自由研究発表制度・政策3  趙 没名

外国籍市民支援のための福祉専門職の確立
-その必要性と可能性をめぐって-

立命館大学  趙 没名 (会員番号4733)
キーワード: 《外国籍市民》 《生活問題》 《ソーシャルワーク》

1.研 究 目 的

外国人登録者数は全国の上昇傾向に比べて京都市の場合は2009年から遡って過去10年42,000~43,000人台でほぼ一定している。しかし、欧米主導のグローバリゼーションの高波が押し寄せている今日、古都京都でも、在住外国人の国の数はすでに108カ国に達し、そのうえ在留資格別の人口構造の高い順をみても、特別永住者をはじめ、留学、永住者、日本人の配偶者、就学等となっており、京都の町はすでに多文化共生・共存の時代を迎えてきているといえる。
 多文化、多国籍をもちながらそのうえ長期滞在傾向にある外国籍市民は、京都の地で日本人市民と同様に生活を営み、自己実現に向けて日々奮闘している反面、異文化の摩擦等が原因で、生活等をめぐって様々な問題を抱えている。
 生活問題に対して、行政や市民・宗教団体は、日本語、日本文化の講座を開き、相談事業を立ち上げるなどの従来型の支援活動を行ってきた。しかし、支援側にある行政や地域の人権意識の不足のため、支援活動に根本理念が示されず、また外国籍市民問題の必要性と緊急性への認識も欠けているため、支援活動が制度化にされず、さらに問題を取り扱う社会福祉専門職が確立していないため支援活動が体系化されていないのが現状である。
 そこで、この現状を打開するために従来型の支援方法を用いた活動の継続は無論であるが、それに加えて、ここで、京都市外国籍市民支援のための福祉専門職を確立するための施策の整備を提案する。なぜなら、①外国籍市民への支援に高い倫理観を有し、②実践的な経験をもち、③現行諸制度・施策を熟知し、さらに④諸科学に裏付けられた福祉援助技術をもった有能なソーシャルワーカーは、外国籍市民への支援を、持続的、かつ体系的なものにすることが可能だからである。
 なお、外国籍市民とは、通常"オールドカマー"と"ニューカマー"を合わせていうのであるが、「京都市外国籍市民意識・実態調査報告書」にみるオールドカマーとニューカマーの回答結果の相違を避けるため、本論文に取り上げる"外国籍市民"とは、ニューカマーに限定していることをあらかじめ断っておく。

2.研究の視点および方法

京都市で公表された公的なデータをベースに事例研究を進めるという実証方法を用いて外国籍市民の生活の現状と問題の特徴を見据えつつ課題整理を行った。

3.倫理的配慮

先行研究を尊重し、データの引用等に関してすべて出典を示すとともに、事例研究においては前もって当事者から文書での承諾を得るうえ匿名を採用した。

4.研 究 結 果

今日、京都市外国籍市民の特徴は、主に言語・文化の多様化および在留期間の長期化・定住化の傾向がある。また彼らが抱えている問題は、社会的孤立から生成し、次第に問題が顕在化と多様化になり、やがて問題が構造化になっていく傾向が見受けられる。しかし、講座型、給付型といった従来型の支援方法はすでに限界を示している。そこで社会福祉専門職による援助が必要となってくる。
 なぜなら、外国籍市民の多くが直面するビザ、婚姻、教育、労働等の問題は、いずれも専門分野のものであり、その解決も無論高度の専門知識を必要とするだけでなく、問題の構造化を考慮して、場合によってこれらの専門分野間の協働と協調も必要とする。
 このような状況のなかで、諸専門分野での独自の支援というよりもむしろ専門的職業倫理観を有し、福祉的支援に関する専門的な教育と訓練を受けてきた社会福祉専門職による専門化、体系化した社会福祉的なアプローチが効率的であり、必要である。
 戦後初期における貧困と混乱の社会情勢のなか、GHQの主導下で、ソーシャルワーカーといった福祉専門職がいち早く日本に導入された。彼らは、地縁、血縁の産物である民生委員と連携を取り合い、戦後日本社会の再建に大役を担った。後にその成果が認められ、ソーシャルワーカーが社会福祉専門職として全国で確立され、やがて社会福祉専門職に関する法律も制定されるようになった。近年、地域福祉の発展により社会福祉士、介護福祉士等のように国家資格をもった福祉専門職の活動がすでにわれわれの日常生活にも浸透してきていることは周知の如くである。
 このような既存する社会的資源を生かして、そのうえで異文化理解、異文化コミュニケーションの養成講座の受講と試験を通過し、さらに現場での研修等を修了したソーシャルワーカーが外国籍市民の福祉的支援を担うことが可能となる。

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