準市場と政府の関与
-政策手段論からの考察-
早稲田大学大学院 橋本 将志 (会員番号6017)
キーワード: 《準市場》 《NPM》 《政策手段》
1980年代より、イギリスやニュージーランドなどでの行政改革により、ニュー・パブリック・マネジメント(New Public Management 以下NPMとする)と呼ばれる行政改革理論と手法が生まれた。その後、NPMは世界各国に広がり、日本にも1990年代以降、広がっていった。このNPMについて、その代表的な手法として民営化、規制緩和などと共に、準市場があげられる。社会福祉分野では介護保険の導入が、福祉の市場化ないしは準市場化と見られている。本報告では、日本でも進行しつつある準市場化に関して、政策の実施段階における政府の関与を体系的に論じる政策手段の観点から考察することを目的とする。
2.研究の視点および方法はじめに、準市場に関する理論の検討を行う。その際に、準市場の研究において引用されることの多いLe Grandを取り上げると共に、駒村康平、佐橋克彦など日本の研究を検討していく。その際に、従来の公共サービス供給方法と準市場の違いや日本における準市場の特徴を明らかにしていくと共に、従来の準市場研究では準市場という市場に対する政府の関与方法が十分に論じられていないことを明らかにしていく。
次に、政策手段論について取り上げる。準市場ではその成功の条件の一つとして市場構造、すなわち、公共サービスの供給主体の参入と退出や、供給主体間の競争の状態が問題となる。この市場構造に対する政府の関与、特に供給主体やサービス購入者への政府による関与に注目する。この政府の関与という点から議論をするために、政策手段論に注目する。政策手段論は、政府による社会をコントロール手段の体系を論じたものであり、主として政策実施の段階を研究対象としている。
そして、政策手段論の観点から準市場を検討していく。NPMや準市場によって、政府の社会に対するコントロール手法において、いかなる変化が生じたのかを明らかにしていく。
本報告は、主として理論的研究であり、先行研究によるところが大きい。よって、引用部分に関して、著者名・文献・出版社・引用箇所等を明記する。また、理論を検討する際には、客観的な立場から考察を行うことを心がける。さらに、自説と他説を峻別すべく、特に注意を払う。本報告が社会福祉研究において、新たな知見を提示できることを目標とする。
4.研 究 結 果日本の社会保障、社会福祉は、経済状況の悪化、政府の財政制約など厳しさを増している。その一方で、格差の拡大や高齢化の急速な進行など、福祉に対するニーズは増しつつあると言える。
福祉など公共サービス供給に対する政府の関与は、今後もなくなることはないと思われるが、1980年代以前のような関与方法に戻ることも難しいだろう。新たな政府の在り方として、しばしば提唱されている住民やNPOなどによる政策の決定、形成過程への参加と共に、政策の実施過程においても関与の在り方の見直しが考えられる。
政策手段論により、準市場における政府の公共サービス供給への関与を、より詳細に論じることが可能となると共に、今後の公共サービス供給の制度設計に対して、一つの考え方を示すことができるのではないかと考える。