移動支援事業の提供体制をめぐる現状と課題
-移動支援事業者にかかる実態調査結果から-
○ 関西福祉大学 藤原 慶二 (会員番号6433)
関西福祉大学 谷口 泰司 (会員番号5575)
キーワード: 《移動支援》 《地域格差》 《障害者自立支援協議会》
本研究は、「利用者のニーズに即した『移動支援サービス』の効果的、効率的提供に関する調査研究」(平成20年度
障害者保健福祉推進事業・厚生労働省)の第3研究である「移動支援事業の効率的な運営に関する研究」を要約し、加え
て、当該研究報告以降の情況変化をふまえた所要の修正を行ったものである。
移動支援事業の位置づけが、障害者自立支援法施行とともに大きく変容したが、地域生活支援事業の一つとして柔軟
な展開が期待されたにも関わらず、財源その他の行政の方針等もあり、依然として画一的な運用が続いている。一方の事
業者においても、自律的な調整機能等が存在するわけではなく、必ずしも効率的・効果的な提供体制が構築されているわ
けではない。
本研究においては、移動支援事業をめぐる諸課題のうち、特に提供主体である事業者に焦点を絞り、その現状と課題
を検証すること、加えて、当該調査結果をもとに、地域生活支援事業の実施主体である市町村に対する提言のための基礎
資料とし、もって市町村障害者福祉行政の充実に寄与することを目的とする。
・ 兵庫県内の移動支援事業を実施する全事業者を対象として実態調査を行い、現状把握と課題検証を行う。
・ 傍証として、事業者が所在する地域の状況にかかる把握を行い、個々の要因との相関を検証する。
・ 効率的・効果的な運用の視点から、移動支援事業の提供にかかる今後のあり方の考察を行う。 3.倫理的配慮
・ 実例において個人に言及するものはない。
・ 事業者名は全てイニシャル表記とし、解析も圏域単位・法人種別単位としている。 4.研 究 結 果
・ 事業者の提供状況においては、法人種別による一定の差異が認められたが、同時に地域の特性(人口・地勢等)を
反映した差異が認められた。特に、都市部における過度の事業者集中による従事者の分散など、都市部においては人材を
有効に活用し得ない状況が生まれていることがわかった。
・ 移動介護から移動支援へと、障害者自立支援法施行とともに、その運用には柔軟性が認められたものの、依然と
して従来方式を踏襲する自治体が存在するなど、必ずしも地域生活支援事業の趣旨が活かされているとは言いがたい状況
にあった。
・ 移動支援事業においては、地域の実情を反映させた、多様な展開方法が望まれるところであり、また、都市部に
おいては林立する事業者の情報等を調整する機能が必要であるが、この機能構築如何により効率性の改善が期待されるなど
、いくつかの展望を見出すことができるものであった。
・ 障害児・者の自立支援の一層の充実を図るためには、現状の報酬体系の抜本的な見直しが必要であり、かつ移動
支援事業が地域生活支援事業として位置付けられていることから、少なくとも技術的には可能であることがわかった。また
、持続性を高めるためには報酬自体の引き上げが必要であるが、前者を合わせて財源問題が横たわる中、各地域における
社会的な関心の喚起が必要であることが再確認された。