自由研究発表制度・政策4  鈴木 道代

成年後見制度における医的侵襲行為への同意権に関する研究
-家族が同意権をもつ場合の正当性問題-

北星学園大学大学院  鈴木 道代 (会員番号7392)
キーワード: 《成年後見制度》 《医的侵襲》 《家族同意権》

1.研 究 目 的

認知症、精神障害、知的障害のように精神上の障害を抱える者を取り巻く問題の一つに医的侵襲行為に対する本人同意というインフォームド・コンセントが成立しないという問題がある。それらの者が医的侵襲行為を必要とした場合は、その必要性の判断や決定は家族や専門職による代理判断によって行われているといえる。
 精神上の障害を抱える者の「生命、身体、自由、財産等の権利を擁護する」(赤沼ら編2007:5)制度として、成年後見制度がある。この権利擁護のための制度である成年後見制度から医的侵襲行為に対する本人同意の問題を考えたとしても、同意権問題は解決されない。というのは、成年後見制度における医的侵襲行為への同意権問題があるためである。
 現在、成年後見制度では、成年後見人等には医的侵襲行為に対する同意権は付与しないという否定説が通説だが、その一方で、成年後見制度の理念に基づいて成年後見人等にも医的侵襲行為に対する同意権を付与すべきだという肯定説も主張されている状況でもある。なお、ここでの医的侵襲行為とは、検査、投薬、注射、手術等(上山2007:87)を指す。このため、成年後見制度の利用の有無に関わらず、精神上の障害がある者が医的侵襲行為を必要とした場合には、家族や専門職による代理判断が行われる。
 わが国では、特に「家族」による代理判断が主である。その理由の一つとして「家族の治療やケアへの協力・配慮が、結果として患者本人の利益になる」(箕岡2007:66)ということが挙げられ、また、実際の臨床場面では「運良く家族がいる場合は家族の同意を得てよしとし、治療を行っているケースが多い」(渡邉ら2008:2369)という。他方、家族がいない場合には、医師やその他の専門職によって何らかの判断・決定がなされていると思われる。しかし、精神上の障害のある者の代理判断を家族が務める、あるいは医師が家族に求める、医師やその他の専門職が務めたとしても、それらは家族や専門職が考えた価値判断を根拠に介入される、慣行もしくはパターナリズムであると言えよう。その介入の目的と根拠は、家族の場合は、「家族である患者の利益のために、患者のことを最も知っているのは身近にいる家族であるから」という「慣行」によって。また、専門職の場合は、「患者の利益のために、患者に必要な医療に関することを最も知っているから」という「パターナリズム」によって、代理判断・決定がなされていると考えられる。
 成年後見制度における医的侵襲行為の同意権問題に関して、否定説が通説とされてはいるが、肯定説の見解を整理した場合、「成年後見人等」「医師・弁護士等の審査機関・家庭裁判所」「家族」、それぞれに同意権付与され得るような根拠づけがある。その中で「家族」への同意権付与は、先に述べた「慣行」とどのような違いがあるのであろうか。
 そこで、本研究では、「家族」に同意権付与を可能にする肯定説の主張を整理し、その根拠の正当性を検討することを目的とする。

2.研究の視点および方法

本研究における研究視点は、①「家族」に対して医的侵襲行為に関する同意権付与を可能としている肯定説の立場の論理を整理し、②肯定説が主張する根拠の正当性を検討する。
 このことを検討することは、今後、代理人として法的に規定されている成年後見人等と、成人に対する法的な代理人としての規定がない家族や専門職の、どの仕組みが、精神上の障害がある者が医的侵襲行為場面を必要とした際の権利擁護の仕組みとして機能するのかということを示すうえで意義がある。本研究は、成年後見制度における医的侵襲行為に対する同意権問題に関する先行研究を整理する文献研究である。

3.倫理的配慮

本研究は、日本社会福祉学会研究倫理指針の定めを遵守して行う。

4.研 究 結 果

本研究の研究成果は5点である。先行研究より、成年後見制度における医的侵襲行為に対する「家族」に同意権付与を可能とする肯定説の主張を整理した結果、明らかとなったのは、①医的侵襲行為が必要な場面において、家族が事実上の判断・決定をなしているという現状を認めている。その根拠は、②民法730条、752条、877条、の条文規定を根拠として、③本人が医療を受けられない状況を招くことへの懸念、である。このように独立して家族に同意を行うことを認めるのに対して、④家族といえども利害対立の可能性が予想されることから、医的侵襲行為への同意の権限をもつ可能性ある一つとして位置づけられている「家庭裁判所」と関連させて、その状況を救済するために家庭裁判所の監督権を発動するという見解、⑤家族だけでなく、第三者としての複数の医師による同意も得るような制度を設置する、という見解に集約される。このように、肯定説では独立して、あるいは条件付きで「家族」が医的侵襲行為への同意を行うことを認めている。
 しかし、独立して家族が同意を行うことを認める根拠②は、それぞれの条文規定の解釈の仕方によって根拠として正当性を持ち得ない可能性があり、また現代社会の家族の様相からすると条文規定のみで「家族」に同意権を認めることには限界があると思われる。根拠③は、家族に同意権を認めたとしても、精神上の障害がある者に対する医療受診が確保されるとは限らないと言える。さらに、条件つきで家族が同意を行うことを認める根拠④・⑤については、条件とされている事柄(家庭裁判所の協力、第三者機関設置の可能性)を成立させる根拠が成立していなければならない(二重の条件つき)。
 従って、肯定説の主張には「成年後見人等」「医師・弁護士等の審査機関・家庭裁判所」「家族」のそれぞれに同意権を付与し得る根拠があるとされるが、少なくともその一つである「家族」に同意権を与える正当性は明確ではないということが言える。

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