情報格差と地域福祉に関する研究
-情報弱者としての高齢者と自治体の福祉情報対策-
○ 岡山商科大学 佐々木 直樹 (会員番号7607)
下関市立大学 難波 利光 (会員番号5287)
キーワード: 《情報格差》 《高齢者福祉》 《福祉情報》
高齢者福祉における情報化の必要性を探る。産業のあらゆる側面で情報化が推進され、いよいよ福祉においても必要
であるとされてきた。こうした需要に基づき、限定的ながらも福祉施設には介護認定、事業者支援など情報システムの
導入が進みつつある。これらは提供者側からの視点であり福祉サービス提供業務の効率化などが目的とされている。
そこで、本研究では、情報弱者といわれる高齢者側からの情報化へのニーズ把握を行い、高齢者福祉の情報化推進
にあたって情報格差の実体を調査し、ユーザーサイドからの情報化の必要性を明らかにする。
現在、日本では各地で地上波デジタル放送が全国的に開始されつつあり、ブロードバンドの普及率も90%を超えてい
る。地上波デジタル放送は映像と音声のみならずデータ放送やブロードバンドによるインターネットの情報量は充実し
ており、まさに情報化時代といえる。しかしその一方的で、地上波デジタル放送難視聴世帯、ブロードバンドゼロ世帯
も割合としては少ないものの確実に存在する。アナログ停波も2011年7月24日に迫っており、高齢者世帯がどれだけの影
響を受けるのか受けないのか調査する必要があると思われる。影響を受ける場合は、情報インフラの拡充が必要である
が、高齢者世帯への負担増はなるべく避けるべきであるため、行政の果たす役割が大きいといえる。
現在の高齢者の情報源として、アンケート調査を元に各種メディアの比率を探る。次に地デジ難視聴世帯とブロー ドバンドゼロ世帯との重複を求め、影響を受ける高齢者世帯の推定数を割り出す。そして、それらを解決するための方 法として、光ファイバー敷設の可能性を検討する。ここでは自治体行政にその役割があると仮定し、その実現可能性を 検討する。実際に全戸への光ファイバー敷設を、比較的低コストで完了したA県B市を事例として検討する。自治体行政 にとっても、なるべく負担増を小さく済ませるために、既存インフラを有効活用しているかどうか、他の公共投資より もコストパフォーマンスが高いかどうかを検討する。
3.倫理的配慮個人、業者、地域名などの固有名詞についてはすべてイニシャルとするが、推定可能なイニシャルは使用しない 。各種データについては厚生労働省及び総務省等の公的統計を用いる。アンケート調査については個人のプライバシ ーを保護し、そこから得られたデータは調査目的以外には使用しない。
4.研 究 結 果2011年度のアナログ停波以降、このままでは100万世帯規模で高齢者最大の情報源であるテレビが失われる。なお
これは電波が届くか否かであり、実際に対応受信機を準備できない世帯はさらに多くなると考えられる。先に停波を
行ったアメリカ(2009年6月12日)では、当初の予定を4ヶ月延期したにも関わらず、5日前の時点で280万世帯が準備で
きていなかった。いずれも低所得階層である。
また、代替の情報源となり得るインターネットにも、実用的に使えないブロードバンドゼロ世帯が最大で80万世帯
と見込まれる。これは地デジ難視聴世帯と地域的に重複する。また携帯電話の所有率は30~40%と低く、元々携帯電話
でのブラウジングは高齢者にとって使いやすいものではない。また通信料は従量制であり、割高でもある。よって、
該当地域の高齢者世帯では情報源が新聞や広報、近隣住民からの話、と非常に限定される。したがって情報格差は現
在よりもさらに拡大し、危機的な状況を迎えると予想される。
この2つの情報源を同時に解決可能なのが光ファイバー敷設である。デジタル情報の特質上、光ファイバーには
地上波デジタル放送とインターネット信号を同時に流すことができる。高齢者もテレビを買い換える必要は無いので
ある。
残る問題はコストを誰が負担するかである。A県B市のように自治体行政が行うことがふさわしいといえる。民間
企業は採算性の問題で、過疎地域へのインフラ整備は行いにくいといえる。一方、高齢者世帯に新たな自己負担を押
しつけることも難しいからである。一方行政側から見た実現可能性も考慮せねばならない。行政側のコストを下げる
ためには、下水道などの既存インフラの活用が有効である。また他の公共投資と比較するとかなり低額であることも
指摘したい。また、光ファイバーには地デジ、ブロードバンド以外にも教育や地域医療ネットワーク、また同じA県B
市で行われた電子投票システムなどのデータも同時に流すことができる。これはデジタル化情報の特質と光ファイバ
ーの容量の大きさによるものである。したがって、情報インフラの整備は、福祉にとどまらず住民全体への行政サー
ビスの一環として施工すべきである。