権利擁護としての日常生活自立支援事業の現状と課題
-生活支援員の活動実態および位置づけに着目して-
○ 中部学院大学 濱島 淑恵 (会員番号3243)
中部学院大学 大藪 元康 (会員番号2548)
中部学院大学 小島 和貴 (会員番号3993)
中部学院大学 谷口 真由美 (会員番号5899)
中部学院大学 早川 潤一 (会員番号7644)
中部学院大学 加藤 薗子 (会員番号0950)
キーワード: 《日常生活自立支援事業》 《権利擁護》 《生活支援員》
社会福祉基礎構造改革の柱である利用制度への移行に伴い、1999年、地域福祉権利擁護事業(現在は日常生活自立支援事業。以下、この事業名を用いる。)が誕生した。それは、各種福祉サービスの利用を通じて、人として保障されるべき最低限の生活水準を維持し、本人の意思が最大限に尊重された生活を営む、という権利が侵害される可能性の高い意思判断能力が不十分な人々への支援、権利擁護を目的としたものであった。極めて重要な役割を果たす当事業であるが、事業が開始されて以来約10年が経ようとしているものの、その支援の実態、有効性、課題について、十分な検証が行われているとは言い難い。
そこで、本研究では当事業の現状と課題を明らかにし、十分な権利擁護を行えているか検証することを目的とし、専門員および生活支援員を対象にアンケート調査を行った。今回は生活支援員の雇用形態、資格取得状況、生活支援員の行っている支援内容に着目して、調査結果と考察を述べることにする。
2008年6月~7月、近畿・東海圏の3府県の社会福祉協議会を通して専門員および生活支援員に調査票を配布した。専門員56名、生活支援員673名に調査票を配布し、回収数は専門員40名、生活支援員387名、回収率は専門員71.4%、生活支援員57.5%であった。 回収は、郵送法で行った。調査項目は基本属性、雇用条件、取得資格、現在行っている支援の内容について尋ねた。また自分が行っている支援に対する意識、生活支援員という仕事に対する意識について「非常にそう思う」から「全くそう思わない」まで5件法で回答を求めた。
3.倫理的配慮質問紙はすべて無記名で、回収は社会福祉協議会を通さず直接大学へ返送することで、回答者の地域、個人の特定が行えないようにしている。また、質問内容は生活支援員自身のことについて尋ねており、事業利用者のプライバシーが侵害されない質問に限定した。
4.研 究 結 果第1に、生活支援員が有償ボランティアに近い位置づけであることが明らかになった。生活支援員の雇用形態は非正規非常勤が最も多く62.8%を占め、次いで登録が27.1%であり、両者合わせて約9割を占めていた。また、生活支援員としての平均月収は「1万円未満」が最も多く、73.2%を占めた。その他の手当で最も多かったのが「援助の際の実費」で38.3%、次に「通勤に関わる費用」23.7%、「ケースからケースへの移動費」10.3%であり、支給されて当然と考えられる手当も十分に支給されていない実態が明らかになった。
第2に、生活支援員が実際に行っている支援内容は多岐にわたり、日常生活自立支援事
業が設定している支援外の支援を行っている者が多数存在することが明らかになった。日
常生活自立支援事業の支援(福祉サービスの利用支援・苦情解決制度の利用支援・日常生
活の消費契約・行政手続きの支援・日常的な金銭管理・通帳や書類の預かり)のみを行っ
ているケースは25.6%にとどまり、事業の枠外の支援を行っているケースが74.4%を占め
ていた。このことから、現在の日常生活自立支援事業が設定している支援だけでは、利用
者の自立生活の支援、権利擁護は困難であり、多くが生活支援員の無報酬労働によって支
えられていると言えよう。
第3に、前述の有償ボランティア的な位置づけとも関連するが、生活支援員が有している資格の問題が示された。有している資格で最も多かったのがホームヘルパーで26.9%、次いで教員免許17.1%であり、資格を持っていない者が41.6%を占めた。社会福祉士、介護福祉士を有している者はそれぞれ2.6%、5.9%にとどまっており、生活支援員の専門性の低さが推測される結果となった。また、過去に経験したことがある仕事、活動は、「町内会・婦人会・青年団などの役員」が最も多く61.2%、次いで「ボランティア活動」55.6%、「民生委員・児童委員」43.9%となっており、福祉、医療関係の現場職員経験者はそれぞれ12.1%、6.2%にとどまった。これらの結果より、何らかの専門的な訓練を受けていない生活支援員が多く、地域活動の延長線上で支援が行われている可能性が明らかになった。
第4に、生活支援員の資格取得状況が、支援に対する認識、ひいては支援の質に影響を及ぼしている可能性が示された。「福祉系の資格を有する者」「福祉以外の資格を有する者」「資格を有していない者」の3群に分け、自分が行っている支援や生活支援員という仕事に対する意識を尋ねたところ、「専門的な知識や技術が必要」「精神的な負担が大きい」等の項目において、「非常にそう思う」「まあそう思う」と答えた者の割合が、「福祉系の資格を有する者」が最も多く、次いで「福祉以外の資格を有する者」「資格を有していない者」の順であった。資格を有していない者の支援や生活支援員の仕事に対する認識の甘さが推測できる結果となった。
生活支援員が、有資格者が少なく、低報酬、非正規非常勤(もしくは登録)という有償ボランティア的な位置づけで支援を行っている一方で、実際の支援は利用者の状況に応じた多種多様な支援の実施が求められている現状、そして生活支援員の資格取得状況によって、支援に対する認識に違いが生じていることが今回の調査で明らかになった。これらの結果より、現行の日常生活自立支援事業のみでは、事業創設の目的を十分に達成し得ているとは言い難い状況にあると考えられ、今後、事業の支援内容、生活支援員の位置づけについて再検討を行う必要があると言えよう。なお、本研究の一部は、科学研究費補助金基盤研究(C)(課題番号18530459)の助成を受けたものである。