自由研究発表制度・政策2  井村 保

重度障害者用意思伝達装置にかかる補装具費支給の現状
-全国身体障害者更生相談所へのアンケート調査から-

中部学院大学  井村 保 (会員番号3314)
キーワード: 《補装具》 《重度障害者用意思伝達装置》 《障害者自立支援法》

1.研 究 目 的

平成18年10月の障害者自立支援法の二次施行時より、「重度障害者用意思伝達装置」(以下、意思伝達装置)が 日常生活用具から、補装具費支給の対象に変更となり、身体障害者更生相談所(以下、身更相)における判定が必要とな った。判定においては、申請された障害者の身体機能と生活上の意味合いを含めた判断が必要になったが、操作スイッチ 等の選択や適合に関しては、義肢・装具・座位保持装置等と同程度の利用者の把握と試用評価等が必要であるが、そのノ ウハウは長年の経験が蓄積されているものではないことから、判定に困難になっているも場合もあるのかと思われる1)。
  日本リハビリテーション工学協会では、適切な機器が真に必要な障害者に速やかに支給されるようにする観点から 問題点を整理して、「重度障害者用意思伝達装置」導入ガイドラインを作成し、公開した2)。本報告は、このガイドライ ン作成過程において実施した、全国の身更相に対しての支給状況の現状や判定上の問題点に関するアンケートに調査の 調査概要と検討した問題点について報告する。

2.研究の視点および方法
(1)趣旨
  身更相における、意思伝達装置の判定が困難になっていると、言われることが多いが、しかしながら、それを客観的 に裏付ける調査はこれまでに実施されていないことから、全国(各都道府県および指定都市)の身更相に対して、意思伝 達装置に関する判定状況、判定方法等をアンケートにより調査することで、具体的な問題点を明らかにする。
(2)アンケート方法
  20年9月5日(発送)~20年10月7日(締切)にて、全国の身更相に、アンケート調査用紙(解答用紙)および 参考資料を、返信用封筒を同封の上で送付した(郵送調査法)。なお、アンケート調査用紙(解答用紙)は、直接入力され る場合の便宜を図るため、ホームページ上に、Microsoft Word形式のファイルを準備し、ダウンロード可能とした。なお、 アンケートの回収をスムーズに進めるため、厚生労働省経由で全国身体障害者更生相談所長協議会(東京都心身障害者福祉 センター)に、全国の身更相に協力依頼の呼びかけを依頼し、文書を送付いただいた。
  また、アンケート調査と前後して、先進的な取り組みを行っていると言われている地域、アンケート調査から詳細な 調査を実施することが有効と思われる地域等の7箇所の身更相に訪問調査を実施した。3.倫理的配慮

本調査対象となる補装具費支給実績は、対象者個々の状況を含むことになりうりが、調査にあたっては、個人を特定 する情報の収集は行わず、また結果公開にあたっては、統計的な数値公表や、考察によるものであり、倫理的配慮に関し て問題ないといえる。

4.研 究 結 果

アンケートは、全国の身更相75箇所に対して実施した。そのうち、回答が得られたのは61箇所(回答率:81.3%) であり、そのうち、判定実績がないと回答のあった1箇所を除いた60箇所を有効回答として取り扱う。
  18年10月の障害者自立支援法の二次施行移行後、20年8月までに重度障害者用意思伝達装置の本体の購入および 修理基準を併せての支給は、申請(判定)総数894件で(うち、支給827件)であり、申請(判定)件数ベースで、直接 判定は341件(38.1%)、書類判定は531件(59.4%)であった。
  また、判定基準がなく迷うことや、疑問に感じることなどを尋ねたとき、判定で迷うことがあると答えたのは33箇所 (55.0%)の身更相であり(主な内容は、下表参照)、これは公正・適切な判定を実施するためには、きわめて重要な 問題といえる。

 ・専用機器の解釈  9件    ・様式  4件
 ・プリンタの取扱い  4件    ・生体反応方式  6件
 ・定義・要件 7件    ・特例扱い  7件
 ・対象者  9件    ・特例扱い  7件
 ・判定  11件    ・基準額  9件
 ・方法、基準  4件    ・概要、その他  8件

 その他、全国の身更相によって判定基準が異なる点も多いことが判明した。それらの問題点を考慮して作成した、「重度 障害者用意思伝達装置」導入ガイドラインが、各身更相の公正・適切な判定の参考になることが望まれる。

参考文献
1) 高岡徹、畠中規:「重度障害者用意思伝達装置-補装具への移行を受けて」、Journal of CLINICAL REHABILITATION (臨床リハ)、16(10)、988-993、2007
2) 「重度障害者用意思伝達装置」導入ガイドライン、日本リハビリテーション工学協会、http://www.resja.gr.jp/com-gl / 、2009

付記
  本調査は、厚生労働省平成20年度障害者保健福祉推進事業(障害者自立支援調査研究プロジェクト)の補助により 「重度障害者用意思伝達装置の適正で円滑な導入を促進するガイドラインの作成」の一部として実施したものであること を付記する。

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