自由研究発表制度・政策4  今井 久人

居宅介護支援事業所におけるケアマネジャーの定着率とその要因
-大阪市内の事業所アンケート調査から-

○ 滋賀大学経済学研究科博士後期課程  今井 久人 (会員番号6692)
大阪市立大学大学院  白澤 政和 (会員番号0769)
キーワード: 《離職率》 《定着条件》 《人間関係》

1.研 究 目 的

福祉分野では処遇の低さや過酷な勤務実態から介護福祉人材が一般民間企業などへ流出し、高い離職率を示し続けている。 併せて職員の新規採用も困難な状況から人材不足が生じ、介護サービスを展開している事業者にとっては、介護福祉人材の確 保が喫緊の課題となっている。
  国においても2007年8月に「新人材確保指針」を示し、社会福祉事業の従事者確保のための支援策を提示したが、その後 も大きな成果はみえていないところである。特にホームヘルパーに代表される介護職の離職は顕著であり、その補充も十分で あるとはいえない状況が続いている。
  このような状況を鑑み、大阪市立大学生活科学研究科では「都市問題研究」として、介護サービスを展開している事業者 (訪問介護、施設、居宅介護支援)に対して、福祉人材の就労状況および定着条件などの現状を把握するためアンケート調査 を実施した。
  本研究報告は、その中からホームヘルパーに比較して、まだ定着率の高いと推察される居宅介護支援事業者に対して実施 したアンケート調査結果より、ケアマネジャーの実態を分析し、その定着のための諸要因をはじめ研修等、人材育成のありか たを明らかにする。

2.研究の視点および方法

 研究の視点として、特に人材の定着率に注目し、定着率と相関のある設問項目について分析を行った。実施したアンケー トの設問で大きな項目としては、現在の事業者が行っている給与や福利厚生など自社の雇用条件の現状。自社の研修に対する 内容や方法、経済的な支援などの考え方。今後の人材確保・定着にとって望ましい雇用条件や要素について考えを聞いた。
  調査の概要は、以下の通りである。
1)調査対象:大阪市内で事業所を展開している全部の居宅介護支援事業者へ郵送、留め置きにて調査を依頼した。
2)調査期間:平成21年1月15日~平成21年2月16日
3)回収状況:配布数953 うち回収数 436   回収率は45.8%であった。
4)分析方法:SPSS統計ソフト(ver.13)を用い、基本統計および推計学的処理を行った。定着への工夫や考えられる 条件の自由記述は内容をKJ法で整理した。

3.倫理的配慮
 1)回答者が不利益を被らないように回収は返信用封筒にて回答後、密閉し回収した。
 2)回答者および当該事業所が特定されないように、すべて無記名とした。
 3)調査依頼書に研究代表者の連絡先を記し、担当者を配置していつでも質問に応じられるように体制を整備した。
4.研 究 結 果

1)基本項目の結果 (n=436)
  回答のあった事業所の経営形態は半数以上(56.7%)が株式会社・有限会社であった。次いで社会福祉法人が18.1%、 医療法人が13.5%であった。そのうち他の事業を行っているのは73.9%であり、その主な事業は訪問介護事業所が71.4%、 デイサービス・デイケアが37.6%とこの二つが突出している。事業所設立後の年数は5年以上が半数以上(59.4%)を占 めている。
  ケアマネジャーの人数は主任ケアマネを含み、正規職員、非常勤職員を合わせて、1人が36.5%ともっとも多い。 次いで2人が22.7%、3人が14.9%の順となっており、平均人数は2.66人であった。事務職を含む離職割合は「とても低い 」が56.2%、「低い」が21.6%と両方併せると80%近くになり、離職割合はかなり低く職員の定着がよい。
2)離職割合と現状の相関
  離職割合と相関があった現状の雇用状況等は以下のような項目である。

要因 相関係数 有意確率(両側)
①地域のサービス事業者と連携ができている 0.224 0.000
②職場外での外部が主催する勉強会や学習会などに参加できる 0.200 0.000
③事業所のミッションや経営理念がしっかりしている 0.169 0.001
④事業所に長年の経験やノウハウが蓄積している 0.161 0.001
⑤結婚や出産など私生活への配慮をしている 0.156 0.002
⑥職場内で勉強会や学習会などがあり参加できる 0.151 0.002
⑦地域の居宅介護支援事業者との連携ができている 0.147 0.003
⑧公正な人事を行っている 0.106 0.002
⑨地域で評判が高い 0.101 0.043
3)自由記述にみる定着への工夫や条件(主なもの)
・経営者や管理者が数字的なノルマなどを課さず、件数も余裕を持たせるケアマネの仕事の理解。
・現報酬単価では、採算がとれず他の事業で補填しているので介護報酬の見直し、アップ。
・内部昇格してケアマネジャーになれるようなキャリア・アップの研修体制と支援。
・女性の多い職場なので、家庭や育児などが両立できるような勤務体制。
・仕事上の悩みや問題を解決してくれるスーパーバイザー体制の確保やストレスマネジメント。
・困難事例を一人で抱え込まないよう、ケアマネジャー同士の良好な関係や事業所全体の支援。
4)考察
  ケアマネジャーにおいては、他の職種に比べて、比較的人材の定着が高いことが確認できたが、さらに職場環境を良 くするためにも要素として以下のような工夫が大切と考えられる。
  採算性が悪いため、法人内部などで経営者や幹部から存在が軽んじられており、ケアマネジメントの重要性を再度理解 してもらう必要がある。また女性が多い職場なので、仕事と家庭が両立できるような職場環境の整備や職場の人間関係の 構築も重要である。さらには、上昇志向があるので、キャリア・アップなどの研修の充実が求められているなどのいくつ かの要素が知見として確認できた。 
*当研究は平成20年度 大阪市立大学都市問題研究「大阪市における福祉人材養成システムに関する研究」研究代表者白 澤政和の助成を受けている。

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