自由研究発表児童福祉1  畠山 由佳子

市町村児童虐待在宅ケースに対する援助についてのインタビュー調査
 -家族維持を目的とした援助の実施について-

神戸女子短期大学  畠山 由佳子 (会員番号2951)
キーワード: 《児童虐待》 《家族維持》 《在宅支援》

1.研 究 目 的

 本調査は、児童虐待在宅ケースにおいて、子どもが家庭で安全に暮らせ、かつ家族が持つ 養育機能を取り戻す(促進させる)ことを目的としたソーシャルワーク実践モデル(=日本版 家族維持実践モデル)を開発するための基礎的調査の一部である。市町村における児童虐待在 宅ケースに対して行われる実際の具体的な援助について、質問紙調査での結果を元に構成され た質問を用いて、更に量的調査では捉え切れなかった部分を補い、さらに分厚いデータを収集 していくことを目的としている。

2.研究の視点および方法
(1)研究の視点

 現在、市町村で児童虐待ケースに対して行われている在宅支援には、 家族が「在宅で生活していけるために」援助している、「家族維持」の為の援助と、リスクを 「見守る」ことにより一時保護や親子分離のタイミングを待っている「見守り型」援助が混在 していると考えられる。本研究は、あくまでも視点を「家族維持」におき、現在の市町村での 児童虐待ケースに対する在宅支援が、どのような「家族維持」のための援助を行っているのか の詳細な質的データを得る事で、今後、実践モデルを開発する際の具体的な手続きのための貴 重なデータとなると考えている。
(2)研究の方法
  インタビュー対象:市区町 村において児童虐待(または児童虐待が疑われる)ケースに関する業務の中心となっておられ る方、援助の全体像を把握しておられる方にインタビューを依頼し、できるだけ複数名で参加 していただけるように依頼した。
  インタビュー方法:質問紙調査における探索的因子分析 の結果より抽出した6つのカテゴリーに対する質問を事前に用意した(半構造化インタビュー) 。質問内容に加え、インタビューの趣旨及び録音の許可、インタビューに対する守秘義務を 説明した依頼書を事前に協力を承諾してくださった市町村に送付した。インタビューは全て 調査者がインタビュー先の市町村に出向く形で行われ、各市町村1回ずつのインタビューで、 1時間半から2時間で行われた。
  分析方法:分析方法は安梅の「内容分析法」およびフリッ クの質的研究法の枠組みを参考とし次のような手順で行った。①各インタビューの録音を書き 起こし、その精度の確認を行った。 ②調査者はデータを何度も読み込み、インタビュー設問 に沿った基本的考えを確認した上で、データをそれ自体で有益であるような最も少ない情報量 を含んだ単位に単位化した(コーディング)。③各質問の回答として対応するコードをインタ ビューの質問カテゴリー(1.援助者としての態度、2.具体的な生活援助、3.家族に対するアセス メント、4. 子育てに対するサービス、5. 地域の機関とのつながり、6.医療に関するサービス) に分類した。④調査者と複数の調査協力者の手によって内容を同じくする情報単位をまとめて いく作業であるカテゴリー化を2段階で行った(小カテゴリーと大カテゴリー)。

3.倫理的配慮

 インタビューの録音については、事前に承諾をとった。また、インタビュー内容について 市町村名及び個人名が特定される形で公表されることがないことを依頼書に明記した。
また、テープおこしは、全て調査者のみで行い、個人が特定されないように、内容を損なわず に加工した上で、分析を行った。

4.研 究 結 果

 今回の発表では、分析結果のうち質問カテゴリーの中でも1.)「援助者としての態度」 と2)「具体的な生活援助」における分析結果を中心に発表する。1)「援助者としての態度 」では、次の21の大カテゴリーに分類された:1.他機関とつながりの中での役割、2.虐待ケ ースを理解する視点、3.緊急時のための環境整備、4.子どもに対する援助、5.虐待の告知 、6.相手を尊重する、7.足しげく訪問する、8.枠付けをする、9.傾聴する、10.親と援助 者の間の関係性、11.当事者参加、12.家族維持と親子分離のバランス、13.主訴の把握、14 .忍耐強く寄り添う、15.支援者の価値観の転換、16.家族の考え方や視点の転換、17.市町 村(家児相)の役割、18.援助のタイミング、19.ケースバイケース、20.本当の援助とは、 21.その他。
  2)「具体的な生活援助」では次の11の大カテゴリーに分類された:1.生 活保護、2.育児支援家庭訪問事業、3.ヘルパー制度、4.就労、5.衣服、6.SST、7.食、 8.住居、9.金銭管理、10.清潔、11.その他。
  それぞれのカテゴリーの中で、具体的 な援助手続き及び現在の在宅支援において「家族維持」のための援助を行う上での制限や困難 点について、実践に基づく貴重な「生々しいデータ」が得られた。これらのデータは、実践モ デル開発の際、具体的な援助手続きとして反映させていく予定である。

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