ホームヘルプサービスの補助方式変更と
介護保険制度への連続に関する歴史研究
-1997年~2000年の制度変化と連続性を中心にして-
上智社会福祉専門学校 寺田 誠 (会員番号5199)
キーワード: 《ホームヘルプサービス》 《事業費補助方式》 《連続性》
本研究は、わが国の代表的な在宅福祉施策として最も歴史が長いホームヘルプサービスを取り上げて、これが介護保険制度へと連続する制度の変容過程を観察することを目的とする歴史研究である。
前回の研究発表では、ホームヘルプサービスの制度変化と連続性を経年的に観察するための基礎研究を行うことを主な目的と位置づけて、文献研究によって客観的な史実を明らかにした。そして、1962年に国庫補助事業として発足してから2000年に介護保険制度が施行されるまでのおよそ40年間を研究対象とした。これを踏まえて今回の研究発表では研究対象の期間を主として副題のとおりとするとともに補助事業から保険給付としてのホームヘルプサービスへと変化ないしは連続する過程を観察することを趣旨とした。
社会福祉の制度は歴史的形成体である。歴史的連続体というも言うべき社会福祉の制度は前後の理由なく突如として現れたり消えたりという性格をもって社会に存在しているわけではない。その意味で、ある一時の断面からの理解ではなく歴史的なパースペクティブをもちながら丹念な経年的観察が必要である。本研究においてもこの視点をもって文献研究を主たる方法としてホームヘルプサービスの制度を中心とする歴史研究を行った。
本研究はあくまでも文献研究による歴史研究であるが、前述の趣旨を踏まえてホームヘルプサービスの介護保険制度への連続過程を観察するため、研究対象とする期間を主としておよそ1997年から2000年までとした。補助事業としてのホームヘルプサービスにとって1997年は補助方式に変更が見られた時点である(1997年は事業費補助方式と人件費補助方式との選択的併用、1998年から事業費補助方式へ全面的に移行)。そして、介護保険制度での保険給付としてのホームヘルプサービスは、措置の時代の補助事業としてのホームヘルプサービスを前提として改革に着手された歴史的な連続性を内包している。本研究ではその連続性に着目しながら制度変容を経年的に観察することを研究の視点とした。
本研究は、日本社会福祉学会「研究倫理指針」の指針内容A-4.に則り、原典主義による文献調査である。
4.研 究 結 果介護保険法が成立する同じ年の1997年、補助事業としてのホームヘルプサービスではこれまでの人件費補助方式に加えて事業費補助方式が開始された。この時点では実施主体の選択によっていたため、事業費補助方式に変更する場合の補助率を10/10として誘導を図ったもののあまり移行が進まなかった。そして、翌1998年からは人件費補助方式は廃止となり事業費補助方式へ全面的に移行する。1997年の事業費補助単価は身体介護型:2,860円/1単位、家事援助型:2,100円/1単位である(1単位は1時間程度)。全国高齢者保健福祉関係主管課長会議資料(1997年3月3日)によれば「家事援助単価は現行の人件費補助との均衡を考慮し、経過的に単価設定を行ったもの」と説明されている。また、全国厚生関係部局長会議資料(1999年1月19日)では介護保険制度導入を踏まえて「特に身体介護に重点を置いてサービス実施体制を整備する必要」があるとした。
その後の介護保険制度での報酬単価の設定についての議論は、厚生省資料などから読み取れる。1998年6月に「介護報酬の主な論点」、同年9月に「介護報酬の主な論点と基本的考え方(中間とりまとめ案)」が示され、翌1999年7月に「介護報酬の基本骨格」、同年8月に介護報酬の仮単価が公表された。なお、この仮単価は審議会の審議事項としてではなく2000年度の予算の概算要求に要するために「厚生省の責任において公表するもの」という説明のもとに発表された。また、訪問系サービスについて「事業者の参入を確保する観点等から政策的配慮を行い、仮単価を設定したものがある」と説明している。
そして、結果としてまとまったホームヘルプサービスの介護報酬単価の算出方法は介護報酬実態調査をもとに医療保険福祉審議会第16回介護給付費分科会(平成12年1月17日)の会議資料で説明されている。この資料によると民間事業者の1時間当たり事業コストは3,500円であり、これが基準額とされた。さらに、総サービス提供時間数の内訳を見ると身体介護と家事援助との比率がおよそ2:1なので、この比率で基準額(3,500円)を按分することにより身体介護型:4,200円及び家事援助型:1,530円に設定した(30分以上60分未満)と説明されている。なお、ホームヘルプサービスの報酬単価には間接経費や交通費を考慮して設定したとの説明が付け加えられている。
介護保険制度施行を目前にしたこの時期は、「政策的配慮」という表現にみるように事業者の積極的参入を促していた。また、この時期にはホームヘルプサービスの報酬単価に関連して、いわゆる公務員ヘルパーも民間事業所も官民同じ参入基準を設けること、診療報酬と措置費との報酬体系を揃えること、身体介護等の報酬区分を具体的にコード化すること、民間事業所の経営モデルをベースとすること、そして措置時代の補助単価からの経過措置的な報酬設定をして円滑に制度移行していくことなどが議論されていた。
ここでいう措置時代の補助単価とはホームヘルプサービスで言えば事業費補助方式のことである。したがって、ホームヘルプサービスの介護報酬単価には補助事業からの連続性をみる側面があるとともに、一方でその設定から抜け出ていないという側面がある。