政による検証報告に重ねて事例検討した結果、児童相 談所を中心にした関係機関の状況認識の違いと、意思決定のプロセスについての課題が示され た。
  現在は、本研究におけるプレ調査段階での発表であり、今後、さらに虐待死を防 げなかった事例を多角的に検証し、ソーシャルワークのあり方がどのように違っていたら、防 ぐことが出来たのかという視点を持って、シュミレーションすることで、実践的に効果的なソ ーシャルワークのあり方を示すことを継続して研究するものである。

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