精神障害者退院促進支援プログラムの効果に寄与する援助要素の特定
と実践導入の可能性の検討
-EBSC (Evidence-Based Social Care) プログラム評価法研究班3年度目の取り組み例-
○ 日本社会事業大学 道明 章乃 (会員番号7349)
日本社会事業大学 大島 巌 (会員番号0228)
キーワード: 《プログラム評価》 《効果的援助要素》 《地域移行》
昨年度の本学会自主企画シンポジウムでは、「効果的な福祉実践プログラムモデルを構築・発展させるための方法~
プログラム評価理論・方法論の適用」を企画し、新しい社会福祉実践プログラムを、科学的根拠に基づく効果的なプロ
グラムモデルとして構築・発展させるためのアプローチ法を提示し、いくつかの福祉実践プログラムについて検討した
結果を報告した。これは、文部科学研究基盤研究Aおよび日本社会事業大学学内共同研究「EBSC(Evidence-Based Social
Care)プログラム評価法研究:効果的福祉実践モデル構築プログラム評価アプローチ研究」の中間的成果の報告であった
。本報告では、研究班3年度目の取り組みとして、精神障害者退院促進支援プログラムの評価事例を取り上げ、全国レベル
の試行調査の中で、より効果的なプログラムモデルを構築する方法を検討する。
本研究の一評価事例である精神障害者退院促進支援プログラムにおいて、私たちがプログラムの最終ゴールに設定した
のは「質の高い地域生活」「生活満足度の向上」であった。これらの達成に寄与する援助要素を、全国の先進事例に対する
事例調査と、プログラム評価理論の検討から暫定効果モデルを構築して明らかにした結果を、昨年度報告では明らかにした。
本報告では、同プログラムが全国的に標準化されるために、暫定効果モデルにどのくらい忠実に支援が行われているか
を測定するフィデリティ尺度(モデル準拠尺度)を作成する経過を報告する。本尺度の使用により、暫定効果モデルに忠実
であるほど、プログラム効果が達成されることをそれぞれの援助要素ごとに検証し、より効果に寄与するプログラムモデル
を構築することが可能になる。さらに本報告では、暫定効果モデルの援助要素ごとに、実践現場への導入可能性について検
討する。
本報告では、全国の本プログラム実施事業所との個別および集合的意見交換の場を通して、暫定効果モデルの妥当性と
導入可能性について検討した結果、および全国19施設の協力を得て実施している、暫定効果モデルに基づく1年間の全国
試行調査の結果を報告する。
私たちは、プログラム評価理論を作成する中で、本プログラムの最終目標を明確にし、既存の事業要綱等の枠組みに
とらわれないプログラムの提案を目ざしている。
①全国試行調査(2007.11~2008.2)本事業に関わる関係者間で、良い成果をあげていると評価される20事業所に対する聞
き取り調査を実施した。
②暫定効果モデルの構築(2007.3~)上記試行調査の結果、およびプログラム理論の検討結果から退院促進支援プログラム
の暫定効果モデルを構築し、それに基づいて実施ガイドライン・マニュアル案を作成した。
③意見交換会の開催(2008.8~12)先駆的かつ積極的な取り組みがなされている全国36事業所の事業担当者とともに、暫定
効果モデル、その中の効果的援助要素、実施ガイドライン・マニュアル案について計3回の意見交換をおこない、それらが
妥当と判断された。また、利用者が安定して地域で生活し、再入院をしたとしても再び退院への意欲を維持できるように
退院後の継続支援の必要性と責任の所在について議論され、効果的援助要素に新たな項目として付け加えられるに至った。
④実施状況モニタリング調査(2009.2~3)上記36事業所のうち、19か所の協力事業所に研究班スタッフが訪問し、現場で
の取り組み状況の確認、暫定効果モデルを実践に取り入れるための工夫や課題などについて意見交換をおこなった。効果
的援助要素の各項目がどの程度忠実に実践されているのかをはかるために、フィデリティ尺度を用いて各事業所の取り組
みを得点化した。
協力事業所のスタッフから本事業利用者に「自記式アンケート依頼状」、「研究の説明書」「研究参加同意書」について 説明、併せて利用者の主治医等関係者にも本研究の説明、同意を得る作業もおこなっていただいた。また、自記式アンケート 結果や経過、帰結などは、事業所によってコード番号管理がおこなわれるため、研究班は個人を特定することができないよう に配慮をおこなっている。本調査研究の実施については、日本社会事業大学倫理委員会の承認(2008.7)を得ている。
4.研 究 結 果実施状況モニタリング調査の結果、私たちがこの事業の目標としている「質の高い地域生活」「生活満足度の向上」を
達成するため、また、その前段階としての「地域生活の維持・安定」を実現するためには、事業の要綱には位置づけられて
いない「退院後の継続支援」が必要不可欠な要素であることが明らかになってきた。実際に、多くの協力事業所では独自の
努力で事業期間を終えた利用者への継続支援が必死に行われていた。また、本事業の対象者と事業所スタッフの関係づくり
や事業広報については、協力病院となっている医療機関や行政担当者の積極性や理解によって結果に違いがあることが分か
ってきた。
研究発表当日は、それぞれの効果的援助要素と事業の各効果の相関関係を報告する。また、この事業の最終的な目標で
ある「質の高い地域生活」「生活満足度の向上」を実現するために、この事業にどのような組織や実施体制が必要なのか、
暫定効果モデルを実践導入するために必要な工夫や配慮についても考察することとしたい。