自由研究発表制度・政策2  井土 睦雄

福祉サービス利用における社会支援アクセス権(仮称)の確立
-知的障害者への申請主義、扶養優先からの脱・構築という視点から-

近畿医療福祉大学  井土 睦雄 (会員番号4879)
キーワード: 《人権》 《権利擁護》 《アクセス権》

1.研 究 目 的

本研究目的は、社会福祉法制が、利用者の主体的な福祉サービス選択・利用権を制限し、人権侵害問題発生の要因を備えていることを指摘することである。その一例として知的障害者に対する人権侵害を取り上げ、その問題を申請主義と扶養優先からの脱・構築という視点から検討する。そして、福祉サービス利用権を得るためには、社会支援にアクセスできる権利の保障が重要であることを提起することである。
 障害者への認識・理解は地域社会で進んだのであろうか。そして社会福祉制度は地域の支援環境を整備できたのであろうか。例えば知的障害者への虐待や自虐的な親子心中や放火、殺害、放置による餓死事件等が発生し続けている。何故このような問題が発生するのか。本研究の主題は、このような虐待問題を予防するために、人権擁護・保障視点の欠けた権利擁護制度をいかに再構築するかを検討するものである。
 形式的には成年後見制度への利用支援や第三者評価、苦情解決等の制度はできたが、虐待の本質に迫る制度の質はまだ確立していないのではないか。行政の監査も含め、専門人材の絶対的不足や労働条件、利用者の生活条件等の最低基準など、制度構造的欠陥からも見直しを迫られている問題であると認識すべきである。障害者基本法第20条では、「国及び地方公共団体は、障害者に関する相談業務、成年後見制度その他の障害者の権利利益の保護等のための施策又は制度が、適切に行われ又は広く利用されるようにしなければならない」と規定しているが、最低基準条件下において、果たして本当に福祉サービス利用権を利用者に保障できるのだろうか。
 そこで、こうした社会福祉制度自体が申請主義や扶養を優先し、当事者が主体的に福祉サービスを利用するための社会支援を受けられる保障を持ち得ていない問題を取り上げる。社会福祉法制は「個人の尊厳」を基本理念に置き、障害者の虐待への対応は「権利擁護」と規定しているが、人権擁護・保障とは規定していない。人権擁護・保障を確立するためには、財政上の限定された最低基準サービス以上の最適基準を福祉サービスの質としていかに具備していくかという問題に突き当たる。障害者福祉で起きる人権侵害の解決には、福祉制度そのものの改革が必要になる。

2.研究の視点および方法

先行文献、資料等を参考にしながら、第一に、知的障害者が法制度下における申請主義により、福祉サービス利用権が制限されていることを指摘する。第二に、様々な人権侵害が発生している原因として親族扶養・保護の問題があることを指摘する。第三に、セルフアドボカシーの理念から、自己決定の尊重と社会連帯をキーワードに、家族も含めた社会支援を保障できる人権擁護・保障のあり方を検討する。その指標として社会支援アクセス権(仮称)を確立することが、社会福祉サービス利用権の発展につながることを課題として提示する。

3.倫理的配慮

本研究では事例として裁判事案を取り上げたが、その内容はすでに裁判所や新聞報道等で個人情報も含め公表されているものの、あえて別称で記し、倫理的配慮に留意した。

4.研 究 結 果

本研究は、次のような知見を得た。
 第一に、申請主義を採り、福祉サービス事業者へは原則利用者による申し込み主義を採用している社会福祉法制は、行政責任による生活問題把握を消極的に している。また権利擁護制度では、中心を民事法に置き、利用申請がなければ社会福祉支援を得られない原因をつくっている。また利用契約における当事者 以外の家族、扶養者代行が行われ、利用者に福祉サービス選択・利用権を制限してしまう原因をつくっている。政府は知的障害者数については推計人数しか 公表せず、しかも療育手帳申請者数との誤差を生じさせたままである。厚生労働科学研究「罪を犯した障害者の地域生活支援に関する研究」が示した実態 調査では、療育手帳を所持しないまま、行政による支援からは放置されやすい実態が確認できる。これらの事実は、知的障害者にとって、職業自立の困難 性や福祉支援の不足と不安定さも含め、社会福祉法制上の権利性である「知る権利」の壁をどう克服すべきかが要請されている問題である。日本が教育 の義務化を全国民に対して法制化したことは、障害のある子どもへの実態把握と教育に大きく貢献してきた。しかし、社会福祉法制はその成果を受け止 めることもなく、利用者の生活困難性を優先的に把握することよりも、利用者個人の責任能力と情報保護を優先した施策であると確認できる。
 第二に、親族扶養優先により、保護者が、子の成人期までも、責任能力者として自活し、また後見を受けながら生活すべき人生に対して、扶養者として、また家族として本人支援を抱え込む事実を確認できる。利用契約に保護者が立ち会っている比率は高く、家族・当事者自身が権利侵害者になる恐れも生まれる。またそのことは犯罪事件へとつながることもある。
 第三に、セルフアドボカシー理念を参考にすると、利用者の権利擁護・保障を実現するためには、社会支援アクセス権を確立することが重要であると言える。
 例えば「宇都宮誤認逮捕事件」は、申し立てもなく、後見も実施されず、扶養者というだけで財産管理を名義人の思惑のまま行い、保護の事実はあっても、当事者への自己決定権の尊重が無視された事件である。また、権利擁護に関する生活実態調査(社会福祉法人全日本手をつなぐ育成会)は、第三者が行う福祉サービスやその権利擁護機関への信頼を、家族が果たしてもつことができるのかという問いかけをしている。そして家族も第三者もその支援を進展させていく一員であり、連帯による支援の必要性を提起している。
 この二例と先行文献をふまえると、申請や扶養制度の壁を前にして、利用者が社会支援にアクセスできない関係障害を抱えていると認識できる。そのことは、当事者自身の自己決定権の尊重につながる権利擁護制度へと改革する必要性を示唆している。その改革には、国家による最低基準の枠にとらわれず、憲法第13条と第25条を基底にしながら、自己選択・決定権と社会支援アクセス権を協働的に保障できる権利擁護制度が求められていると考えられる。その実現のためには、利用者が自律しながら意思を示し、福祉サービスに接近・接続するための「知る権利」と「参加する権利」を得ることが重要である。そして支援関係者と意思を共有・連帯できる公共責任基準と機関が必要である。つまり、人権にふさわしい最適基準福祉を求め、利用者個人と支援人材、機関が協働決定できるような社会支援アクセス権を確立することが求められていると考える。

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